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ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第二章 巣立ち
22/23

第一話 そして五年後

 投稿を再開します。

 ベルン村はこの五年で大きくなり、街と呼べるまでに成長を遂げた。

 今ではベルンの港街と名を改め、グローリア王国の首都デリスに匹敵する繁栄ぶりであ

る。


 そして、このベルンの港街には裏の顔が存在する。

 それは異世界日本との出入口ゲートとしての役割だ。

 このベルンの港街を拠点に日本と交易を行い、経済活動が活発である。


 だが問題もある。

 異世界の地球側では日本が何故、世界各国の衰退とは真逆に繁栄しているのか?

 その謎を解明する為、各国では日本に対してスパイを送り込んでいる。

 が、昔の日本と違いスパイに対抗する防諜術等の対策が格段に上がり、未だ各国とも

その謎を解明する手がかりすら掴めていない。


 スパイ活動と同時平行して各国、特にアメリカとロシアとEUが日本に対して外交圧力を

掛けてきているが龍玉リュウギョク 鷹臣タカオミは柳に風の如く巧みにやり過ごす。


 そんな世界情勢の中、イオリは逞しく育っていった。


 現在、イオリは街の代表者でありガウルン伯爵の代理人として日々忙しなく働くイオル

の屋敷で生活していた。

 理由はアルから『もうお前に教える事は無い』と一人前として認められたからだ。

 この世界では職人が師匠が弟子を一人前と認めたら独り立ちさせるのが慣例である。


 ちなみにハボアは既に一人前であるが独り立ちする為のお金が無かった。

 だが、タイランの隠し財宝で金銭の心配が無くなったので妖精大陸アルフェイムに渡

り、ドワーフの国で魔道具作りの修行に励んでいる。


 イオリはイオルの手伝いもしているという事もありイオルの下に居る。

 そのイオリの今現在のステータスレベルは、




 名前 久那技 伊織

 年齢 十五歳


 生命力 A(Max L【測定不能】)

 魔力   S(Max L【測定不能】)


 能力総合評価 A(Max L【測定不能】) 


 スキル

  剣術 L(Max L【測定不能】) 道具作製 A(Max A)

  魔道具作製 L(Max L【測定不能】) 魔道具使い A(Max L【測定不能】)

  珠紋作製 L(Max L【測定不能】) 珠紋術 L(Max L【測定不能】)

  漁師 D(Max B)


 称号

  異世界転移者 勇者の孫 勇者の証を捨てし者 限界を超えし者 アルノートの弟子

  駆け出し漁師 一流道具職人 極めし魔道具職人 神剣使い 一流魔道具使い

  人喰い殺し




 スキル《漁師》は、釣り道具や漁の道具を色々試していたらいつの間にか取得してい

た。


 剣術に関してはイオルすら打ち負かす上に珠紋を仕込んだ魔法剣をスキル《魔道具使

い》で強化すれば最早イオリに敵う剣士は存在しない。


 そのイオリは冒険者ギルドを通してグローリア王国スレイオン王の指名依頼により、人

喰い(人の肉の味を覚えた猿獣)討伐の仕事をシモン教司祭となったイシュファラと共に

(こな)している最中であった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 場所は、ケサラの街より西に三日ほど行った森の中。

