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私が召喚したのは天使なのだろうか!?  作者: 澤田とるふ
学園生活編
22/32

21.大逆の天使

 昔、世界には2つの国があった。

 土を信仰する国と、水を信仰する国。

 2つの国は互いにいがみ合い、長く戦争を続けていた。


 共に天使や悪魔を召喚し、その力も借りて戦争はさらに激しく長期化していった。

 すると、戦争で主を失った魔獣や神獣は野に放たれ、独自の生態系を持ち、力のない町や村は自衛手段を考えるか、大きな町に逃げるしか手がなくなり、いくつもの町や村が滅びた。


 そんなさなか、土を信仰する国の片田舎で、火を信仰する変わった村があった。

 その村では年に1度、火の上位天使を召喚し、火の加護をもらうことで周りの神獣や魔獣から身を守っていた。火の天使のおかげで、村を大きくすることはできなくても、平和に暮らすことができていた。


 そんな村にあるとき、奇跡が起こる。

 火の上位天使の中でも至高と呼ばれる最上位の天使が降り立った。

 降り立った火の天使は村の娘と恋に落ち、村に多くの富をもたらす。

 しかし、その存在は土を信仰する国の中枢にも届く。


 ちょうど水を信仰する国に押されていたこともあり、火の天使に助力を求めたが、それは叶わなかった。

 火の天使はその村にしか興味がなく、外の世界に興味を示さない。


 何度交渉しようとも答えは同じ、数年で土を信仰する国は水を信仰する国に飲み込まれていった。

 1つの国が終わり、天使のいる村にも水を信仰する国の手が迫ってくる。


 村は1つの選択を突きつけられた。

 火の天使との関係を切り捨て生き残るか、このまま滅びるか。


 村は2つに割れた。


 言い争いを進めるなか、火の天使の留守中に、水の天使が使者と共にやって来て、村に決断を迫る。

 力に屈したその村の半分は反対派を無理に押さえ込み、火の天使の意中の娘を処刑し、村の存続を約束させた。


 村に戻った火の天使は物言わぬ亡骸となった娘の傍を離れず、三日三晩泣き続け、娘を手厚く弔った村人達だけを、天高い新たな地へと導いた。


 村人が天使に何をするのか聞くと。

 天使は一言、復讐とだけ答え、3日間この場所から離れないことだけを告げる。


 天使は火の化身とかし、水を信仰していた国を焼き払った。

 抵抗する水の天使、止めに入った風の天使も相手取り、その全てを焼き払う火の天使。

 多くの天使、悪魔、魔獣、神獣、そして人間を焼き払い、3日間で世界のほとんどを焼き払った天使は、神によって拘束され、その審判を受ける。


 なぜこのようなことをしたのか?


 質問する神に、火の天使は応えた。


 復讐だ。


 火の天使は神により裁かれ、他の火の天使達も100年は地上に降臨することを禁じられる。

 地上に残されたわずかな人々のため、神は土の天使を遣わし、わずかな人々が飢えず、繁栄できるよう助力させる。


 100年後、大きな1つの国が誕生し、土、水、風の天使が召喚され、国は繁栄した。

 しかし、火の天使だけは召喚に応じない。

 すでに神からの降臨禁止は解けている。

 なぜ降臨しないのか問うと、彼らは言った。


 我らが火の天使を狂わせた人族に、我らは二度と関わらない。

 我らは人が憎い。心優しき天使を狂わせた人が憎いのだと。

 怨嗟をここで断ち切るため、我らは地上に降臨しない。


 それからも、火の天使は人族の呼びかけに答えることはなかった。




「と、こういう話です。」


 ミリアの話は大筋で私の知っている話と同じだ。この話はいろんなタイトルで子供に読み聞かせる話や、復讐に対する教訓の話、天使と人の悲哀に焦点をしぼった劇などもあるほど有名な話だ。


「なるほどな・・・火の天使が人を恨むのか。」


「その辺りはけっこう諸説あるのよ。私達に伝わってる話だけでも結末が違ったり、水の天使は関係なくて巻き込まれただけだとか、いろいろよ。」


 シアのいうことは本当だ。

 あいまいに伝わってる話なので、実際に起こったことなのかさえ疑われている節がある。


「で、火の天使の意見は?」


 ライナの言葉にセロが曖昧に微笑んだ。


「・・・といわれても知らないな。他の天使はなんて言ってるんだ?」


「やっぱりそうか・・・いやこのことについて、どの属性の天使達は何も語らないんだ。なんでも話すことを禁じられてるらしい。セロもそうなんだろう?」


「・・・まぁそんなとこかな。」


「だから火の天使は貴重なんだ。今でも降臨したという話は聞いたことがない。きっとメリットには今以上に厄介事が増えると思うぞ?」


 あまり考えたくなかったことだけど、私もそう思う。


「例えば、どんなことが増えると思う?」


 私の質問に、なぜか楽しそうにシアとミリアが答えてくれた。


「知らないところで親友が増えたり、婚約者に立候補する奴が増えたり、就職先の内定が出たり?」


「あと、領地に士官してくる技術者も増えるんじゃないでしょうか?火の技術を学ぶ絶好の機会ですから。商人達もこぞって仲良くなろうとしますよ。火の付与アイテムは貴重ですから。」


