第33精霊
「……ここは」
加奈が目覚めた場所は取調室に病院のベッドと医療器具をいくつか
置いた部屋の様な場所だった。
『やあ、目覚めたようだね。加奈』
壁に取り付けられたスピーカーから優の声が部屋全体に響いてきた。
「久しぶりね、副艦長……あ、もう艦長だっけ?」
『友が君を担いできたときは本当に驚いたよ。まさか君が
友に負けるという事も予想外だったがね』
口ではそう言っているが言葉の節々からはすでに予感していた様な
雰囲気がちりばめられていて少し嫌みに聞こえた。
「…ハルピュイアは」
『今はこちらで預からせてもらっているよ』
「そう…当分ここに泊まらせてもらうから」
『ここはホテルじゃないんだ。検査が全て終わり次第、
友の家に行ってもらう事になる』
「友春……ねえ」
その名前を聞くだけで体全体が心地いい気分に包みこまれて
自然と笑みを浮かべてしまう。
『彼に堕とされた女は4人か。中々のモテ男だな』
「仕方無いわよ。主人公はデフォルトで鈍感+ハーレム因子があるもの」
『それもそうだな。ところで』
「話は後にして頂戴。今は眠いの」
そう言って優の話を途中で切り上げさせて布団にくるまった。
「ほんとにこれ何なんだろうな」
友春は艦内の休憩所で蛍光灯の光を以前トレースと闘った際に
見つけた緑色の宝石に当てて眺めていた。
「これ売れるかな」
『おいおい、止めとけ。その石から俺たちに
似ている何かが感じられるんだよ』
「ふ~ん」
「あ、綺麗な石っすね」
後ろから声が聞こえてきたかと思うとちょうど
涼子と茜が休憩所に入ってきたところだった。
「ねえ、涼子っていつもあんな数字の羅列を見てるわけ?」
「勿論っす!それがどうかしたんすか?」
「よく目が痛くならないわね」
「目薬は常備っす」
涼子が来ている白衣のポケットから大量の目薬が出てきた。
しかも全てが違う種類の目薬。
「ねえ、その綺麗な石な~に?」
茜は友春に抱きつきながらデレデレモードに入り友春に甘え始めた。
「さ、さあ。分かんねえ」
「友ちん……変態っす」
「へ、変態言うな!お、女の子に抱きつかれたら
誰だって鼻の下くらいのばすわ!」
友春は顔を真っ赤にしながらも必死に涼子の言い分を否定した。
「ねえ、そう言えば最近、彩加ちゃん見ないけど」
「さあ?俺も知らないんだよ、家には電話が来るから大丈夫みたいだけど」
最近、彩加は友春が家に帰ってくるのを見計らっているのか彼がいる間は
ほとんどと言っていいほど外に出かけて家を開けている。
「まあ、大丈夫ならいいけどさ~」
すると、自動ドアの開く音が聞こえ
噂の本人が三人のいる休憩所に入ってきた。
「あ、彩加」
「…ねえ…お兄ちゃん」
「なんだ?」
「私は……何?」
その質問に友春は理解が全くできずに固まってしまった。
「え、えっと彩加は俺の妹だろ?」
「……お兄ちゃんは……私を護ってくれる?」
「勿論だろ。兄貴が妹を助けないわけがない」
「じゃあ………お兄ちゃんと私は…ずっと……一緒?」
その質問に友春は少し考えてしまった。
彩加が結婚すれば当然、その結婚した男の家に嫁ぎに行くわけであり
また友春も誰かと結婚し家庭を作るとなると自然と2人は離れてしまう。
「ん~いつかは離れ離れになるんじゃないか?」
「そう………私が……お兄ちゃんも護る」
「あ、それは良いよ」
友春は笑いながら彩加の頭を優しく撫でた。
「お前はそんなこと考えなくていいんだよ。俺が護るから」
「……ってない」
「へ?」
「お兄ちゃんは何も分かってない!」
いきなり彩加が目から大粒の涙を流しながら友春を突き飛ばして大声で叫び始めた。
「さ、彩加?」
「私だって!私だってお兄ちゃんを護りたい!それなのに
お兄ちゃんは私を役立たずって言った!」
「そ、そんな事言ってねえよ!」
「言ったもん!この前の戦いの中で言ったもん!」
彩加にそう言われ記憶をたどっていくと、
確かにハルピュイアとの戦闘時に言ったことを思い出した。
「あ、いや。あの時は」
「もう良いもん!お兄ちゃんの馬鹿!クズ!
女殺し!もう私はお兄ちゃんのところになんか戻らないから!」
罵詈雑言を友春に浴びせた後、彩加は休憩所を出ていきどこかへと走り去っていった。
「………さ、彩加?」
友春に問題がなくなることはないのかもしれない。
小説を書くのって難しいね~。
人間関係みたいに本当に難しい。
それでは。




