天然レダと純真ヒナタ
『月光花の丘』
午後10時を回ったそこは、宵闇深く月光が更に煌めきを放つ。
そのあるセーフティエリアには、黒に重きを置いた装備に身を包んだギルド『月影朔夜』の3人と、純白の白馬ユニコーンの姿が。
レダの性別を理解したヒナタは、不信感に満ちた瞳をユニコーンに向けていた。
「つか、こいつマジただの女好きじゃないっすか…」
内情はこの一言に尽きる。
このゲーム内で、処女であるかどうか等の判別方法など存在しない。
となれば、女性プレイヤーに弱い、としか言いようがないのである。
ヒナタの一言で、レダとダンも同じような視線を向けたのだが、ユニコーンは相変わらずレダしか見ていない。
それが、不信感ならぬ残念感を呼び込んでいた。
「なんかもう、どうでもいいっす……」
完全に興味を失くしたように、ヒナタは地に寝っ転がってしまう。
「まぁまぁ、こういう特性なんだからいいんじゃないか?」
ダンはダンで、座り込んでネットを開き出すのだから、ヒナタと同じくどうでも良くなってしまったか。
レダはというと、また甘えてきたユニコーンをなでなで。
ダンの言う通り、別にユニコーンは悪くはないのだしと、触り心地抜群のその体躯を堪能する事に。
まぁ、純粋に喜んで触っていた自身はもういないのだけれども。
そんなゆったりとした時間は長くは続かない。
時間も時間。
そろそろここを出てバリューダスのクエスト報告くらいはしておきたい。
立ち上がったダンとヒナタを見て、レダはユニコーンにお別れを言う。
「…またな」
簡潔である。
1つ嘶くユニコーンに、最後とそのたてがみを撫でて手を振って。
セーフティエリアを出る。
1歩
トコトコ
2歩
トコトコ
3歩
トコトコ
…………。
「ちょっとちょっと、レダさ〜ん」
「…いや、俺に言われても……」
だってだって、勝手について来ちゃうんだもの。
またねって言ったもん。
ちゃんと言ったもん……。
別れを告げたはずのユニコーン。
付いてきます。
ピッタリと。
「もう! 付いてきちゃダ〜メ!」
ブルルルルッ
「ダメったらダァ〜メっ!!」
ブルルルゥ!
「むぅう、メっ! なのっ!!」
ブルゥブルルゥ!
ユニコーンの正面に立ち、片手は腰に、もう一方は人差し指を立てて、メッ!
「……なんすか、これ……。萌え死ぬっす……」
「……俺も」
白黒ショートに全体的に黒い全身装備、更にマフラーの最強プレイヤーに変わりはない。
変わりはないのに、メルヘンワールドを繰り広げられたダンとヒナタ。
可愛すぎる仕草に最強ワード。
秘技、天然萌え殺し (桃香命名)
そんなワールドに耐えきれなくなったのはダン。
「ま、まぁまぁ。別にいいんじゃないか? どうせ死に戻る事になるんだからな」
「…む、そっか。そうだね。ーー全く、本当に甘えんぼさんなんだからっ!」
「レダ、頼むからいつも通りにしてくれ……」
「え? ああ、わかった」
片手で顔を覆い出したダン。
どうしたんだろう??
秘技、天然萌え殺し
これは勿論、天然だから最強なのだ。
「はぁ、よし行くか。……ヒナタ?」
そう言えば大人しいな、と思ったら。
「ムリ、死ぬ、萌え死ぬ、マジムリ、しーー」
地に膝をついて両腕で身体を抱き抱え身悶えているヒナタがいました。
「…ヒナタ? どした?」
「どした? じゃねぇっすよ!! マジでレダさん俺のこと殺しにきてるっしょ!!」
「……は?」
「ああああああああ!! 何このド天然っ!!!」
その後もぶつくさ言ってようやく立ち上がったヒナタは、行くっすよっ!! とプリプリ。
なんで怒ってるのか、とダンに問うたが、苦笑いを返されるだけだった。
さて、ユニコーンを連れて歩く3人が出会った死に戻りの相手。
レベル33 ヒッポグリフ
ワシの頭と翼、馬の下半身。
走る飛ぶ火を吐くと、地と空からのデカい体躯と質量を感じさせるヒットアンドアウェイ。
届かない空から火を吐いてくる等、常に接近して戦わせて貰えない相手だ。
まぁオレリウス討伐後の時は、突っ込んで来たのをとりあえず避ければ、突っ込んだ勢いでそのままドーンって勝手にどっか行ったから楽だったけど。
3人の目的は第1の街へ戻る事。
別に死に戻ろうとしなくとも、ここから生きて出られる等思えない。
どうせ勝てないにしても、折角エンカウントして棒立ちは味気ないし勿体ない。
やっぱり3人は、剣を抜いて対峙する。
と、ユニコーンも並び立つ。
ん? そう言えば、
こいつ、レベル35だよな。
え、やっぱ一緒に戦うの?
