第三話 ブレイブエンブレム
「それは、ブレイブエンブレム……勇者の力が封じられている珠紋です」
「やはりこの中の模様はブレイブエンブレムか……」
アルは自分の予測が当っていたかと溜息混じりに呟きながらその玉が元々入っていた
長い紐付きの小袋に入れてイオリに返却する。
「でも、よくわからないんです。それ。何せ僕が生まれた時に手の中に握っていたらしくて。
それを持っていたら普通の人より何倍も力を出せるんですけど。お祖父さんが言うには僕
は珠紋を作る能力があって生まれながらにその能力が高いから勇者の力が体に現れる前
に珠紋になって体の外に出たんじゃないかって……」
「そうだな……。普通、ブレイブエンブレムは額や手、胸、背なんかの上半身に模様が浮か
び上がり模様の大きさに比例して勇者の力も強くなる。イオルは背中の全面に模様が広が
っていてその力は歴代勇者最強と言われてたもんだ。」
「お祖父さんの背中の模様、凄いですもんね。普段は珠紋の力で隠しているけど……」
「それがお前の物ならお前は勇者って事になるな。でも、そのブレイブエンブレムの珠紋、
他の奴にも使えるのか?」
「はい、使えるみたいです。少なくてもお父さんやお祖母ちゃんは使えました。」
アルは真剣な顔になるとイオリに言い聞かせる。
「いいか、イオリ。その珠紋の事は誰にも言うな。そして、その力も必要な時以外使うな!
例え使う事があっても極力、他の者に見られないようにしろ! もし、その珠紋の事が誰
かに知られたら、その珠紋欲しさにお前の事を狙う奴らがわんさか遣ってくるぞ!」
「今までも、お祖父さんにもよく言われてたんで気をつけます。」
「それでいい。」
アルはイオリの返事に満足して頷く。
「所でイオリ、さっき珠紋を作る能力があると言ったな? お前は珠紋を自分の意志で作る
事が出来るのか?」
「はい、珠紋の作り方や使い方はお祖父さんに習いました!」
「そうか。確かにイオルは珠紋作製や珠紋術のスキルを持っていたからな。イオルから習う
ことは出来たろう。」
アルは黒々とした顎髭を手で撫でながらイオリの今後について考える。
イオリが此の先、自分の元いた世界に帰還出来る可能性は非常に低い。
ならば、この世界で生きていく手段を身につけ無くてはならない。
勇者として生きるという選択肢も在るにはあるがブレイブエンブレムを奪われる危険性を
孕んでいる。
ブレイブエンブレムを奪われれば当然、勇者でなくなる。
それでは意味がない。
それなら、イオリの持つスキルを伸ばしたり身に付けさせたりする方が余程いい。
それに職人の感というやつかイオリには何か光るものを感じるのだ。
「なあ、イオリ。俺の弟子になる気はないか?」
「弟子に?」
隣に座るハボアが驚愕する。
何せ今までアルは、自分の元に訪ねてきた弟子入り志願者を尽く断ってきた。
唯一の例外が息子である自分自身で他にはいない。
だから、アルがイオリを自ら勧誘する事に驚かずにはいられなかった。
「そうだ。お前が元の世界に戻る方法が無い今、この世界で生きて行かにゃあならん。生
きて行くには金がいる。金が欲しけりゃあ働かにゃあならん。その働く為のスキルを身に
付ければこの世界でも生きていける。幸い、イオリは珠紋が作れる。珠紋を売るだけでも
生活出来るが魔道具職人になりゃあ働き口の幅が広がる。どうだ、弟子になってみない
か?」
「魔道具職人ってどんな事をするんですか?」
「口で説明するより見たほうが早い。工房を見せよう。付いて来い」
工房に向かうアルの後をイオリは不安と好奇心に胸を躍らせトコトコと軽快な歩みで付い
て行き、更にその後ろからハボアが付いて行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわあ~! 色んな物がいっぱいある!」
「普通の道具類に珠紋を使っている物を魔道具と呼ぶんだ。場合によっては、馬車や船に
も珠紋を組み込むことがある。」
案内された工房に足を踏み入れたイオリは机や棚、鍛冶に使う炉、床に置いてある道具
類に目を奪われる。
中には武具類も混じっている。
「武器なんかも作ってるんですか?」
イオリも男の子らしく武器、特に剣等に興味があった。
「ああ、造るぞ! 尤も造るのは珠紋を利用した魔法武器だがな!」
其処いら中に置いてある道具類を見て回るイオリ。
(こんなに色んな道具を作れるようになるのか……。物を作るの好きだしアルさんの弟子に
なってみても良いかな?)
「僕、魔道具作ってみたいです! だから、弟子になります!」
「そうか! 良く言った! そうと決まればお前の能力やスキルを調べてやろう!」
「能力とスキル?」
「ああそうだ! 能力とスキルを事前に知る事でどういう風に修行を積めばいいのか、その
指標になる」
早速、アルはイオリの能力値とスキルを調べるためにレベル測定魔道具を棚から引っ張
りだす。
「イオリ、この測定器の丸い線が引かれている中に手を置いてみろ」
イオリはアルの指示に従い測定具の直径二十cm位の丸の中に手を添える。
すると、すぐ隣りの表示板から次々と能力値とスキルの名前、その横にレベルが表示さ
れる。
名前 久那技 伊織
年齢 十歳
生命力 D(Max S)
魔力 C(Max S)
能力総合評価 D(Max S)
スキル
剣術 D(Max S) 格闘術 D(Max S) 能力値上昇 E(Max S)
珠紋作製 A(Max S) 珠紋術 A(Max S)
称号
異世界転移者 勇者の孫 異世界で生まれた勇者 アルノートの弟子
説明しよう!
能力値のレベルは【L←S←A←B←C←D←E←F←G←H】の左から高い順に並び、一
上はL級(伝説級)から一番下はH級(ド素人級)の10段階設定である。
ちなみに、L級所持者は測定魔道具誕生後、未だ嘗て歴史上存在した者は一
度もない。
もし、存在したなら神となることが出来ると言われている。
横のカッコ内は最大成長限界レベルでこれ以上成長出来ないという意味だ。
ただし、能力やスキルを伸ばす為の努力をしなければ当然、成長することは無く、最大
成長限界レベル未満で人生を終える事となる。
もっとも、最大成長限界レベル未満で人生を終える者の方が圧倒的に多い。
しかしながら、イオリの能力値は十歳の子供にしては非常に高く、最大成長限界レベル
もすべてS級というとんでもないものである。
アルもハボアも呆然と表示板を眺めていた。
「………」
アルはイオリの能力のあまりの高さに無言で考え込んでいる。
すると隣のハボアから、
「父さん……、ブレイブエンブレム……」
と言う呟きが聞こえ、アルはハッと我に返る。
「そ、そうだ! イオリはブレイブエンブレムを持%E
話が一段落ついたので次話は少し時間をおいて更新します。
❈7/1修正 ステータスレベルに称号を追加しました。