第二章 29
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プライがまた寝たのを確認してから、二人は階下に下りた。食堂に向かう。
「なんか、入りづらいね」食堂に通じる扉の前で、ネイリンは立ち止まる。
「入りづらいぐらいいいだろ。悲しくはないだけましだ」
「そうね……」
食堂に入ると、もうみんないた。みんなといっても、主とロッテだけではあるのだが。
「ネイリン」ロッテが、昨日と同じように自分の隣のソファを叩く。
ラパルクも、ネイリンの隣に座った。バランスが悪いが、ロッテの向かいに座ると主の隣になってしまう。それは主とて嫌だろう。
食事まで、会話はなかった。ロッテも静かにしていて、はなしかけられない雰囲気だった。
すぐにカーテとルイが、食事を運んできてくれた。
神への祈りを捧げ、食事が始まった。
無言である。
カチャカチャと、食器のぶつかる音だけが食堂にこだました。
きくともなしに、その音を聞きながら食べていたネイリンだが、次第にある考えが頭を支配しはじめた。その考え方が嫌で、必死に目を逸らそうとしたが、なかなか視界から外れてくれない。
ネイリンは、一人悶々とした思いの中で食事をしていた。
その考え方は、今まで考えたことのないものだった。
なぜ、なにをきっかけにそんなことを考えたのか分からない。
突然、嫌な考え方と戦うことになってしまったのだ。
事実ではあるのだが――。
でもそんな考え方って――。
食べ物の味が分からない。
ロッテは――。
なにか話でもすれば、気がまぎれるのだが。
だが、会話のない気詰まりな時間の中で、その思いはなかなか消えてはくれなかった。
こんなふうには、考えたくはないのだけど。
事件が起こってからというもの、ネイリンとロッテの距離が、微妙に開いてきている。
ロッテの身に重大な事件が起こったのだから、そして、まだ出会ったばかりのもろい関係なのだから、しょうがないとも思えるが、この微妙な距離感が、変なことを考えてしまう土壌を作っているような気もした。
この距離感のままでここを出るのは嫌だな、そうネイリンは思った。
こんな、考え方を持ったままロッテと分かれるのは嫌だ。
事件はもう収束しているとネイリンは思っていた。だが、翌朝、事態は一変した。
まだ終わってはいなかったのだ。
だが、そのことを知らないネイリンはこのとき、ほんの少しではあるのだが、友人であるロッテの事を、人殺しの娘なんだよな。そんな目で見ていた。