ブルルルルルルルッ!!!!
あ、そう。
3人と1体を視認したヒッポグリフ。
丁度地に降りていたヒッポグリフは、前足を1度蹴って、
突進
目標、レダ。
身構える、レダ。
思わず下がる、レダ。
何故かレダをターゲットにしたヒッポグリフだが、それは完全な失策だった。
ヒッポグリフがレダに向かって突進。
レダが身構えたと同時にーー
グブガルルルルルルルルーーーっ!!!!
ダンとヒナタを威嚇した時の比ではない、雄叫びとも言える程の嘶き。
強烈な迫力でレダの前に出たユニコーンに、思わず下がったレダ。
ヒッポグリフはなんとブレーキをかけたが間に合わず、ユニコーンはその長く鋭い角を向けて飛び込む。
角がヒットした後も暴れるユニコーン。
ユニコーンの暴れっぷりには、無論暴れているのだから洗練された動きなど皆無だ。
ダンの解説を思い出す。
ユニコーンは本来、恐ろしいほど獰猛で警戒心が強い、と。
そのユニコーンの獰猛さに、驚愕は隠せなかった。
ユニコーンは、ヒッポグリフにダメージを与えてはいるが攻撃というより暴れているだけの状態。
更に、自分達3人とのレベル差を考えるに、パーティ補正でも有るのだろう。
ユニコーンの攻撃力が、3人のレベルに合わせ下降修正されているようだ。
つまり同レベル帯にしては与ダメージが少ない。
けども、ヒッポグリフはユニコーンの勢いに押されて自由に動けないでいる。
これをチャンスと見ない訳にはいかない。
レダ、ダン、ヒナタは、散開してそれぞれヒッポグリフへ攻勢を開始。
ユニコーンが押さえている間、斬撃を打ち込めると。
かなり稼げる、と思った3人だが、そうは問屋が卸さない。
馬の尾だと言うのに鞭のように動き、後脚の蹴り上げは脅威。
側面の翼はバサバサとかなり邪魔で、ワシの頭は多少旋回が出来て火を吹かれる。
更に、ユニコーンは何も考えず暴れる為、ヒッポグリフがどう動くか分からない。
攻撃パターンが読めない。
それが、面白い。
ゲームのモンスターの動きはパターン化されている。
今、ヒッポグリフがまともな動きをしないのは、相手がユニコーンだからに他ならない。
プレイヤーはどうしたってプレイヤーの、人間の姿からは異ならないが、ヒッポグリフとユニコーンは、ユニコーンの方が僅かに小さいがほぼ同じ大きさに同じ馬の形態なのだ。
ぐちゃぐちゃになった動きはまるで現実のよう。
そんなリアリティ溢れる戦闘が、面白いのだ。
ヒッポグリフの翼を掻い潜って胴体を狙うレダ。
しなる尾をかわして斬りつけるダン。
翼を狙ったヒナタだが、逆にその翼が視界の邪魔となって、ユニコーンに押されたヒッポグリフとぶつかる。
よろめいたヒナタは、更にユニコーンとヒッポグリフのせめぎ合いに巻き込まれて押し出された。
まともな攻撃ではないが、勢い良くぶつかったのが悪かったのかダメージを受ける。
「ヒナタっ!!」
駆け寄りたいが、レダはヒッポグリフを挟んだ反対側。
と、
ユニコーンが攻勢を緩め、その体躯をヒナタの前へ。
ヒッポグリフはユニコーンから逃れ、レダとダンを振り切って上空へ。
更に、ユニコーンはヒナタに向かう。
マーカーを赤表示にしてまでヒナタを寄せ付けなかったユニコーン。
緑のまま近づいてーー
ーーヒナタに角を向けた。
「ちょっ!! ーーーーえ?」
攻撃も覚悟しただろうヒナタだったが、ユニコーンは角でヒナタを小突く。
したらば回復するヒナタのHP。
