表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブエンブレム ~僕、勇者なんて出来ません!~  作者: 真田 貴弘
第一章 偶然か必然か
13/23

第十二話 初めての剣

 今回は戦闘の為の準備話です。

 翌朝、今日から暫く日課の鍛錬は止め、アル達は朝食を済ませた後、人喰い対策での

役割分担を決める為、村の集会場に村人達を呼び集めて話し合う。


 其処にイオリや獣人族、妖精族の子供達も同席する。

 皆、十五歳未満で成人前の少年ばかりだ。

 さすがに女の子を参加させる事はしない。

 本当なら男の子達も参加させたくはないが、村長のガルフォードが後でどんな嫌がらせ

をするかわかったものではないので村人達は形だけの参加をさせる事にした。


 まず村人達を六グループに振り分け、一日四時間交代で見張りや見廻りを行なう。

 人喰い対策用の装備や道具類はアルとハボアが作る。

 人喰いを見つけた時はアルとハボアが待機している村の集会場に呼びに行く。

 子供達は朝と昼の間だけ、一グループに一人参加させ、人喰いを発見もしくは遭遇した

時、いの一番に逃す事等が決まった。


 アルとハボアは帰宅すると早速、村人達の為の人喰い対策用の装備類や道具類の作

製に取り掛かる。

 だが、イオリだけが遅れて帰宅する。


 イオリは帰宅途中、村外れの海岸に寄り道すると持ってきた土属性の珠紋を使用して

珠紋術《採取》と革袋を使って砂鉄を採取する。

 砂鉄を必要量採取し終えたら砂鉄で膨らんだ革袋を持って帰宅する。


「一体何やってたんだイオリ。その革袋の中身は何だ?」


「自分の剣を作る為の材料の砂鉄を砂浜で採って来たんだ!」


「材料の鉄なら工房にも有るだろう?」


「どうせならお祖父ちゃんの知り合いの刀鍛冶の人に聞いた方法で作ってみようと思うん

だ。」


 イオリはブレイブエンブレムの珠紋を専用の引き出しに仕舞う。

 作業の時はブレイブエンブレムの力が邪魔になるのでいつもそうしている。


「そうだイオリ、珠紋は武器との相性が一番良い土属性の硬化の付与を刻ん

だ刻印珠紋にするといい。」


 イオリはアルの指導に従い、まず硬化の術式を刻んだ刻印珠紋を製作する。


「さて、砂鉄からどうやって剣を作るんだイオリ?」


「まず砂鉄から鉄を分離するんだ。」


 イオリは土の珠紋術《抽出》を使って純度百%の鉄粉を取り出す。


「次にチタンて言うのを鉄を分離した砂から取り出すんだ」


 鉄分を取り除いた後の砂から白色の粉が出てくる。


「最後に炭を粉にして此れで素材の準備は完了、っと。で、後はこの三つを土属性の珠

紋術《混合》で一番良質な鋼になる数量で混ぜ合わせるんだけど、此れは色々試してみ

ないとわからないんだ……」


「……イオリ、その聞いた事の無い珠紋術は何だ?」


 アルはイオリの使用した高度な珠紋術の技術に唖然としながらも質問する。

 

「珠紋を作って珠紋術を使ってたら使えるようになったんだ!」


 アルは自分が苦労の末に生み出した珠紋術《銀蝋》一つとっても数年必要だったのに

其れと同等以上の珠紋術を思いつきで編み出したイオリに少し嫉妬心を芽生えさせた。


「はぁ……、もういいい……。続けろ。其れとその珠紋術、今度教えてくれ。」


「うん!」


 何気にイオリに珠紋術を教えてもらう事を約束させた。

 転んでもただでは起きないアルであった。


 イオリは試行錯誤の末、特殊鋼であるチタン合金を完成させた。

 このチタン鋼を使って早速、剣の形状に加工する。

 刀身の形は片刃の片手半剣、バスタードソードと呼ばれるものだ。

 最終作業として柄と刻印珠紋を取り付け、革製の鞘を作って完成した。


「出来たかイオリ! どれどれ……」


 アルが剣の出来栄えを鑑定する。


(!? おっ、おい嘘だろ! 何だこの剣!)


