シュタイン、姪の行く末を憂う
「ようシュタイン、奇遇だな」
不意に声をかけられ、リンデン館の前当主であるシュタインが振り向くと相手は士官学校の同期であった。
「反撃作戦以来か。今は休暇か?」
前線にいるはずの彼にシュタインは問いを投げかける。
「ああ。うちの部隊、再編成される事になって一度首都に戻ってきた。お前は?」
「南方戦線が安定してるんで、順番に休暇をもらっている」
休暇をもらったシュタインは久々に自宅に戻った。
戦場ですり減った身には口うるさい妻との時間すら愛おしく思える。だがもっと愛おしいのは姪のマリーアと過ごす時間だ。
「そうかそうか!南部戦線、そこまで安定してるんだな。終戦が近いって噂もホンモノか!?」
「さあな。一年前もそんな話があったが破綻した。そんな簡単に終わらんだろう」
本当は、シュタインは数週間のうちに戦争が終わるだろうと知っている。今は水面下で条件を詰めているらしい。
その情報をもたらしてくれた相手を、シュタインはどうしても好きになれない。
情報部の大物であるカーマインはシュタインとは性格が合わない。親戚として礼儀は欠かさないよう接しているが、本当は近づきたくない相手なのだ。
話題を変えようとシュタインは反撃作戦での友人の活躍に触れる。それが自らの地雷を踏み抜くと予測もせず。
「しかし、お前の息子すげーな!あの状況で補給路を確保してくれたおかげで決着がついたようなもんだ」
その言葉にシュタインが眉をひそめる。
シュタインは幼い頃から「救国の英雄」として名高い父親と「稀代の才女」として知られる姉にコンプレックスを抱いている。そして出来損ないと判じていたのに得意分野で才能を発揮するようになった息子にも思うところが大きい。反撃作戦への貢献でアイゼンに階級を抜かれてしまった事は屈辱でしかない。
シュタインは奇抜な発想でやんごとない方を守りぬいた父や新しい時代を切り開いた姉と違って、コツコツ堅実に物事を進める男だ。そんなタイプはある意味「行動の読めない天才」より評価が高いのに、こじらせたシュタインは自己評価が低い。
シュタインが黙り込んでいると、理由を察した旧友が苦笑する。
「畑が違うんだから、気にすんな」
アイゼンはシュタインのように前線で地道な戦果をあげることは出来ないのだから、と。
「そういえば、アイゼンの嫁さん亡くなったんだって?あんなに仲よかったのに残念だったな」
戦友が流れを変えようと選んだ話題は失敗だった。シュタインは苛立ちを隠さず言い放つ。
「ふん。あんな押しかけ嫁、いなくなってせいせいしたわ」
それはシュタインの本音だった。
マリーアと結婚するはずだった長男に、一目惚れしたといって父親の権力を借りて強引に縁談を持ち込んだスカーレット。そんな彼女をシュタインはずっと気に入らなかった。
子どもに罪は無いと思いつつも、孫のキャサリンにも愛しさを感じる事は出来なかった。それを後ろめたく思うくらいには、シュタインは善人である。
友人はシュタインの発言に不快感を覚えたが、言葉にしないくらいには世渡りの出来る男であった。
スカーレットが病没すると、マリーアは「アイゼンも先立たれたさみしさを味わっているのでしょうね」と涙を流していた。かわいそうに。夫を亡くして婚家を追い出された不条理を思い出しているのだろう、とシュタインは思った。
アイゼンとの結婚話がなくなったマリーアに縁談を用意したのはシュタインだ。夫は善良な男だったが、姑の性根が悪くマリーアは辛い思いをしていた。その事にシュタインは責任を感じている。
喪が明けてからになるだろうが、今度こそアイゼンとマリーアは夫婦になれる。そうだ。新婚夫婦の邪魔になるキャサリンはしばらく遠ざけた方がいい。全寮制の女学校に放り込むか、いっそ嫁に出してしまうのはどうだろう。孫娘はそろそろ結婚できる年齢のはずだ。
シュタインは独身の部下の中から候補を絞り込む。終戦直後なら、急な結婚でも怪しまれずにすむだろう。
そういえば、戦争が近く終わりそうだとこっそり教えたマリーアは涙を流して喜んでいた。
「叔父様が危険な戦場に戻らなくてよくなる事が嬉しいです。それにアイゼンもリンデン館に帰ってくるのですね…!!」
次話は今話と対になっております。
本日中にアップ予定




