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第二章 31

      31


 一同は大広間に集まった。もちろん主もソファに鎮座している。

「もう一度、状況を説明してくれ」主はカーテを見ていった。

「あ、はい」カーテは舌をちらとだし、口を湿らせてからはなしはじめた。「朝目が覚めてから、リールと朝食の用意をしていたんです。いつもであれば、少し遅れてイボーが厨房に顔を出すのですが、今日はなかなかやってこなくて。起きてきたルイに呼ばせにいったんです」カーテはルイを見る。

「はい。でも部屋をノックしても起きてこないし、開けてみたらいないので、どこかに出かけたのかとそのときは思いました」

「時期が時期でございますから、気になりまして、リールとルイに探してもらったんです。しかし、どこにも見つからないときいて。それで、部屋に入ってみたんです。で、いろいろ見てまわったら、箪笥の中も空で。イボーが集めていたガラクタもなくなっていました」

「だれにもいわず、出て行ったのか……」主がいう。「なぜ」

 だれも答えなかった。

 といっても、考えがなかったわけじゃない。みんな同じことを考えている。

 だれもなにもいわないので、耐え切れなくなって、ネイリンは口を開いた。

「逃げたんでしょうか?」

「なぜ」主がすぐに聞き返す。

「それは……」いいよどむ。なぜといったって、考えられるとしたら、あれしかないではないか。

「……イボーさんが犯人だった、っていうことか?」ラパルクが苦しそうにいう。

 だれもなにもいわなかった。

 事態の急変に、頭がついていかなかった。

 もしそういうことなら、どうなる?

 寝起きということもあって、頭がまわらなかった。

「イボーが……トーナス様とジーナス様を、ということなのでございましょうか?」リールが、おずおずといった様子でいった。主ににらまれ、首をすくめる。しかし、言葉を継いだ。彼なりに、思うところがあるのだろう。「私には、とてもそうは思えません。イボーは、多少鈍いところはございますが、いたって善良な人間です。そんな、人を殺めるなんて……」

「リール!」カーテが強い声でたしなめる。

 リールの発言は、イボーを擁護するためのものなのだろうが、ジーナスなら人を殺すことも考えられる、といっているようにもとれる。

「もうしわけございません。そういった意味ではないんです」叱責される前にリールはいった。

 しかし、主が口にしたものは、叱責とは程遠いものだった。

「イボーのことをなにも知らないおまえは黙ってろ」

 どういう意味なのだろう。

 しかしそれを誰かが聞く前に、主はつづけた。

「ロッテ。話を整理してくれ。儂の頭では、うまくまとめられん」

「はい」ロッテが無表情に答える。

 イボーが犯人の可能性がでてきた。それはつまり、ジーナスの無実の可能性がでてきた、ということだ。ならば、もう少し明るい表情になってもよさそうなものだが。

 犯人がイボーでも、ジーナスが生き返るわけではない。そう考えているのだろうか。

「今までは、お父様が犯人と思われていました。つまり、伯父様を殺し、石を盗んだと思われていたわけです」ロッテはラパルクを見る。「その根拠となったのは、まず、お父様のいた部屋が密室状態で、呪いによって殺されたものとしか思えなかったことです。呪いによって殺されたのなら、ケースを開けたのはお父様。あの部屋に伯父様の死体があり、他に、あの部屋に関わっていたのは鍵を持っていたと思われていたお父様だけ。つまり犯人はお父様、という理屈でした」

 ロッテは、いいですね、とラパルクを見て確認した。彼は力なくうなづく。間違いでジーナスを犯 人に仕立て上げてしまったかもしれないラパルクは、元気がなかった。だが、父親の死にまつわる不名誉が払拭されるかもしれないロッテも、そう元気があるわけではない。

「さらに、兄弟の間で殺人が起こったのなら、石は現実に存在していて、しかも鏡から出ている可能性が高い、という結論にもなりました」ロッテはここで、息を一つ吐いた。「しかし今朝になって、イボーが姿を消しました。客観的に評価して、彼の行動は怪しいものです。この事件に何らかの形でかかわっていると考えられるでしょう」

