第二話 僕のお祖父さんの幼なじみ
筆が乗ってきたぜ!
でも目が疲れてきたぜ!
アルノートはついでにこの場にいる自分の家族の紹介を始めた。
「右にいるのがルビア。俺の妻だ」
一歩、女性が前に出て来て柔和な笑顔で挨拶をする。
「初めまして、私がルビアよ。よろしくね。」
「で、左にいるのが俺の息子のハボアだ。」
少年と青年の間くらいに見えるハボアは軽く右手を上げてそれを挨拶とする。
「しかし、イオリって変わった苗字だな。イオリは貴族か何かか?」
「いえ、違います。 イオリが名前でクナギが苗字です。それと貴族って何ですか? 僕は
普通の家の子供です。」
「そうか、イオリの所は苗字が在るのが普通なのか? この辺の地方の国々は苗字がある
のは貴族や王族くらいなもんだからな。」
「所で、此処って何処なんですか?」
「此処はレイバック大陸のグロリアて国にあるベルン村の外れの俺の家だ。」
「れいばっく? ぐろりあ?」
あれ? と首を傾げて何かを思い出したイオリ。
「どうした、イオリ?」
疑問を口にするアルノート。
「その名前、僕のお祖父さんからよく聞きました。『レイバックのグロリア王は世界で一番人
使いが荒い王だ。おかげで何度も死にかけた。でも、魔神との戦いで異世界に飛ばされ
て、その王からも勇者の宿命からも逃れることが出来た』って。」
アルノートは目を見開き驚愕した表情を浮かべた。
「い、異世界と言ったかイオリ! それに、ゆ、勇者と……」
「う、うん。」
「もしかして、お前の爺さんはイオルって名前なのか?」
「そうです。でも、何でアルさんが僕のお祖父さんの名前を? そう言えばアルノートって名
前、お祖父さんの幼なじみで親友のドワーフだってよくお祖父さんが話してくれました。もし
かしてアルさんって……」
アルノート、――アルは腰が抜けたようにヘナヘナとその場にへたり込んだ。
「と、父さん!」
「あらあら! 貴方、どうしたんですか!」
顔を俯かせていたアルが顔を上げ天井に向かって笑い声を轟かせる。
「ハハ、ハハハハハハハハ、生きてた、生きてたかイオル! そりゃそうだ! 魔王と戦っ
て無傷だったお前が魔神如きに殺されるはずがないよな!」
目尻に涙を浮かべて一頻り笑っていたアルは徐ろに立ち上がり、ベッドに寝ているイオリ
に向かって柔和な笑顔を見せた。
「改めて自己紹介だ、イオリ! 俺はアルノート、お前の爺さんの幼なじみにして大親友の
ドワーフだ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
イオリが起きたその日は、イオリの体に障るということでルビアがアル達を強制的に部屋
から追い出し、イオリを休ませた。
翌日、イオリが復調したのを確認した後、遅めの朝食を食べ終えた後、アルは昨日の話
の続きを居間でイオリとしていた。
「アルさん、どうして僕のお祖父さんの事がわかったんですか?」
「そりゃあ、グロリア王に対してイオルは毎日口癖のように昨日お前が言っていた事を愚痴
っていたもんだからな。」
アルは苦笑いで応える。
「しかし、異世界かあ。あの与太話、本当だったんだな。」
「話って?」
「ああ、イオルが最後に戦った魔神タイランは異世界の研究をしていたってな。それに目を
付けた当時のグロリア王はイオルに魔神討伐を命じたんだ。魔神タイランの異世界研究の
成果を分捕る為にな。しかもその時、イオルを魔神と戦わせてその間にグロリア王の配下
の人間が魔神タイランの研究成果を回収する手筈だったらしい。俺も冒険者として魔神討
伐に参加していてその事を知った時、急いでイオルの所に駆けつけたんだが一足遅くて丁
度魔神と相打ちした所だったんだ。俺はその事も在って冒険者家業を引退して、今
は魔道具職人として生活している。まあ、その魔道具職人でも色々ゴタゴタがあって、今
じゃあこの辺境の村で細々と仕事をしているんだが……。」
苦虫を噛み潰した様な顔で話していたアルの話は最後の方、小声となり言葉を濁した。
「そうだったんですか……。 所で僕のお父さんお母さんがどうなったか知ること出来ないん
でしょうか?」
「……悪い。現状じゃあどういう状況だったかお前の話だけでしかわからんから俺も判断の
下しようがない……。」
アルは困ったような顔をして答える。
「そうですか……」
アルの返答で俯くイオリ。
「所でイオリはこの後どうする? イオリさえ良ければこの家にずっといても構わんぞ? た
だ、時々俺の仕事や家の手伝いをしてもらわにゃあならんが……」
イオリは当然この世界で身寄りがいない。頼れるのはアルだけだ。だからアルはこの話
を申し出た。
「いいんですか?」
「もちろん! お前は俺の親友の孫だからな!」
「……よろしくお願いします」
「おう! これからよろしくな!」
「所でこの指輪ってアルさんに嵌めてもらったんですけど、何なんですかこの指輪? アル
さん達の言葉がわからなかったのにこれを嵌めた途端、わかるようになったんですけど…
…」
「そいつは試作品の翻訳魔道具だ。それを指に嵌めてりゃあどんな種族の奴とでも会話は
もちろん字の読み書きもあっという間に覚えられるって代物よ!……ただ、動植物の言葉
も翻訳するから要改良なんだがな。」
考えてみてほしい。
狩りや採取、調理の時にこの指輪を嵌めている時の事を。
動植物の言葉を理解出来るということは動物や野菜の悲鳴や命乞いの言葉もわかって
しまう。
そんなモノを聞いた後では普通、食欲が減退して食事が喉を通るわけがない。
だからこの指輪は失敗作なのだ。
「……それって凄くイヤなんですけど……」
「なあに、五日で言葉や字は覚えちまうし、それ以上指輪を嵌めなけりゃ動植物の言葉も
覚えんから大丈夫だ!」
「父さん、俺は大丈夫じゃなかったよ……」
アルの隣に座っていたハボアが訴えかける目でアルを見る。
この指輪型魔道具の実験体にされたハボアは実験の後遺症で今も少し苦しんでいる。
「……そう言えば、イオリに返さなきゃならんものが在った。」
ハボアの言葉を聞かなかったことにして懐から玉を取り出す。
それは模様が中に浮かんでいる玉だった。
「イオリ、お前の服を寝ている間に着替えさせた時に出てきたものだ。これは何だイオリ?
珠紋の様な感じだが中に浮かんでる模様は……」
珠紋とは魔法を使う時等に必ず必要になる媒体である。
指輪型魔道具に付いている石も実は珠紋である。
「それは、ブレイブエンブレム……勇者の力が封じられている珠紋です」