「そういえば、ユニコーンの角は解毒作用があるって言うがーーここでは回復能力なのか??」
「…ダン、余裕?」
「そんな事ないが?」
ガブルルル
「有り難いっすけど……、不満顔マジやめて」
紫紺の瞳には、明らかな不平不満。
レダのパーティメンバーだからな、仕方なくだ。とでも言いたげな表情。
全く可愛くない奴である。
その後、次に上空からヒッポグリフが狙い定めたのはダンだったが、突撃してきたヒッポグリフにユニコーンは、
ツーン。
レダが躍り込み、ターゲットがレダに向くと、
暴れる。
全くわかりやすい奴である。
ユニコーンがヒッポグリフを抑え、3人が攻撃。
回復役にユニコーンも加わった事でーー
ーーヒッポグリフを倒してしまった。
あー、倒しちゃった。
うん。すごく楽しかったよ。うん。
正直、倒せるのなら、
こんな戦闘が出来るなら。
もっと遊んでいたい。
だが、問題は時間だ。
今のヒッポグリフでもかなり掛かったのだ。
どうしようか。
と3人顔を突き合わせる。
ダンとヒナタは遅くなっても構わないそう。
無理しなくても良いと、言ってくれる2人。
今日はまだシャワーを浴びてない。
でも、まだ遊んでいたい。
レダは、否、玲奈は、思い切ってストチャを開きーー
(お母さん。あのね、もうちょっとゲームしたいの)
ーーー(あらあらまぁま、じゃあ給湯器のスイッチ
止めてしまっていいのかしら?)
え? お母さん???
(でも、シャワーが……)
ーーー(あら、明日でもいいんじゃないかしら?
玲奈ちゃん、そんなに汗かいてしまったの?)
あ。そうか。
私、現実ではクーラーの効いた部屋で寝転がっているだけなのか…。
ゲーム内で飛んだり跳ねたりしてたら、つい…。
でも、そこは乙女としてどうなのか。
ん? 乙女?
…………。
(うん! 明日にする! 宿題も明日ちゃんとするね!)
ーーー(はぁ〜い、わかりました。でも、いい加減に
終わりにするんですよぉ〜)
(はぁーい!)
ちょっとその、ね?
「…もうちょっと良いって」
「やったっすねっ!!」
「よかったな。だが、無理はするなよ?」
うん、と言えば撫でられる頭。
チラリと目を向ければ、優しげな笑み。
思わずこちらも微笑めば、不満の嘶き背後から。
「よし! やるか!!」
「「おう!!」」
そうして、レベル32のラミア2体を相手して。
レベル34のグリフォンに3人とも蹴散らされて。
ユニコーンとお別れをして女神像の前。
はぁあ〜、楽しかった〜
大満足の3人は、バリューダスのおやっさんにクエスト達成の報告をして。
現在。
小さな広場で腰を落ち着けていた。
時間が時間だからか、他のプレイヤーの姿はない。
リリース3日目の今日だ。
おそらく、こんな時間に居るような熱心なプレイヤー達はフィールドに出ているのだろう。
「さてと、ギルド登録は明日にするか。2人とも明日空いてるか?」
「…予定なし」「同じ〜く!」
夏休みだと言うのに。
「つか! 思ってたんすけど!!」
勢いをつけてレダとダン、2人の顔を覗いてきたヒナタ。
「ん? どうした?」
「ダンさんって、もしかして大学生っすか?」
「クスっ、もしかしなくとも、大学だよ」
「マ〜ジっすか! 俺も大学っすけど、すげぇ落ち着いてっから社会人じゃねぇかって!!」
「社会人だったら、こんな平日の昼間にインしないだろ。クスクス」
本日は8月3日の月曜日である。
ヒナタも、平日にイン出来るから大学生だと思ったのだろう。