 ロッテは周りを見まわす。だれもなにもいわない。そこまではいいのだ。問題は、どのような形で、どれぐらいこの事件に彼が関与しているかだ。

「まず、どこから考えるかですが、もし仮に、お父様を殺したのがイボーだとしたら、密室をどう作成したのか、という問題が発生します」

「あれは、人為的に作るのは不可能だ」ラパルクがいう。

「それが、そうでもないかもしれません」ロッテがいった。「正直、わたくしにとって、そして恐らくみなさんにとっても、イボーは盲点でした。しかし、こうして怪しい行動をしている以上、先入観なしに彼の行動を見つめなおさなくてはならないでしょう。それで、先ほどから考えていたのですが、どうやら、彼になら、あの密室は作れたようなのです」

「なんだって!」ラパルクが驚いたようにいう。

 ネイリンも驚いた。

「でも、あたしたち、かなり調べたんだよ。でも、そんな仕掛けを施したような跡はなかったけど……」

「物理的な仕掛けを施したわけじゃなかったんです。そんな難しいことをしなくても、鍵をすりかえれば、簡単にあの密室が作れたんです」

「すりかえって……。どういうこと?」

「あの部屋に入って、ラパルク、お父様のポケットから鍵を取り出して確認したでしょ? あれが、あの部屋のものではなかったんです」

「まさか……」ラパルクがつぶやく。

「そうなのだと思います。でも疑いませんよね。というか、疑っている場合じゃなかったですし」

「たしかに、そこまであのときは頭が回らなかったけど、でもな、それはいくらなんでもリスキーだろ。あのときは思いつかなかったけど、あとでもしや、と思いつくかもしれない。そのとき確認されたら、それですぐにばれるじゃないか」

「いえ、もう一度すりかえ、戻しておけばばれません」

「え? どういうことだ?」

「お父様の部屋から大広間に戻ったとき、イボーはお父様の部屋に戻りましたよね?」

「ああ、そういえば、寒そうだったからなにかかけてあげたいって、確かいってた。あのときに……?」ネイリンはいう。

「ええ。おそらく、鍵を戻したんだと思います」

 つまり、彼はどこかの鍵を持ってジーナスを殺し、その後で持っていた鍵をジーナスの胸ポケットに。そしてジーナスが持っていた鍵を持って部屋を出て、施錠した。

 そういうことか。

「でも、そんなこと……」ラパルクは戸惑ったようにいう。「ジーナスさんが死んでるのを発見したあのときに確認されたら……」

 ネイリンは、あのときのことを思い出す。

 ラパルクが、ジーナスのポケットから鍵を取り出したとき、イボーは失礼だ、みたいなことをいって、鍵を戻させたのだ。

 あのタイミング、雰囲気では、仮に怪しいとは思っても、鍵が本物か確かめることは難しかったろう。

 そして、まだ気持ちの整理がついていない段階で、イボーは率先してジーナスの部屋に行った。すべて計算づくの行動だったのだろうか。

 もしそうなら――冷静で知的だ。

 ネイリンは、鈍感そうに見えたイボーの顔を思い出して、かるく震えた。

「さっきもいいましたが、そんな雰囲気ではありませんでした。そして残念なことに、あのときに思いつくどころか、わたくしたちは、今に至るまで、そのことに気がつきもしなかったのです」ロッテはいった。「リスクをどれだけ認識していたかは分かりませんが、結果からいって、イボーは……うまくやり遂げたんです」

 彼はすでに逃げている。今更なにをいっても無駄だろう。

 あたしたちは、知恵比べでイボーに負けたのだ。

 力が抜け、ネイリンは腰掛けていたソファの背にもたれた。

「では、トーナスさんを殺したのもイボーなのか?」ラパルクが下を向きながらいう。

「それについては……分かりません。考える取っ掛かりがないんです」

 ロッテは周りを見た。

 だれもなにもいおうとしなかった。

 これまでは、ラパルクが議論を先導していたところがあったが、推理が外れていたことのショックが尾を引いているのか、口を開こうとしない。もう、あまり当てにはできないのかもしれない。

