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58 些細な問題

 宴が行われた日の夜。すでに深夜を過ぎたころの時間。まだ冷たいと思える夜風が木々を揺らし、分厚い雲が空を覆っている。


 そんな山の中にも関わらずぽっかりと開いた空間。地面が抉られたようなクレーターがいくつもあり、そのうちの一つにエイタは立っていた。


 特に何かをするつもりはない。ただなんとなく見ておきたくなったのだ。戦いの痕跡を。


「凄まじいな。」


 なんとも中身のない感想を零しながら傷跡を追って点々としていると茂樹がガサゴソと音を鳴らし始める。


 まさか魔獣か?!と身構えたエイタの前に姿を現したのは所所身体に葉っぱをくっつけた黒髪の少女、ミカだった。


「霧島さん?こんなところでなにしてるんだ?」


「あー!エイタ君!やっと追いついたよ~」


 魔女のコスプレ衣装に身を包んだ少女が「せいっ!とうっ!」と草木をかき分けながらこちらに寄ってくる。


「も~こんな夜中にどっか行くから心配したよ。」


「霧島さんこそ夜中に山に入るなんて危ないぞ。俺は夜目があるから見えるけど真っ暗だろ?」


 言われたミカは少しほっぺを膨らませるが、すぐに空気を抜くとエイタの左側に並び立った。


「すごいね、くーねたんちゃん。一人でずっと戦ってたんだね。」


「あ、ああそうだよな。」


 暫く黙って戦いの跡を見ていたミカは一度深呼吸すると、ぽつりぽつりと独り言のように語りだした。


「私、くーねたんちゃんがこんなすごい戦いをしているときに何もできなかったんだ。」


 それは俺も同じだ。結局ジュプドロンの気まぐれがなければ攻撃を当てるどころか生きることすら許されないだろう。だから別に大丈夫だと言おうとすると、


「くーねたんちゃんがジュプドロンと戦ってるとき、エイタ君はあの大男と戦ってたんだよね。二人が命を懸けて戦っていた時私は何してたと思う?」


「え、それは、、、」


 わからない。あの時は一瞬の油断も隙も許されない状況だったから、ほかの何かを考えれる余裕はなかった。


 ミカは俯くと体を震わせ言葉をつづけた。


「私、はね、家で寝てたんだよ。二人が命懸けで戦っている間、ずっと!ずっと寝てたんだよっ!」


 ミカがジュプドロンと遭遇したのは知っていたが、その後どうなったかまでは聞けていなかった。まさかそんなことになっていたとは。


 でもそれはただ寝ていたわけではないだろう。魔王軍の幹部に遭遇したのだ。恐れくそれは、


「絶望、か?」


 その言葉にミカが今まで以上に苦しそうに口を結んだ。


「私だけなんだよ。二人の仲間になるって、そう決めたのに私は絶望に落ちた。」


「でも、立ち直ったじゃないか。あの時霧島さんが助けに来てくれたってことは絶望を乗り越えたからなんじゃないのか?」


「それだって、私一人の力じゃないよ。あの時、くーねたんちゃんが宿してくれた光を潰されて絶望した私の奥深くに残ってたのはエイタ君の炎だった。」


「俺の?炎?」


「うん。エイタ君の炎があったから、私は立ち直れたんだよ。それがなかったら、私は死んでたと思う。あはは、結局私は一人じゃ何もできないんだ。」


 自嘲しながらミカの表情がどんどんと暗くなっていく。きっと当時の事を思い出しているのだろう。どれだけ辛かったのか、それは俺にはわからない。


「でも、そんなもんじゃないか?」


「え?」


「俺だってさ、あの時霧島さんが来てくれなかったらあの大男の成れの果てに何もできずに終わってたと思うし、そうじゃなくてもジュプドロンに攻撃した後に霧島さんが命を懸けて逃げてくれたおかげで生きてる。」


「あっ、いやでも、、、」


 何かに気づいたように声を漏らすミカ。しかしすぐに頭を振って考えを追い出してしまう。


「今までもそうだ。俺が一人で何かをできたことなんてない。いつもみんながいてくれて、助けてくれたから、今があるんだ。」


「エイタ君、、、」


 ミカは自分が仲間として相応しくないのではないかと不安なんだと思う。でも仲間かどうかかを決めるのは自分の気持ちだけではないだろう。それは俺やくーね、ニイムが仲間として認めているかどうか。


 そして俺たちはミカを仲間だと認識している。掛け替えのない存在だと思っている。だからこそ、


「”ミカ”、ありがとうな。あの時助けてくれて。」


 時が止まった様だった。静寂の中で風が吹き、木々がわさわさと葉を擦らせている。


 やがて分厚い雲が運ばれていき月明かりが差し込むとそこには、


「もう、それはずるいよ。。。」


 口を尖らせ顔を真っ赤に染めたミカが視線を明後日の方向に向けてもじもじしていた。


 そんな可愛らしい表情をみていたらもう少しいじりたくなってしまう。


「どうしたんだよ。”ミカ”。そっちになにかあるのか?」


 顔を覗き込もうとするたびにミカが別の方向へと急速回転するのにさらに回り込んでいく。


「もう!もう!エイタ君のバカバカ!!バカーーーー!!」


 恥ずかしさに耐えられなくなったミカはそのまま村の方向へと走って行ってしまった。


「ちょっとやり過ぎた?」


 ま、大丈夫か。


 ミカの呼び方については近いうちに変えたいと思っていたし丁度良かった。


 ニイムが新しく仲間になったことでくーね、ニイムと二人の事は名前で呼んでいるのにミカだけ”霧島さん”なんて少し距離を感じるっていうか、仲間っぽくないもんな。


 でも冷静に考えたら俺も恥ずかしいな。村に帰った後普通に話せるだろうか。。。


 一度考えだしたらどんどんその思考でいっぱいになってくる。


 はっずっっっ!でも今更戻せない!どどどどどうしよう!


 その後唸りながら顔を赤くして村に帰るエイタを実は陰から見ている人がいるなんて知る由もなく。

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