 あまりの出来栄えの良さに驚愕するアル。

 素材こそ鋼で出来ているのにもかかわらず、通常のバスタードソードよりも軽い上、重

心のバランスも良い。

 手に吸い付くような感覚。

 まるで自分の体の一部にでもなったような一体感。

 どれをとっても素晴らしい出来だ。

 しかし、実際に使用してみた場合はどうだろうか?

 

「イオリ、外に出て試し切りをしてみるぞ!」


「何を切るの?」


「これだ!」


 アルが手に取ったのは長さ約二m、直径三cmの鉄の棒をイオリに突き付けるようにし

て見せる。


「えぇぇ~! 其れいくら何でも無理だよう!!」


 イオリは抗議の声を上げるがしかしアルはその声を聞かず、イオリに外に出るよう促す。

 仕方なくイオリはアルに従い、後について行き外に出る。


 アルは適当な場所に鉄の棒を地面に突き刺す。

 そして、鉄の棒に対して正面に向かって上段に構える。

 力を貯めて懇親の力を込め、袈裟斬りに斬る。

 切り下ろされた剣。

 しかし、鉄の棒は斬れていない。

 だが、イオリの剣は折れてはいない。

 何も起こらなかった。

 と、イオリが思った瞬間、キイィィィンと澄んだ金属音が鳴ると同時に鉄の棒の中心付近

に斜めに切れ込みが入り、瞬時に切れ込みの入った上方部分が斜めにずれ、ドスッと地

面に音を立てて突き刺さる。


 アルは剣の刀身を見てみる。

 刃こぼれどころか傷ひとつ付いていない。


(この剣の素材は鋼で出来てるが、そんじょそこらの下手な職人が打った魔法金属製の

剣より格上だ……)


 アルは剣をイオリに返し、鉄の棒を回収して工房に戻る。

 

「イオリ……。スマンがステータス測定器で自分のレベルを測ってくれんか?」


「うん? いいけど……」


 イオリはステータス測定器を棚から引っ張り出してきてステータスレベルを測定する。


 その結果は……




 名前 久那技 伊織

 年齢 十歳


 生命力 D(Max L【測定不能】)

 魔力   B(Max L【測定不能】)


 能力総合評価 C(Max L【測定不能】) 


 スキル

  剣術 C(Max L【測定不能】) 道具作製 B(Max A)

  魔道具作製 B(Max L【測定不能】) 魔道具使い F(Max L【測定不能】)

  珠紋作製 L(Max L【測定不能】) 珠紋術 L(Max L【測定不能】)


 称号

  異世界転移者 勇者の孫 異世界で生まれた勇者 アルノートの弟子




 異様に道具作製、魔道具作製のスキルレベルが上がっていた。

 スキルレベルを表にすると次のようになる。




 道具作製/魔道具作製レベル

  ド素人      H

  素人       G

  三流職人    E~F

  二流職人    C~D

  一流職人    B~A

  超一流職人  S

  極めし職人   L




 イオリは既に一流職人の域に達していた。

 アルでさえこの域に達するには四十年近く掛かったのに。


「俺、職人として自信無くしちゃうなあー」


 アルは工房の隅に蹲り、のの字を床に繰り返し書いてイジケた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 イオリとハボアはイジケて遠い目をしたアルをヨイショして何とか立ち直らせ、人喰い対