 ロッテもそう判断したのだろう、小さく息を吐いて、話をつづけた。

「仮に、イボーが伯父様も殺害したとしましょう。その場合、どのような絵が描けるか」彼女は指を一本折った。「まず、石が欲しかったイボーがケースを開け鍵を盗み、あの部屋を開けた。そこで伯父様に見つかり、乱闘の末殺害」彼女は指をもう一本折った。「あるいは、石が欲しかったのは伯父様で、ケースを開け、あの部屋を開けたところでイボーに見つかり、乱闘の末殺害」折っていた指を広げる。「もしくは、今まで考えていたように、石が欲しかったのはお父様で、あの部屋を開けたところで、かどうかは分かりませんが、その場にいた伯父様ともめたかして殺害」ロッテはここでため息を吐いた。「しかし、どの説にも決め手はありません。それどころか、石を盗むため、誰かと誰かが手を組んでいた場合なども考えると、さらに可能性は広がります」

「動機は、石で間違いないのかな」ネイリンはふと思いつきいった。

「それは……間違いないでしょう。なにしろ、殺害されていた場所が、あの封印された部屋なのですから」

「そうか。……てことは、石は、生き残っているイボーが持っているってこと?」

 ネイリンが何気なくいった言葉に、ロッテが反応した。

「イボーが?」中腰になりかける。「そうなら、追って捕まえれば石が……?」

「トーナスを殺したのも、イボーかもしれない」主が、ぽつりといった。

 今にも屋敷を飛び出しそうな様子のロッテの動きが止まった。

「お祖父様。どういう意味ですか?」

「イボーには、そうしてもおかしくない動機があるんだ……」主が苦しげにうめいた。「今まで黙っていたことがある。いうつもりもなかった。だが……このような状況では、打ち明けなくてはいけないのかもしれない」

「……どういうことです?」

 ロッテは身構えた。

 無理もないだろう。散々、動揺する出来事に丸一日も振り回されてきたのだ。まだなにかあるのか、と思ったら、ロッテの立場では身構えたくもなるだろう。

 好奇心の固まりのようなネイリンでさえ、いささか疲れてきている。

「イボーは、イボーは……」主は一度首を振ってから、ロッテを見た。「ショッキングなことかもしれない。だが、どうか動揺しないできいてくれ」

「イボーがなんなんですか?」ロッテがいらだたしげにいう。

「イボーは……おまえの伯父さんなんだ」

「……え?」

 大広間を静寂が支配した。

 時間が止まったように感じた。

 ネイリンは、見るともなしに周りを見まわした。

 ラパルクもあっけにとられた顔をしているが、しかしそのショックは、家人や使用人のほうにより濃く見られた。

 それはそうだろう。使用人だと思っていた男が、自分の伯父だと知らされたロッテ。使用人という同じ立場の人間だと思っていた男が、実は仕えるべき立場の人間だと知らされた使用人たち。

 彼らの動揺が、手に取るように分かった。

「どういうことです、お祖父様。イボーが、お父様のお兄様だったというのですか?」

「そうだ」

「なら、ならどうして、使用人みたいなことを。……いや、それはおかしいですわ。だって、イボーにはちゃんとお父様もお母様も……」

「本当の両親ではないのだよ。本当の両親は、儂と……おまえのお祖母さんなのだ」

「なら、ならどうして……」ロッテは混乱して、泣きそうな顔になっている。

「儂の子として、この家に置いておくわけにはいかなかったんだ。……知ってのとおり、ガードナー家は、石を守らなくてはならない。そして、その石を守るための資格として、知性がなくてはならない。だが、あの子には……」