ダンの見た目はまだまだ若い。10代後半から20代前半。
爽やかしっかり系のダンと違い、やんちゃなヒナタもそのくらいの顔付きだ。
ただ、ヒナタは子供っぽく、ダンは大人っぽいのである。
「レダさんは〜、わかんねっす」
「…おい」
「だって! 男だ〜って時はぜってぇ中坊だと思ったんすけど、女の子って背の高さとかわかんねぇし」
なるほど、レダの身長設定は160だ。
居ない訳ではないが、高校男子に当てはめると大分小さいのだろう。
ヒナタはデカすぎるけど。
「…高1」
「……聞かなきゃ良かったっす」
「…あ?」
「いや、改めて考えると……、女子高生、しかも1年とか……。やべぇ……」
「…頭かち割んぞ」
「すんませんっしたぁあああああ!!!」
相変わらずの平謝り。
いや、ガチ謝り。
そんでもって、
ブハックスクスクスっ
相変わらずの爆笑魔。
なんだか面白くて、自身も笑い出す。
つられたのかヒナタも一緒になって。
深夜の小さな広場に、昼間のような温かさ。
数分間、笑いあった後に息を落ち着ける3人。
「はぁっ、笑った笑った」
「…お前ほんとツボ浅いよな」
「悪かったって。しかしレダ? 学年言ったら歳も分かるだろ、ホイホイ言うものじゃないぞ」
「あ。ーーわかった、すまん」
歳も個人情報と言えるだろう。
まぁ、名前よりは重要度は低いかもしれない。
が、トラブルを招くことはある。
ここはVRゲームゆえに、見た目からどうしようもないこともあるが、
子どもだから、歳を取っているから、と文句や無理難題を言う人もいるにはいる。
年上だから言う事を聞け、とかね。
また、年齢からその運動能力に目を向ける人もいる。
VR故にコントローラの操作技術は必要ない。
アバターを実際の肉体のように操作出来ればいい。
だと言うのに、実際の年齢や運動能力をそのままゲーム内に重ねる者も未だにいるのだ。
体が不自由な人も、この世界では関係ないというのに。
さて、ここで年齢ではないが、〈ストラフェスタ・オンライン〉で起こっている運動能力での誤解を紹介しよう。
それは女性プレイヤーの扱いだ。
性別によるステータス差など存在はしないのだが、
ただ女性というだけで、その動きを軽視する男性プレイヤーは多く、パーティを組んでもまるで守るようなプレイをする姿がそこにはある。
現実をそのまま反映している、という事だ。
故に今、女性プレイヤー同士のパーティが増えてきている。
無駄な盾役は不要、という事らしい。
だがまあ、その女性プレイヤーパーティの中でまたかなりハイレベルのパーティがいるらしく、すぐ見直されるだろうけど。
さて、玲奈ちゃんは今年で15歳の女性プレイヤー。
まぁ、レダに文句つける輩などいないだろうが……。
しゅん、と肩を落とせば、頭に感じる心地よさ。
そこに子ども扱いは感じない。
優しいお兄ちゃんは、うーん、と言って、
「俺は大学1年だ。歳はまだ18」
「…え?」
「お前の聞いたからな、これでおあいこだろ?」
お、お兄ちゃん〜
こんなお兄ちゃんが欲しかった〜
「えええっ!? 18ってマジっすか!? 年下っ!?」
…………は?
「ちょ、ちょっと待て。年下ってお前……」
驚愕したのはレダだけではなかったようで。
初めて聞く、ダンの上擦った声。
いや、待てよ?
そもそも同じ大学で、ダンが1年ならば、ヒナタも1年でなければ全て年上に……
は? マジで??