「そ・・・そこまで?」


 私の予想以上のことを口にされてちょっと引いてしまう。

 せいぜい研究に協力してくれと依頼が来る程度かと思ってた。


「冗談抜きで僕も求婚しろと本家に言われそうだ。もちろんそんなことはしないが・・・火の天使を手に入れたい派閥は多いと思うな。」


 ライナの表情は・・・哀れんでる!?

 あまり平穏な学園生活はおくれなくなるということだろうか・・・。


「よかったな。婿を選び放題じゃないか。」


 訳のわからないことをいう従僕の頭を叩いておく。


「こうやって見てると本当に姉と弟にしか見えないわね。」


「ホントですね。まぁ当面は大丈夫じゃないですか?勉学の妨げになるようならティーチ先生に相談してみましょう?」


「ミリアの言う通りだ。僕らは今まで通りだし、身構えたって仕方ない。何か起こってから考えよう。」


「とりあえずは、ライナの奢りでどこに行くかの相談からね。」


 付き合いの日は浅いけど、私はいい友人に恵まれたと思う。


「ありがとうね。」


「あらたまっていうことじゃないでしょ?」


「そうだ。当然のことだぞ。」


「そうですよ。・・・今日はもう帰ります?」


 特別教室で勉強して帰るところだけど、今日はスティンガーも怪我をしているし、いろいろあって疲れたので、これで解散になった。

 スティンガーは念のため、このまま医務室にお泊りらしい。


 明日からも願わくば、平穏な日々が続きますように・・・。

 隣を歩く火の天使を眺めながら、私はそう天に願った。




<Selo>--------


 屋敷の人が寝静まった深夜、本を読み終えた俺はなんとなく窓から外を眺めた。

 隣の部屋にいるメリットはもうすでに熟睡している時間だろう。


 この時間でないと相棒とは話せない。見られると話がややこしくなるから。


「あの話、驚きだな。おとぎ話みたいになってるって話じゃねーか。」


 上機嫌に語りかけてくる相棒。一体何が面白いのか。


「そうだな。しかも火の天使はあれから地上に降りてきていないらしい。」


「目立っちまうな。」


「仕方ないだろう?属性は変えられない。隠し通すのも無理があるしな。いつかはバレていたはずだ。」


「それもそうか。にしてもずいぶん控えめに改変された話だったな。」


「子供に読み聞かせるならあんなもんじゃないのか?資料はほとんど焼き払われているだろうし、生き残りも限られている。伝わる話なんてあんなもんさ。」


「他の天使も何も言わねーんだな。水の奴らなんてあることないこと吹き込みそうだってのに。」


「だから止められているんだろう?また天使同士で戦争になったら困るから。」


「なるほどな。」


「だが、いいこともある。メリットのいい結婚相手もあちらから寄ってきてくれる可能性もあるらしいじゃないか。」


「あのネット・・・だっけか?あんな奴ばっかりだったらどうする気だよ。」


「・・・それは・・・その時考える。いい相手もきっといるはずだ!」


「・・・だといいな。」


 なぜか相棒はあまり乗り気じゃないらしい。


「どうしたんだ?何か不安要素でもあるのか?」


「いや、そうじゃねぇが。・・・物語に出てくる火の天使の選択は正しかったのかなってな。」


「復讐で全てを焼き払い、裁かれた天使か?それとも復讐の連鎖を恐れて人との関わりを絶った天使か?」


「両方だ。」


「・・・どうだろうな。」


 俺には答えはわからない。

 大切なものを奪われて、復讐に沈んだ天使も、復讐の連鎖を恐れて閉じこもることを決めた天使も、極端すぎる気がするが、間違っているとも思えなかった。


「そういえば、シアって女がいってたな。復讐にかられて堕天使になったって説もあるってよ。」


「そういえば、そんなことも言ってたな。ようするに悪魔になったって説か。」


「天使が堕天すればそのまま2階級は上がる強さになるからな。もしそうだとしたら強大な魔王の誕生だ。」


「喜ぶのは魔族だけだろう?」


「そうだな。天界は逆に大騒ぎだ。」


 相棒の冗談はあまり笑えない。

 大切な人を失って、復讐にかられても天使で居続けるには鎖が必要だ。

 それは俺達が一番よく知っている。


 あの物語の天使はどんな鎖を課したのだろう?

 復讐にかられた天使をつなぎ止めたのはなんだったのだろう?


 夜が更けていき、ベッドに横になった。

 特に睡眠が必要というわけではないが、本も読み切ってしまった。

 今度その天使についての物語を借りてみるのもいいかもしれない。


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