「それで、家を出したのか?」ラパルクが訊いた。

「ああ」主は言葉少なに答えた。

「長兄だったのか?」ラパルクが訊いた。

「そうだ」

「しかし、家督は知性によって決められるんだろ? 次男であっても、トーナスさんに決めてもよかったんだろ? なんで、他所に出したんだ?」

「次男が生まれる保証はなかった。実際、イボーが生まれてから、トーナスが生まれるまで、七年がかかっている。もし生まれなければ、決まりでイボーが家督を継ぐことになるんだ」

「どうして? どうしても息子に継がせたくなければ、他の……たとえば、あんたと争って負けた人間に継がせるとか、いろいろ方法はあるだろ」

「彼らとは遺恨がある。そのような選択はありえない」主はため息を吐く。

「じゃ、トーナスさんが生まれなかったときは、どうしようとしていたんだ?」

「そのときは、養子を迎え入れるしかないと思っていた」

「そんなにしてまで……イボーは嫌だったのか?」

「……儂にだって葛藤がなかったわけじゃない。実際、トーナスが生まれてからというもの、後悔のしどうしだった。だから、育ての父が死に、母が姿を消したのを機に、この屋敷に招き入れたんだ」

「招き入れたって……使用人としてじゃないか」

「しょうがなかった。今更、この家の長兄などといっても、だれも喜ばない」

「で……知っていたのか、当のイボーは」

「知っていた、ということになるのかな……。知らないはずではあるんだが、隠しとおせる秘密はないということか」

「知って、憎んで、そして……」ラパルクは首を振った。「そういうことなのか?」彼はだれにともなくいう。

「お父様は犯人じゃなかったんですね……」

 ロッテの言葉に、大広間は静まり返った。

 ラパルクが、唇を噛む。

「犯人はイボーだったのですね。それなら、」ロッテは少し笑いながらいった。「少しも知性にかけてはいないじゃありませんか。イボーは……イボー伯父さんは、ここにいるみんなを、出し抜いてみせましたわ」

「そうだったんだな。……儂の見立ては外れていたってわけだ」

「外れてたで済む話じゃないだろうよ」ラパルクが下を向く。

 主は、それについては答えなかった。

 ひどい話だと思った。

 生まれてすぐに、なのだろう、捨てられて、その後は使用人として使われる。屋敷に招いたのは後悔からだといっていたが、そのことの方が、よりイボーの心を傷つけたのではないか。

 ネイリンは、たまらない気分になった。

「では、動機は怨恨、ということですか? なら、なぜお祖父様をお殺しにならなかったの?」ロッテは、悲しそうにいう。「悪いのはお祖父様じゃないですか? この家の決まりじゃないですか? お父様は、なにも悪くないのに」

「それは……イボーに訊いてくれ」主は、苦しそうにいう。

 イボーの心情を理解しようとして、ネイリンはやめた。とてもできない。

 まず詳しい事情が分からない。たとえば、出した先の家に、主がどういった接し方をしてきたのか。それは主に聞くことができるが、正直に答えてくれる保証はない。正直に答えたとしても、そもそも記憶が、自分に都合のいいように書き換えられている可能性があるし、むこうの家で、違った解釈がされている場合もある。

 結局のところ、聞く価値があるのはイボーの話だけだが、そのイボーはもういない。

 なんといっていいか分からなかった。

「動機は……怨恨ってことでいいのか?」ラパルクがいった。「なら、ケースを開けたのは、イボーじゃないのか?」

「その可能性が高い、でしょうね」ロッテが答える。

「なら、開けたのは……」

「お父様か伯父様」

「開けた動機は……石だよな?」ラパルクがロッテに同意を求める。

「たぶん」

「石は、どうなったんだろうな。鏡から取り出されたのか、それとも出されていないのか」

「イボーが犯人なら、どちらともいえないでしょうね」ロッテが残念そうにいう。「今までは、お父様はケースにかけられた呪いで亡くなったのだと思っていました。呪いがあるなら石だって本当に――そう思っていましたが、ケースの呪いがあったわけではないらしいことが分かった今となっては、そもそも石があると考えることすら、難しいのかもしれません」

