プロローグ・ゼロ「林檎の渦と、断つ手」
はじまるよ?ほんとにいいの?はじまっちゃうよ?(チラッ)
おいでおいでー!みんなのトラウマ、お出ましだよーー!
ダークファンタジーが始まるよー。
書くことが、あった。
誰に読ませるのでもない。
読む者はいない。
墨もなく、紙もない。
あるのは、私の頭の中の暗がりだけだ。
その暗がりに、私は、文字を置いていく。
書くことは、断つことに、似ている。
刃を入れる前に、まず、線を引く。
そう気づいてから、私は書きはじめた。
書くことは、断つことに、似ている。
刃を入れる前に、線を引く。
三歳の春のことだった。
私は、林檎の渦を見ていた。
銀のナイフが、赤い皮を、絹のように薄く剥いていく。
皮は、途切れない。
くるりと、一本の渦になって、皿に垂れる。
剥いていたのは、私の継母だった。
白い指に、迷いはない。
唇の端が、二段に上がる。
その手つきを、美しいと思った。
私は、その日、銀の杯を口にした。
甘い、花のような匂い。
舌の上で、それは蜜のように転がった。
その夜、私は奴隷穴の底に落ちた。
底は、暗くて、寒い。
足元で、何かが、積み重なっていた。
息を吸うと、饐えた匂い。
その奥に、鉄の匂い。
何が積み重なっているのか。
目が暗闇に慣れて、私はそれを知った。
知っても、声は出なかった。
私は、832番と呼ばれた。
それより上等な呼び名を、ここの誰も持っていない。
四年目には、私は古参になっていた。
古参とは、長く生き残った者のことだ。
腹が減ったこと。眠りたかったこと。死にたくなかったこと。
穴の五年で残ったのは、それだけだった。
腹が減ったこと。眠りたかったこと。死にたくなかったこと。
残ったのは、その三つだけだ。
残らなかったものの中に、私が口にしたものも、ある。
書かない。
八歳の冬、穴の底に、凍えるほどの寒さが降りた。
岩肌を伝う水が、ある朝、止まった。
止まった水は、白く凍りつく。
凍った水は、岩に貼り付く。
私は、それを指の先で削った。
削った氷を、舌に乗せる。
針で刺すように、冷たい。
その冬、十二人が、私の周りで死にかけていた。
骨を齧らなかった者たちだ。
本能の声を、聞かなかった者たちだ。
彼らの息は、浅い。
彼らの目は、もう何も映さない。
彼らは、私の食料に、なりかけていた。
私は、選んだ。
八歳の冬、私は、十二人を、断った。
断った後に残ったのは、私ひとり。
あとは、十二の静かな身体と、白く貼り付いた水だけ。
それから、百年近くが経った。
百年は、削られた身体の数で測れる。
左の腕。右の目。右の手の人差し指。背中の二つの烙印。
ひとつ、またひとつ、世界が私から持っていった。
それでも、削られなかったものがある。
三歳で見た、林檎の渦だ。
銀のナイフが、絹のように皮を剥いていく動き。
継母の唇の、二段の笑み。
あの渦は、いまも回っている。
あの渦を、いまも、白い指が回している。
年を、取らない、白い指だ。
この世界の、どこかで。
回しているのは、百年前と同じ、年を取らない白い指だ。
私が近づいていることを、彼女はまだ知らない。
私は、その渦を、断ちに行く。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
全体のプロット完成
ハッピーエンドで終わります。
長編過ぎたわ。⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ピクピク
また明日、お会いできましたら幸いですワ。
Nolaノベル
黒田おっさんのなりあがり物語【20話完結済】
最新話はなろうカクヨムで灰はふぁんたじー小説掲載中?
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