策用の装備や道具類を完成させる。

 武器は槍、弓、弩。

 防具は作るのに時間が掛かるので簡単な革製の胸当て、腕当て、脛当て。

 道具は人喰いの場所を知らせる呼び子、魔獣避けの最上級結界石。


 魔獣避けの結界石は今まで核石に使う魔石が高価で数が揃えられなかったが、イオリ

のお陰で村を囲む分は十分確保出来たのでこの際作ってしまおうと言う事になった。

 此れで人喰い以外の魔獣や魔物も村にそうそう近寄らなくなる。


 作り終えたその足で村の周りに魔獣避けの結界石を設置する。

 アルとハボアは作業が全て終了したらその日の内に必要な物を村の集会場に持ち込

んで泊まり込む。

 食事はイオリかルビアが届ける事になっていた。

 人喰いが仕留められるか、この一帯から去るまで緊張した状態が続く。


 アル達は昼の空いた時間に武器の使い方や訓練法を村人達に教える。

 皆、武術としては素人であるが狩りで手慣れた道具である槍や弓であるのでそれなり

に使える。

 上級の魔獣である人喰い相手にどこまで通じるかわからないが……。


 子供達も訓練に加わるが、人喰いを倒すとう言うよりは自衛の為の訓練である。

 その中には当然、イオリも加わる。

 イオリだけは剣術以外の適性がないので主に剣術の鍛錬に当てる。

 その光景を見ていた男の子たちは賞賛の声を上げる。


「すげー! 剣を振る動きが見えない!」


 イオリの周りに集まる少年達。

 村の男の子達に囲まれて質問攻めに合う。

 そうしている内に獣人や妖精族の子供達と打ち解け合う。


 その子達と話をしていると村長の息子、ファイの話題があがる。

 此処に居る皆、ファイから嫌がらせを受けていた。

 中には怪我を負わされた子もいる。

 親であるガルフォードに抗議しても証拠が無いだの言い掛かりだのと言って取り合って

くれ無い。

 その為、獣人や妖精族の子供達は出来るだけ複数人で行動しているそうだ。


「アイツはしつこいから気をつけろよ! 何してくるかわからないからな!!」


 忠告に対して素直に礼を言うイオリだった。


 そんな日々が続いたある日の夕方頃、領主軍の総勢六十名からなる中隊がようやくやっ

て来た。

 だが何だか様子がおかしい。

 彼方此方に包帯が巻かれたり、担架に担がれた兵士がいる。

 隊長らしき人物が村長を呼んで来るよう村人達に命じた。

 程なくして村長のガルフォードが領主軍の隊長の元へと遣ってくる。


「此れは此れは領主軍の隊長様! ようやくこのベルン村に来て下すったのですね!

此れでこの村も安泰です!」


「挨拶は良い! 先ずは怪我人の収容と治療を頼みたい! 治療師と薬を寄越してくれ

!」

 

 ガルフォードが口をポカンと開けて呆気にとられた。


「いっ、一体、何があったんで?」


 苦虫を噛み潰した顔で隊長は答える。


「この村と隣りにあるに村、ホロに我らが駐留していた時、人喰いの襲撃に遭い半数以上

が殺られた。残った兵士もこの村に着くまでに人喰いの攻撃で皆傷ついてこの有り様だ。

ベルンの村に応援が来るまで何とか此処で持ちこたえねばならん! 悪いが協力しても

らうぞ!」


「ええ~っ! そんなあ~!」


 ガルフォードは落胆し、ヘナヘナと地面に膝をつく。

 と、其処へ事情を聞きつけたアルが遣ってくる。


「どけ、村長! イカン、こいつら傷が深い! この兵士達を直ぐに村の集会場に運んでく

れ! 其れと誰か俺の家に行ってルビアとイオリを呼んで来てくれ!」


 アルの指示に従い、犬獣人の子供がアルの家に急いで走って行く。


 村の集会場にはハボアが待機していた。


「どうしたの、父さん? いやに騒がしいけど」


「領主軍の兵士が人喰いに襲われて重症の兵士がかなりいる! 手伝え!」


「!? わかった、父さん!」


 アルとハボアが兵士達の治療に当っていた最中、イオリとルビアが癒しの杖を持って

遣ってくる。


「ルビア! イオリ! 怪我人だ! 重症を負っている! 直ぐに珠紋術で治療を頼む!」


「わかりましたわ、あなた!」


「うん、わかった! 師匠!」


 ルビアが自身の珠紋の杖を持ってきて治療に当たる。

 イオリは癒しの杖を使ってルビアの指示に従い兵士達に治療を施していく。


「ふう、何とかイオリのお陰で命は取り留めたけれど、この兵士さん達しばらくは絶対安

静ね。で、今どういう状況なのあなた」


 アルは苦虫を噛み潰したように顔を歪めて答える。


「……どうやら隣村が人喰いに襲われたらしい。領主軍は半数が殺られて、この兵士達

は命からがらベルン村まで逃げて来たそうだ。」


 そう、つまり人喰いはこのベルン村の直ぐ近くまでやって来ているのだった。

 小説を呼んでいただきありがとうございます。

 次の更新は水曜日の0時になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