俺と火村崎
学年最底辺学力の持ち主にして残念系美少女の俺の嫁、珠稀はバカだ。
そんな珠稀が火村崎に対して言った「私の夫なんだ」との爆弾発言を聞いた俺が、隠れていた繁みから飛び出したことを咎められる奴がいるだろうか?
俺は誰もいないと思いたい。
あくまでやらかしてしまった俺の願望だ。
突然繁みから飛び出してきた俺を見たときの珠稀と火村崎の反応はアッサリしたものだった。
「りゅうとっ!」
「佐藤っ!」
「ど、ども」
2人の視線が曖昧な挨拶をする俺に集中する。
とても気まずい。
俺は珠稀と火村崎の2人を連れて近くのコーヒーショップに移動する。
店の中にはモーニングに来ていた知らないじいさんが新聞を読んでいるだけで、人も少ないから俺たちにとっては好都合だ。
俺たちは4人席に座る。
「ねえ、りゅうと、このままだと私たち学校に間に合わなくなるけど、いいの?」
「なあ、珠稀、店に入るなり季節限定ジャンボパフェを注文した奴のセリフじゃないよな」
「だって美味しそうだったんだもん。それに限定ってことは明日には失くなってるかもしれないんだよ。美味しいスイーツとは一期一会なんだよ」
珠稀がバカの癖に難しい言葉を使ってくる。
自信満々にウンウンと頷いているが、今はそれどころじゃないということを理解してほしい。
「あのな、珠稀よく聞け。呑気でバカなお前にもわかるように言うとだな、このままお前の発言を聞いた火村崎を放置すると、最悪の場合、俺らは仲良く退学になるかもしれないんだよ」
「ええっ!」
珠稀の奴、本気でわかっていなかったのか。
学年最底辺バカの称号は伊達じゃないな。
「えーと、佐藤があの場所にいて、今のこの状況になっているってことは、佐藤が環さんの夫ってことでいいんだよな?」
「まあ、そういうことだ」
火村崎の言葉を俺は肯定する。
そうか、ひょっとしたら俺があの場に登場しなければ誤魔化すことが出来た……わけないな。
多分、珠稀がペラペラしゃべってしまうのは容易に想像がつくし、かりに珠稀の夫がわからなかったとしても周辺に聞けば秒で誰が候補者か絞りきれるだろう。
それでは俺と珠稀が2人仲良く退学になる未来は変えられない。
何とかして、この目の前のイケメン火村崎を味方にしないといけない。
だが、火村崎は珠稀に告って振られたばかりなのに振った相手とその夫である俺たちが説得なんて出来るんだろうか?
普通に考えたら無理だよな。
「火村崎君、私とりゅうとのこと、みんなに言い触らすの?」
俺があれこれ脳内で計算していると珠稀が直球で火村崎に質問をした。
うーわ、こういうとき珠稀は無敵だな。
ひょっとして、珠稀に任したらすんなり解決したりしないだろうか。
さて、火村崎の答えは?
「言い触らさないよ」
「やったよ、りゅうと、火村崎君、言い触らさないでくれるんだって」
「…………まあ、珠稀に任せたら、当然こうなるよな」
ダメだ、バカに交渉は向いていない。
そりゃそうだよな。
駆け引きができるくらいなら勉強も恋も、もっといろいろ上手く出来る奴になっていたはずだ。
そうこうしているうちに注文した俺と火村崎のドリンクと珠稀のジャンボパフェが運ばれてきた。
季節のフルーツや手作りと思われるケーキも乗った、朝からハイカロリー過ぎるスイーツに満面の笑みで取りかかっている珠稀を火村崎は慈愛に満ちた表情で眺めている。
そんな自分をジーっと見ている視線に気付き、火村崎が声をかけてくる。
「佐藤、大丈夫だよ」
「何がだ?」
「オレが環さんを悲しませることをするわけないよ」
そう言った火村崎の目は信頼という言葉に値する輝きを見せていた。
おわぁ、人間の目ってここまで穏やかに輝くものなんだな。
「俺が珠稀の夫と知っても大丈夫なのか?」
「うーん、まあ、ショックではあったかな。でも、自分の手で環さんを幸せに出来ないのは少し寂しいけど、環さんが幸せならいいよ」
「火村崎、お前が良い奴過ぎて、逆に信用しづらいんだが」
渋面の俺の言葉を聞いて、火村崎は楽しそうに笑う。
「あはは、じゃあ、頑張って少し悪ぶってみるよ。そうだな。折角だし、佐藤と環さんのことをみんなに黙っとく交換条件として、オレの知らない昔の環さんのことをいろいろ教えてくれ」
イケメンオーラ全開で俺にウインクしてくる火村崎。
俺が女子か、両方いけるタイプの人間なら間違いなく惚れていただろう。
外見だけでなく、中身までイケメンな奴だ。
そんな良い奴に俺が返せるものはほとんどないし、本人がご所望なら答えてやるまでだ。
「それくらいならお安いご用だ。ちょうど飲み物もあるし、嬉し恥ずかし奇行蛮行全部聞かせてやるから、よく聞いとけよ」
「おお、望むところだ」
俺は、今までの俺の知る珠稀のやらかしたエピソードをいろいろ身振り手振りも交えて話して聞かす。
時に驚き、時に爆笑し、火村崎は楽しそうに俺の話に聞き入ってくれていた。
どうしよう。
思いがけず、すごく楽しい時間になってしまった。
「佐藤、ありがとう。オレの知らない環さんを知れて良かったよ。ただ、佐藤も環さんといて楽しいだけじゃなく大変なこともいろいろあったんだな」
「大変?」
「違うのか」
「珠稀の奇抜でバカな行動を大変とか思う程度の奴じゃ、珠稀の夫は務まらないぞ」
俺の言葉を聞いた火村崎は、一瞬目を見開くと何か納得したように口を開く。
「たしかに、そうだな。ありのままの珠稀さんを受け入れられない今のオレじゃ、環さんの夫はおろか、彼氏も無理かもしれないな」
「別に俺も受け入れているわけじゃないんだけどな」
「いやいや、この環さんの顔を見れば十分受け入れられてるんだと思うよ」
珠稀はクリームで汚れた口をおしぼりで拭きながら幸せそうにしている。
「火村崎、多分これは俺は関係なくパフェで幸せそうにしているだけであって俺は関係ないと思うぞ」
「あはは、たしかに」
「なになに、2人とも何笑ってるの?」
「何でもないが、たしかに鼻の頭にクリームをつけたお前の姿は笑えるな」
「たしかに」
「あー、2人とも、ひどっ!? 早く言ってよ!」
こんな和やかな時間は珠稀がパフェを食べ終わるまで続いたが、まあ俺らが今日の午前中の授業をサボることになったのは仕方ないよな。
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マイペースな更新ですみません。




