エルク・カスター・クレイグ
俺、エルク・カスター・クレイグは今の状況に思考が追いついていなかった。
あの悪どい令嬢…リディア・ハインリッヒ・アーノルドを追い出した後、メグの浪費癖が発覚。
しかも、メグはリディアが出て行った後どんどん傲慢になっていた。他の貴族や使用人を見下し、料理など嫌いな物が出ればそのコックを私に嘘を言って一族郎党皆殺しにしたりなどした。
詳しく調べると今迄の横領に賄賂、果ては国庫の使い込みまで全てメグだった。
彼女は憲兵に捕らえられた際にもこう言った。
「何で⁉︎何で私が捕らえられなきゃいけないの⁉︎私はヒロインなのよ!離しなさいこのモブキャラが!汚いのよ!」
と、あんなに優しかった彼女らしからず周りの憲兵を散々口汚く罵った。
俺は何を…?何を仕出かしたんだ?
一人自室の椅子に腰掛けて考え込んでいると、段々とリディアのことを思い出した。
クルクルと変わる表情。いつもニコニコしていた。何気に美味しかった料理。令嬢らしからぬお転婆で、元気だった。
しかし彼女はもうこの世には居ないだろう…何せ眼を潰して森に捨てたのだ。生きているはずが無い。
しかもそれは半年前の事…尚の事生きているはずが無い。
そうして無気力に生活していたある日、ちょっとした噂を耳に挟んだ。
曰く、この王都の下水道には変わった女鍛治屋が居る。
曰く、その女鍛治は素晴らしい名剣を打つという。
曰く、彼女の打つ剣は持ったものに素晴らしい加護を与えるという。
曰く、女鍛治は盲目だという。
曰く、女鍛治は美女であり、常に無表情だという。
曰く、彼女を見つけるのは至難であり、どこに住んでいるのかも不明だという。
そんな噂を耳にしたのだ。俺が特に気になったのはこの女鍛治が盲目だという事だ。盲目…まさか…な。第一リディアは剣など打てないはずだ…
そう思いながらも俺は気付けば私兵達に捜索を命じていた。
一年程はその女鍛治が見つかる事は無かった。
だが根気よくずっと探していると遂に見つけた。
この国…クレイグ王国の地下の排水路…正確には噂通りの下水道に住んでいると。
気になった俺はそこに向かう事にしたのだった。