キッド、言い放つ
ジョンが菩提樹館に雇われる際、面接したのは料理長だった。職歴や技術面の確認をして、問題ないと判断した。
雇用された初日に、マリーアに挨拶に行ったと聞いている。先程ジョンから聞き取った内容からやり取りを再現するならこんな感じか。
「では奥様にご挨拶に行きます。決して失礼のないように」
メイド長に連れられてジョンはマリーアの元へゆく。
「当家の内政を管理していらっしゃるマリーア様です。マリーア様、これは新しく料理人として入ったジョンにございます」
ジョンは緊張しつつ名乗りを終える。
「そう。ジョンはあの子の身内なんですって?よろしくね」
下級の使用人にも気さくに接するマリーア様の姿にほっとしたと、ジョンは料理長に語っていた。
そしてジョンがお館に務めることになってすぐの事。「先先代様」、現当主のアイゼンの祖父が館に訪ねて来た。
ジョンは食事の配膳に参加した。そして見た。マリーアが先先代を「お祖父様」と呼び、先先代が笑顔でそれに応える姿を。
どこから説明するのがいいか。
面倒だがやらない訳にはいかず、料理長はジョンに向き合った。
「マリーア様は、先代様の姉上のお嬢様だ。アイゼン様のお従姉になる」
「え?ご主人様の、姉の、娘の、従姉??」
混乱するジョンに、キッドが小さい子に言い聞かせるように言葉をつなぐ。
「アイゼン様のお父さんが先代様ってのはわかるよね。そのお姉さんの娘がマリーアさん。だからマリーアさんはアイゼン様の従姉」
ゆっくり丁寧に説明されれば、さすがにジョンにも関係が分かる。
「ああ。俺は、どうしてマリーア様がご主人様の奥様だと思い込んでたんだ…?」
それに応えたのは料理長だった。
「多分、メイド長がマリーア様を奥様と呼ぶからだろうな」
そう、メイド長がマリーアを「奥様」と呼んだから。ジョンは兄嫁がいつか話していた「近いうちに新しい奥様がいらっしゃるだろう」という言葉が現実になったのだと思った。
メイド長がマリーアを「奥様」と呼ぶのには理由があるのだが、ジョンはその事を誰からも知らされていない。
「それと先先代様とマリーア様が一緒のところを見たからか。マリーア様は、先先代様にとっては娘の娘、実の孫でいらっしゃるからな」
孫の嫁、ではなく孫そのものであるのだから親しいのも当然だ。
そして孫の中で唯一の女の子で、甘え上手なマリーアは祖父から特に可愛がられていた。
「マリーア様は嫁に出た娘がよそん家で産んだ娘で、更に違う家に嫁いでるんだよね」
丁寧な説明を始めたキッドに、何故今それを?とジョンは疑問に思った。
「嫁に出た娘はもう他人だ!ってにこやかにいう人もいるし、すごく遠い縁でも家族だよ!って全力でいう人もいるけど」
キッドはわざと言葉を切って一息ついてから満面の笑みを浮かべた。
「マリーアさんは、ご親族には違いないけどご家族って言っていいんだろうかねぇ?」
ケラケラと笑う子に、庭師も料理長も呆れた視線を送るが咎める気配はない。
ジョンは何か違う話題を、と思いそれが良いか悪いかの判断もつかぬまま声を上げる。
「そもそも、どうしてご主人様の従姉で他家に嫁しているマリーア様がお館で家政婦長をしているんですか?」
館の名前を決めておけばよかった。
修正入れる?どんな名がいいかな。