「俺、20歳っす!! 大学2年っす!!」
大学2年生
20歳
「「えええええええええええええええええっ!?」」
見事に被ったレダとダンの悲鳴。
ギルド『月影朔夜』の最年長は、ヒナタでした。
ーーー
リリース4日目。8月4日火曜日。
午前8時。
両親に行ってらっしゃいと声掛けて、あくびを1つ。
昨日はいつもより遅かったから、7時に起きた玲奈はゆったりと朝食を取り、顔を洗って歯を磨いて。
そして、宿題に手をかける。
朝は良い。
リフレッシュした脳が、ぽんぽんと答えを導き出す。
昨日の夜は勿論すぐに就寝したので、今日のうちに昨日の分もやっておきたかった。
正直に言えば純粋に勉学がしたいのではなく、純粋にゲームがしたいから。
宿題の提出期限が迫って丸一日ゲームが出来ない日を回避する為に。
そんな、不純な動機でしかないものだ。
それにーー
時刻は午前9時前。
ーーそわそわした待ち時間を減らせるのだし。
宿題を止めて、自室へ。
頭部に端末を被せて。
さぁ、ゲームへ!!
ーーー
ログインした所は、昨日の小さな広場だ。
「…ヒナタ、おはよ」
「はよ〜っす!」
朝から元気なヒナタ。
にこにこと、大きく振った尻尾を幻視してしまう動きで近寄ってくるーー最年長。
大丈夫か、こいつ。
「お、レダ、ヒナタ、おはよう」
珍しく? 最後に現れたダンも、嬉しそうな目元。
おそらく、自身も似たようなものだろう。
ギルド『月影朔夜』は、結成したとは言えそれは3人の心の内だけで、まだ正式に登録をしていない。
これからその登録に行くのだから、朝からにやけてしまうのは致し方ないのだ。
誰ともなく歩み始めた3人。
向かう先はーー
ーー『冒険者ギルド』だ。
〈ストラフェスタ・オンライン〉でのプレイヤーの位置づけは、そう特異なものではない。
モンスターと戦い、このゲーム世界を旅する冒険者。
故にその冒険者を統括する団体は、冒険者ギルドという訳だ。
他にも、生産系の団体は職人ギルドと呼ばれるのだから、ギルドというのはこの世界での組織団体につけられる一般名なのだろう。
しかしながら、この冒険者ギルドで出来る事はあまりない。
プレイヤーには、メニューというものが存在するからだ。
個人設定は大抵、個人メニューで出来てしまう。
その為、冒険者ギルドで出来る事の筆頭は、プレイヤーギルドの登録、設定だ。
あとはその敷地に、なんと4つも訓練場があり、そこで鍛錬が出来ることか。
ただ鍛錬するだけでなく、このゲームの大体の武器種を体験させてもらえるのも大きい。
今回用があるのは、無論ギルド登録だけだ。
さて、3人が歩く道中だがーー
ざわざわと、纏わる視線。
(レベル18って、マジかよ)
(ダンもレベル16になってっし)
(つか、もう一人誰だ? そいつもレベル15じゃん)
(知ってっか?) (知らねぇ)
(あいつらどこで戦ってたんだ? 見た奴いる?)
つまりそういう事で。
ガルドのクエストも、クエストの割に中々経験値の良いものだった。
さらに、レベル32以上のモンスターを3体仕留めた上に、バリューダスのクエスト報酬。
たった、たったこれだけ。
出来事の数としては、少ないだろう。
だから今回は量より質と言う他ない。
レダ レベル18
ダン レベル16
ヒナタ レベル15
他のプレイヤーも、ただ寝ていたのではない。
上位層でレベルが12~13。レベル14のプレイヤーも数名いるそうだ。
上位層で見れば、初日でレベル7辺り。2日目で10。
もう既にレベルの上昇幅が減ってきているこの超脳筋ゲーム〈ストラフェスタ・オンライン〉。
特に先行くレダは、必要経験値が増えてどうしてもペースが落ちるはずが、全く追いつかない。
まま、別にペースを落とす落とさないなんて本人は気にしていないのだけど。
レダばかり気にして、レダの必要経験値が増える中、一緒に戦うダンとレダとのレベル差が1つ詰まった事に気が付かないプレイヤー達であった。
ざわざわした視線の中心部。
レダは話し掛けて来られなければなんとか大丈夫。
ダンは全く気にしてないのか? 平然としている。
ヒナタは……、かなり緊張している。
「…ヒナタ、大丈夫か?」
「ぃや、めっちゃ見られてるっつーか……、マジ怖ぇっす……」
「くす、おいヒナタ? これから毎日見られるんだからいちいち気にするな」
「えっ!? ま、毎日って、ぉ俺がっすかっ!?」
「そりゃあ、これから登録する俺たち『月影朔夜』のメンバーとして、な」
言いつつダンの作った笑み。
それはとても柔らかなもので、ヒナタを勇気付けるには十分だった。
「おっっしゃああああ!! やってやるっすぅうう」
えっと、ギルドメンバーとして頑張るって事かな?