 死んだ人間を生き返らせる石なんて――そう思っていた最初のころに戻ってしまった。

 やはりないのか。

「結局、不思議なことなんてない――そういうことなのかな」ネイリンはいった。

「そんなことはない。石があるという状況証拠もなくなったが、だからといって、ない、という証拠が見つかったわけでもない」この期に及んで、主はそんなことをいう。もう条件反射というか、病気みたいなものなのだろう。

「不思議なことは、もう一つあります」ロッテが人差し指を立てた。「ケースをどうやって開けたか。この謎だけは、イボーが犯人だとしても解けません」

「ああ、そうか」その問題があった――ぽんと自分のおでこを叩いたネイリンだが、その拍子に、ふとある考えが浮かんだ。「今までケースをどうやって開けたか、って考えてたけど、そのケースを開ける鍵はあるわけだよね」

「はい。お祖父様が持っていらっしゃいます」

「それを、どうやって盗んだか、って考えることもできるじゃないの? 無理やり開けたら呪われる、なんていわれているケースを開けるより、現実的だと思うけど」

「……そうですわね。どうですか、お祖父様。鍵は……」

「盗めるわけはない」主はすぐに答える。「部屋を空けるときは、どんなに短時間でも鍵をかけている」

「眠っているときはどうです?」ネイリンはいった。

「眠っているときも、部屋の鍵をかけている」

「……じゃ、だめか。鍵を盗もうとしたら、今度は……おじいさんの部屋の扉をどう開けたか、という問題がでてきてしまいますもんね」ネイリンはふうと息を吐く。

「いや、そんなことはないぞ」ラパルクがいう。「ケースの鍵は盗まれないように注意してても、部屋の鍵自体はそれほど厳重には保管してなかったんじゃないか?」

「…………」主はラパルクをにらんだ。

「ケースを開けたのがだれにせよ、じいさんの隙を見て部屋の合鍵を作る。それからゆっくりと、ちょっとやそっとじゃ目が覚めないだろう日を狙って、寝ているじいさんの部屋に忍び込み、ケースの鍵を盗む」ラパルクは考え深げにいう。「……これなんじゃないか?」

「そうですわね……」ロッテがラパルクの推理を受け答えた。「そうなのかも。さすがラパルクですわ」

 ロッテに褒められ、ラパルクはほっとした顔を見せた。

 ロッテの父親、ジーナスを犯人に仕立て上げてしまった失態を、これでいくらか挽回できた、そう思っているのかもしれない。

 主は、複雑な表情をしていた。

 これまで万全の体制で守ってきたつもりのものが、実は盗まれていたらしい。そのことをどう受け止めてよいか分からない様子だった。

「いったいだれが……」主が落ち込んだ顔を見せる。ジーナスの死を発見したときよりも、トーナスの死を発見したときよりも、その表情は暗いように見えた。「分かっていないんだ、この鍵を、石を守ることがどれだけ大切かを……」

 ネイリンはあることを考えていた。

 だれもいわないが、そもそもケース自体の鍵穴は、ホコリが詰まっていたのだ。

 だから、ケースは鍵によって開けられたわけじゃないという結論になっていたが……。

 そのことをいおうとして、ネイリンはやめた。

 やはり、これで合っているのだ。

 ホコリは、後からつけるとか、難しいかもしれないが、できないことじゃないからだ。もし、鍵によってケースを開けたのではないということになれば、ケースをどうやって開けたのかという問題になる。

 だからつまり、この問題は、ケースを開ける鍵を、どのように主から盗んだのかと考えるべきだったのだ。

 死んだものを生き返らせる力があるという石や、無理やり開けようとしたものを呪い殺すというケース。また、鍵のかかった密室で人が二人も死んでいたりと、不思議なことが頻発したために、話を難しく考えていた気がする。

 ネイリンはほっと息を一つ吐き、肩の力を抜き、ソファにもたれた。



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