 木々が生い茂り、足下も膝まである草で足捌きや剣の軌道が制限される地形。


 イオリは現在、体長五m以上ある人喰いと目の前で睨み合っていた。


 何も好き好んでこんな場所を選んだ訳では無い。

 人喰いを探索中、たまたま人喰いに襲われた行商人を助けた時、山道の一部が崩れて

人喰い共々山の斜面を滑り落ちた。

 しかもその時、剣が半ばで折れてしまい絶賛ピンチの真っ最中だった。


「……とんだヘマをしたもんだ。 爺ちゃんに何を言われるやら。 それにこんな事なら不

精せず、さっさっと新しい剣を作っとけばよかったなあ。」


 折れた剣を目の前に突き出し、突きの構えを取りながら独り言ちる。


 攻撃手段は他にもある。

 全属性の対応の虹皇石の珠紋を一応持ってきている。

 が、五、六mしか無い至近距離では発動するまでのタイムラグが生じ、避けられてしま

う可能性が高い。

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると突然、人喰いが真横に激しく吹き飛んだ。


「イー君! 大丈夫!」


 気配を消して近づいたイシュファラの放った武器、フレイラフレイルによる中距離から

の攻撃である。


 フレイラフレイルはモーニングスターとフレイルを融合させた武器で、近距離では鎚であ

るモーニングスター、中距離ではフレイルになるランクAの可変武器だ。

 これも当然、イオリの作である。


 この隙を見逃すイオリでは無い。

 素早く無属性の珠紋《緑縛》を発動させ、回り生えている蔓性(つるせい)の植物を操

り、人喰いの体に絡ませ動きを封じる。

 地面に仰向けに倒れ、蔓により地面に縫い付けられた状態で暴れる人喰いの頭の方に

近寄るイオリ。


「これだ終わりだ」


 十歳の頃に初めて作った、半ばで折れた剣にスキル《魔道具使い》で強化を施し人喰い

の喉を掻き切る。

 人喰いは一瞬、ピタリと動きを止める。

 喉がパックリ割れてその断面から血潮が吹き出す。

 人喰いは暫く痙攣していたがやがてその痙攣も止まる。

 

 人喰いが死んだ事を確認したイオリは人喰い討伐照明の魔石を胸を裂き取り出す。

 人喰いの魔石は赤黒い色をしていた。

 その魔石を穢れを遮断する特殊な袋に入れてイシュファラに渡す。


 イオリは人喰いが横たわる地面を五m程陥没させて火属性の最上級珠紋術《光炎》を

発動する。

 白く発光する炎と高温の熱で完全にこの世からその姿を消滅させた人喰いの死体が在っ

た地面の穴にイシュファラが無言で近き、光属性の珠紋を仕込んだ伸縮性の杖を伸ばし、

その穴を光属性の珠紋術《浄霊》で人喰いの霊を鎮め、《浄化》で清める。

 最後にイオリが地面を埋め戻して完了。


 此処まで念入りにするには理由がある。

 猿獣は人喰いとなった時、人の穢れを体内や魂に吸収し呪われた存在となる。

 それは死んだ後、死体になっても残リ続ける。


 もし、呪われた人喰いの素材で道具を作れば、その道具の持ち主は呪いを一身に受け、

やがて死に至る。

 だが極稀にその呪いに耐え切る者が出る。

 その者は呪われた存在、邪神となり周りに汚れと死を振り撒き破滅と滅びを(もたら)す。


 一度、人族の大陸でそのような出来事があり、邪神が出現した国は一夜にして滅び去

り、以後勇者が邪神を倒すまで生命の住むことが出来ぬ土地と化していた。

 今現在もシモン教の司祭たちの手により少しずつ浄化作業が行われているが、最近に

なって漸く人が立ち入れるようになったと言う話だ。


「さあ、ギルドに寄ってベルンに帰るかな」


 イオリは背伸びをして肩を解す。

 イシュファラはクスリと微笑し、


「ネー姉さんも首を長くして待ってると思う。 早く帰ろう」


 と、イオリと手を繋ぎイオリを急かせる。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 イオリは冒険者ギルドに依頼達成との報告と討伐証明部位の魔石を渡してベルンの港

街に戻る。

 後日、依頼料代わりの品が王よりシモン教を通じてイオリに渡される。

 イオリが長年待ち望んでいた物。

 ダグザの木の枝だ。

 ただベルンに到着するまでには数日掛かると言う。


 その間にイオリは人喰い討伐の折、折れた剣の代わりとなる新しい剣の製作に取り掛

かる。

 剣のアイデアは二つあった。

 だが一つはギミックがまだ完成していない。

 このギミックはイオリがシモン教の古文書を調べ、リヴァイヴスタッフを作り出す為にも必

要な研究中の仕掛けであった。


 仕方が無いので今回はもう一つの方、刀身と柄の間の空間に刻印珠紋をカートリッジの

ようにして交換出来る剣の作製に入る。


 まず用意する物は白銀鋼ミスリルと龍鱗鋼の合金のインゴット。

 このインゴットは以前イオリが珠文術《銀蝋》で予め作っていた物だ。

 珠紋術《銀蝋》でインゴットを刀身、ギミック部分、柄、鞘の四つに分けて作製。

 ギミックの部分の製作に一刻程掛かった。

 ギミックの部分が完成すれば残りの刀身、柄、鞘の製作は四半刻も掛からなかった。

 そして、刀身、ギミック、柄を組み合わせ完成。


 刀身は波打つ片刃の所為、クリスナイフと呼ばれる物をバスタードソードに仕立てた物

だ。

 刻印珠文をセットするギミック部分はレバーにより簡単に刻印珠文を切り替え、交換で

きる仕様にしてある。

 完成した鈍い紫色に輝く刀身を同じく鈍い紫色のミスリル合金製の鞘に収めた。


 試し切りをする為にベルンの冒険者ギルドの訓練場に向かう。

 丁度空いてる場所をギルドの受付で大銅貨一枚と銅貨五枚(千五百円)を支払った。

 

