第六十ニ話 エリザベートの常宿ベルマン到着
――フウッ……。
誰もがホッと息をついた。
ひとまずは安堵する。
あたりはとっぷりと日が暮れ落ちていた。
だが、モンキー山には比べものにならないぐらい暖かいのが救いだ。
エリザベート一行は、モンキー山から一気に山を駆け降りそのまま宿ベルマンに着くことが出来た。
魔王の襲撃はなく心配したような事態にはならずに、肩透かしに思えるほど、なにごともなかった。
気を張っていた。
緊張感は和らいでくる。
警戒心や注意力は緩むことはないが――。
聖獣たちはバルカンは空中を飛べたし、ジスは大きくジャンプしながらすごいスピードで走り抜け、その一度の滞空距離には違いはあったがシヴァもセイレンも素早く跳躍しながら山を駆け下りて、宿ベルマンに着くぐらいはどの聖獣も難なくこなした。
「疲れたでしょう? ありがとう」
エリザベートは聖獣たちにお礼を言った。
三頭一羽をさすりながら。
アリアやクラウド、ルビアス王子も乗ってきた聖獣たちにいたわりと礼をのべる。
「ありがとうだ」
ダンバが聖獣ジスに礼を言うと、ジロリとジスは黒の魔法使いランドルフを見た。
「礼はどうした? とでも言ってるのかな〜? ジス。あー、ありがと」
ランドルフはイヤイヤ言ってる感が否めない。
「ほんと、お前は感じが悪いな」
「やだありがと」
ジスは褒めたわけじゃないのにランドルフは喜んでいる。ひねくれ者だな。
「ベルマンさんと奥さんに話してくる」
先に宿ベルマンにエリザベートが入った。
「ただいま」
「こりゃあ驚いた。……カッ、カトリーヌか?」
「ずいぶん変身したわね〜」
宿の主人ベルマンと奥さんのキッキはたいそうびっくりした。
そりゃあ出掛けた時は金髪短髪の少女が、帰って来たら黒髪の長髪に変わっているのだ。
「おかえり」
奥さんのキッキに抱きしめられて、エリザベートは照れた。
とっても嬉しかった。
「私の本当の名前はエリザベートというんです。ごめんなさい隠してて」
二人は心底驚いていたが、カトリーヌのそんじょそこらにはない強さを知っていたので、納得していた。
「まさか……、じゃあ、もしかしてカトリーヌは……、いや、エリザベートはあの勇者なんだな?」
「ああ、はい」
「へぇ〜! そうかっ、そうかっ! こいつはすごいや」
「まあー、カトリーヌが勇者エリザベートだったのね。どうりでめっぽう強いはずだわ」
「ははっ、……私が勇者です。あのっ、ごめんなさいっ。黙っているしか出来なくって」
「良いのよ。勇者だって知れたら騒ぎになると思ったのでしょう?」
「ああ、……はい」
エリザベートはかいつまんで二人に話を聞かせ、今日大人数で泊まってもいいかたずねた。
「あったりまえだ!」
「大歓迎よ!」
宿のベルマンの主人と奥さんはいつでも優しく温かい。
エリザベートはずっと正体を黙っていたことに後ろめたさがあったが、二人に受け入れてもらえてホッと胸をなでおろした。