第25話 マンドラゴラを求めて
その後、僕たちはネフィの案内で樹海ダンジョンの中へと進んでいった。ネフィは人見知りなのかチラチラと僕たちを見るだけで、あまり積極的には話しかけては来なかった。そのせいか僕たちはただ黙々と樹海の中を歩いていた。
すると、場の空気に耐えられなくなったのか、隣で歩いていたミサキが僕を肘で突っついてきて、何か話題を作ってと僕に視線を送ってくる。僕はこういうのっていつも僕の役割になってるよね……と思いつつ、ネフィに話しかけてみることにした。
「あ、あのさ、マンドラゴラってどういう感じのモンスターなの? 実は僕見たことなくて……」
僕はそう言って前を歩いているネフィに声をかける。すると、ネフィは立ち止まって振り返った。それにつられて僕たちも立ち止まる。
「……知らなかったの?」
「あ、うん……」
「マンドラゴラは紫色の草みたいな見た目で、引き抜くと周りに精神ダメージを与える音波系のスキルを使ってくるの。そして引き抜いたあとは、根っこの二股の部分を足みたいに使って二足歩行で逃げていく。簡単に言うと、とても面倒くさいモンスター」
ネフィはそう言って肩をすくめた。
「そ、そうなんだ……。精神ダメージっていうのはつまり【精神力】が減っちゃうっていうこと?」
「そう。並の冒険者なら二、三回受けるだけで精神力がなくなって、スキルも使えなくなって、その場に倒れることになる。そんな状態で他のモンスターの襲撃を受けたりすると非常に危険」
ネフィは少し真剣な顔をして言った。
「でもね、マンドラゴラの魔石は様々な薬の材料になるの……。ふふ、結構色々と使えて便利なんだよね……。毒薬とかしびれ薬に入れると効果もぐんと上がるし……。回復薬だと頭がスッキリして気持ちよくなる薬の材料にもなるんだ。這い寄る者たちだと結構常習している人も多いんだよ……ふふ……」
ネフィが怪しい笑みを浮かべながらぶつぶつと呟くように言った。……あ、やっぱりこの子は這い寄る者たちだと僕は思った。
「へ、へぇ……。それでそのマンドラゴラはどこに――」
「!! 後ろッ!!」
僕が言いかけた途端、ネフィが真顔になって叫んだ。咄嗟に振り返ると、そこには三体のコウモリのようなモンスターがいて、今まさに僕たちに襲いかかろうとしていた。
「ギギィ!!」
僕はすぐに剣に引き抜こうとした。しかし、次の瞬間、後ろからナイフが三つ飛んできてコウモリのようなモンスターに全て命中する。
「ギ、ギィ……」
ナイフが刺さったコウモリのようなモンスターは全て地面に堕ちると、身体が霧のように消えて魔石へと変わった。
「ふふ、油断は禁物だよ……」
後ろを見ると、ネフィが数本のナイフを構えていた。どうやらナイフを放ったのはネフィだったらしい。
「――【索敵】は発動させていたのに、どういうこと?」
既に細剣を抜いていたミサキが言った。
「このモンスターは【ダークバット】と言ってね、【索敵無効】を持つモンスターなんだ。このダンジョンはね、モンスターのレベルは低めだけど、こういう嫌なスキルを持つ敵が多いから気をつけてね。這い寄る者たちはこういうモンスターには慣れてるけどね」
ネフィがそう言った。
「なるほど、そういうこと……」
セネリーがやれやれといった感じで言って構えていた魔導銃をホルスターへと戻す。
「それにしても、ネフィのナイフすごかったね! メイン武器はナイフなの?」
僕はネフィの投げナイフ攻撃の精度に感心して言った。
「うん。あとは吹き矢かな。どっちも毒が塗ってあるやつとないやつを携帯してるよ。ふふ、もちろん毒は私特製のやつでね……。高レベルモンスターでも私の毒を受けると、借りてきたネコのようにおとなしくなるんだ……」
「そ、そうなんだ……」
おとなしくなるってどういうことなんだろうと僕は思った。毒なんだし死にかけているのでは……?
(でも、瞬時にモンスター三体を倒したのは普通にすごい……。やっぱり這い寄る者たちのルーキーっていうのは伊達じゃないのかも……)
僕はそう思いながら、特製の毒薬の効果について嬉しそうに早口で語るネフィを見た。……でもやっぱりちょっと変わった子かもと僕は思った。
「この建物の中とか怪しいと思う」
ネフィはそう言って僕たちを見た。ネフィの後ろにはボロボロの廃墟のような大きな建物があった。外観的には朽ちた宮殿といった雰囲気だ。
「……何か根拠でもあるの?」
ミサキが言った。
「えっとね、基本的にマンドラゴラは静かな場所が好きなんだ。だから、こういう建物の中庭とか部屋の地面が露出している場所によく生えてる。逆に樹海の中にはあまりいない」
「へー、なるほどねー」
セネリーが感心したように言った。
「この建物は大きいから右側と左側の二手に分かれて探索したほうがいいかな。……どうする?」
僕はネフィの二手に別れてという言葉を聞いて、「あっ……」と思った。
「それなら私とミサキ、ユイトとネフィがそれぞれ組になって探索すればいいと思うな。うちのクランのリーダーであるユイトには、ぜひ這い寄る者たち代表のネフィと親睦を深めて欲しいしね」
セネリーはそう言ってうんうんと頷く。
「賛成。それで決まりね」
ミサキがそう言ってセネリーに同調する。……あの、君たち、こういう役は絶対僕に押し付けようとするよね。そういうのよくないと思うんですけど……。僕は顔を引きつらせながら、ネフィの様子を伺った。
「私は別にそれでもいいけど」
ネフィはあまり興味がなさそうに言った。……この時点で賛成2の中立1で僕の賛否に関わらず、ネフィと僕のペアが決定したのだった。