 魔道具《何処でも工房》から直径三十mm、長さ二mのオリハルコンの棒を取り出し地

面に突き刺す。

 以前アルがやった方法で試し切りを行なうつもりのイオリ。

 

 周りで訓練していた冒険者達がイオリの奇妙な行動に気づいてイオリに注目が集まる。

 イオリはそんな周りの冒険者の目など気にせず地面に突き刺したオリハルコンの棒と対

峙する。

 抜刀の構えを取るイオリ。

 一陣の風に乗って何処からか木の葉が舞い落ちてきた。

 木の葉が地面に着地するのが合図となり気合一閃、オリハルコンの棒を十回斬りつけ

る。

 

 しかし、先程と変化なくオリハルコンの棒はイオリの前に変わらず立っていた。

 イオリのその姿が滑稽(こっけい)に思えた周りで見学していた冒険者達からクスクス

と笑い声が漏れる。


「アイツ、金属の棒を切ろうとして失敗してやんの! 笑えるねぇ!」


 誰かのそんな言葉とともに冒険者達の間で爆笑の渦が巻き起こった。

 と、同時に澄んだ金属音が十回甲高い音が鳴り響き、オリハルコンの棒がジグザグに

バラけて落ちた。


 その光景を見た冒険者達は口をあんぐりと開けてイオリと斬られたオリハルコンの棒を

交互に見比べる。

 周りの人を気にする様子もなく刀身を調べる。

 刀身には刃毀(はこぼ)れ一つ無く、歪みすら見つからなかった。

 確実にランクS級に入る霊剣や聖剣の類の剣である。


「中々、良い剣が仕上がったなあ! そうだ! 名前はクリスブレードと名付けよう!」


 ネーミングセンスはイマイチのイオリであった。


 イオリは剣を鞘に収め、オリハルコンを回収する。

 其処へ先ほどイオリの事を笑いものにした二十歳前後の若者がイオリに近づいてくる。


「な、なあ! その剣、俺に譲ってくれねぇかあ? 金なら後でちゃんと払うからさあ!」


 典型的なチンピラ冒険者である。

 剣を手に入れたら金を払うつもりなど無く、バックレる気満々なのは一目見ればわかる。


「お断りします。 この剣は売り物では無いので」


 オリハルコンを拾い集めながら断るイオリ。

 

「てめぇ! 痛い目に遭いたいのか!」


 チンピラ冒険者が剣を抜き放とうとしたその時、誰かがチンピラ冒険者の肩を掴む。


「威勢がいいのは良いけど、問題を起こすなら黙ってはいられないわね」


「誰でぇ! 邪魔すんじゃ……」


 チンピラ冒険者が振り向くと、其処にはこの街の警備騎士隊長ネージュ=ブランシュが

居た。

 ネージュはベルンが港街として機能し始めた頃にこの街にガウルン伯爵の命令で騎士

隊長として赴任したのである。

 

「これ以上ゴネるなら騎士団の牢屋に一晩入ってもらうわよ。 あっ、それと貴方がイチャ

モン付けた其処の冒険者はランクS級よ。 貴方に勝てるかしら?」


「ガッ! ガキで、ランクS級の冒険者って……、もしかして《人喰い殺し》のイオリ!?」


 チンピラ冒険者は怯えた目でイオリを見る。


「ひょえ~! すんませんでしたー!」


 イオリの事を知ったチンピラ冒険者は一目散に逃げ出した。


「どうしたんですか? ネージュさん?」


 イオリは首を傾げてネージュに尋ねる。


「はぁ……。 その様子だと忘れているわね。 今日は私の家でイシュファラと夕食を一緒

に食べるって約束したじゃない!」


 イオリは慌てて思い出す。

 そう言えば昨日、ネージュにそんな約束をされたんだったと。


「す、すいません! 折れた剣の代わりの新しい剣を作ってて忘れてました!」


「いいわよ、もう……。 いつもの事だし。 それより早く行きましょう。 イシュファラが待っ

ているわ」


 イオリはネージュに手を引かれネージュの家に向かった。

 この小説をお読み頂きありがとうございます。

 次回の更新は一週間以降を予定しています。

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