元気を取り戻したヒナタを連れて、視線の嵐の中も意気揚々と。
向かう冒険者ギルドは第1の街の中心部。
東西南北に走る大通りが、十字に重なるその四つ角の一つ。
このゲームのプレイヤーの朝は早いのか。
『月影朔夜』の3人は、その中を堂々行進する事となった。
「ここ、か」
3人の前にそびえ立つ、冒険者ギルドの看板を擁した建物。
それは意外にも重苦しさを感じる暗い色の木材とレンガからなる造りだ。
二階建ての建物、その左右の中央にある重厚な扉を、ゆっくりと開く。
「…ん?」「お。」「あれっ?」
思ってたのと違う……。
物語の中。他のゲームの中。
そこにあった『冒険者ギルド』には、酒場が必ず描かれ賑やかなものだった。
が、ホールと呼べる広さの空間に、何組の椅子とテーブルが並んではいても、そこに人影はない。
内装は、凛々しさを思わせる質素さ。
外観とのイメージも相まって、ガランとしていながらも凛とした空気が漂っている。
その奥に各種カウンターが並ぶ。
並ぶカウンター、その中央。
プレイヤーギルド関連カウンター。
ダンが、行くぞと。
雰囲気に飲まれた所に喝を入れる。
頷いたレダとヒナタを連れて、前を歩くダン。
やっぱりギルマスはダンだなぁ〜
ギルド登録に向かっているからなのか、自身とヒナタを連れ先頭に立つ姿に、しみじみと。
カウンターの前に来れば、これまたピシッと凛々しいお姉さんが迎えてくれた。
「ギルド登録、お願いします」
落ち着いた声を発するダン。
「かしこまりました。では、こちらに記入を」
お姉さんが出した用紙は、ダンが受け取るとまた消滅し、操作画面が立ち上がる。
覗きこんで見れば、なんの事は無い。
ギルド名の入力とメンバーの追加、役職の設定。
ギルドの紋章の追加やコメント欄。
紋章などと言う物が出てきて分かったこと。
3人にはネーミングセンスも無ければ絵心も無いと。
女の子と期待されたが、玲奈も絵は大の苦手。
落書きに、世にあるビッグネームのキャラクターを描いても、「ぇ……人でも殺した〇〇なの?」と。
というか、下手な絵でもその言い方はどうなのか。
内容はほとんど決まっていた為、サッと入力を終えたダン。
出来たと言えば、画面が消えてお姉さんの手元に紙が現れる。
便利なものである。
「はい。では、これでギルドを登録します」
「お願いします」
ダンの返答と共に、ダンの頭上にギルド名が出現。
ピロン
レダとヒナタの前には、ギルド『月影朔夜』のメンバー申請画面が出現。
跳ね喜ぶ心臓の拍動と合わせ、画面をタッチ。
ダンの承認操作の後に、レダとヒナタにもギルド名。
高まる高揚鎮まらず。
「「「っしゃぁああああああっ!!!」」」
満面の笑みと共に、握りしめた拳を掲げて打ち付け合う。
ギルド
仲間
頭上にある『月影朔夜』
この名はもちろん、仲間の証。
喜びに溢れた賑やかなギルドホール。
くすりと微笑むカウンターのお姉さん。
だがお姉さんは、とても柔らかな笑みを引っ込めた。
「では、『月影朔夜』のメンバー数は3名ですので、ギルドホームが決まりましたら、再びこちらで手続きをお願いします」
ピシッと凛々しく放たれたお姉さんの言葉。
ギルドホーム。
またまた歓喜した3人は、
嬉しさが全く引かぬまま、ギルドホールを出たのだった。
だいぶ間が空いてしまった…
やっぱり萌えは最強ですよね
そしてなんと、ダンよりヒナタの方が年上でした
次回はギルドホーム探し!簡単に決まるのか??