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ストラフェスタ・オンライン  作者: 竒為りな
3日目 馬が合う、馬に会う?
21/26

住まい探しはまず立地



ギルドホーム。



それは、――読んだ字のごとく。


それは、――プレイヤーギルドのギルドメンバー達の


集いの場。交流の場。安息の場。


協議の議場。戦略の議場。


決起の壇場。


帰る家。



「…ギルドホーム」



その響きに酔いしれるは、『月影朔夜』のメンバー、

ダン、レダ、ヒナタである。


ギルド関連カウンターから離れた3人は、ひとまず設置されているテーブルの1つを囲んでいた。



「ギルドホームかぁ……、ちょー痺れるっすぅ〜」


「支給用ギルドホーム、だけどな」


今回3人が探し選ぶのは、冒険者ギルドからの支給用ギルドホームだ。

入居に際しての費用や家賃はかからず、即日入居可能だが、

大したことないのは、請け負いだ。


まだ見てはいないが、場所を提供する程度だろう。


「…なぁ、これどうするんだ?」


「あー、やばいっすよね」


「これは、な」


夢想から覚めたレダ達が眺めるもの。



マップ


第1の街の、マップ。



ポイント


マップに記される、ポイント。



((( 多すぎだろっ!?!? )))



テーブルに広げて共有するマップには、ピンの様なポイント表示があちらこちらと。

それは手芸の針刺しのよう。


だがまぁ、これは仕方がない。

購入するギルドホームもやはりお高いのだから、どんなギルドも仮住まいは必須。



「まずはどこから行くか、だな。いいなと思ったらそこで決めるぞ。際限がない」


「うっす!」「…あぁ」



ダンの言う通りだ。

第1陣プレイヤーは1万人だが、リリース4日目でも安定したゲーム環境になっている。

これはもう、運営の井上さん達の汗と血と涙の努力によるものなので、感謝しかない。


さて、この状況により運営は、第2陣プレイヤー数を予定通りの2万人とする方向で動いているようだ。


そうなれば、人口は一気に3倍になる。


その後も続々と増えるのだから、その内多くのギルドが出来るだろう。

支給用ギルドホームも空き部屋が減っていき、そしてこの冒険者ギルドはプレイヤーたちで賑わうのだ。



「とりあえず東西南北で、ーーレダ、ヒナタ。お前らはどこからがいいと思う? なんとなくで」


「じゃあ、西っすかね!?」


「…南、とか?」



「よし、なら北と東のどちらかか。東門からは初心者フィールドだしな、北がいいかな」



「「…………」」



えっと?? あれ??

却下されてるんですけど!?



「…ダン? 俺たちの意見は……」



「え? お前らのフィーリングに任せるとろくな事がないから、その逆をと思ってだな」



「「…………(チーン)」」


いや、うん。その通りだよ?


言い返せない。

レダは〈月光花の丘〉でオレリウスに会い、ヒナタは東門を目指して街の北西部にある『ストラ商店街』に迷いこんだのだから。


両手を置くテーブルを睨み付け、堪えられずに体が小刻みに揺れる。



なんでそんなにって?


だってだって、あの爆笑魔のダンがくすりともせず、当然だろ? と首を捻っている。


からかっているのではなく、本気で思っているようなのだから、殺意が、殺意が。



くすり

「悪かった。そう怒るなって」



むぅう

「……」



くすくす

「まぁ、変えるつもりは無いけどな」



ぶちっ

「…お、ま、えぇえっ!!」



ジャンプでテーブルを越えて向かい側のダンへ。

上から襲いかかって組みつく。

倒れたダンに覆い被さって寝技を。


玲奈ちゃん? どこでそんなもの覚えたの……



「ギブっ! ギブギブ悪かったからっ!!」



離してやれば、床に手をついて喘ぐダン。

仰ぎ見てきたダンにしたり顔で返してやる。


「レダさんナイスっす!!」


「…おう」


晴れやかな表情のヒナタとハイタッチ。

今度はダンが恨めしい顔をする事になった。



さて、と。



「…そろそろ行こうぜ。……北から」



その結論だけは、レダもヒナタも変えられなかった。





ーーー





冒険者ギルドを出て向かうは北門。


現在分かっている事から、第2の街は西門か北門のフィールドを抜けた先。

自分達が向かうその北門の先は、モンスターのレベルが15以上である、という情報のみ聞いていた。


レダ、ダン、ヒナタの3人はまだ北と西のどちらも出た事はない。

北地区はあのストラ商店街に行った時のみだ。



さて、彼らはーー




ーー北地区へまだ向かっているところである。




彼らの周りは、街並みではなくプレイヤーたち。

プレイヤーたちの視線は、ある一点を見つめている。


最強プレイヤー・レダとその相棒ダン、そして新参メンバーのヒナタ。

それぞれの頭上にあるもの。



月影朔夜(つきかげのさくよ)



この表示である。




(おい、あれ)(ギルドかよ)


(マジ? 最強ギルド爆誕!?)


(まだ4日目だぞ)(いや、あのコンビだから)

(よく見ろよ、もう1人いんだけど)(え、誰?)


(つか、ギルド作ったのってあいつらが初じゃね?)

(ちょ、調べてくる!)


(なんて読むんだろ)(ゲツエイ……、次何?)

(サクヤじゃない?)(じゃあ、ゲツエイサクヤ?)

(知らねぇつの、聞いて来いよ!!)(無理だろ!)




ざわざわざわ



冒険者ギルドを出た3人は、早速数多の視線に晒される事となった。


どうしてそうなったのか。

それは、『月影朔夜』の3人が、まず冒険者ギルドへ至るまでの道中をかなり堂々と進んだ為である。


元々注目度のあるレダとダン。

その更に上がったレベルに新顔の存在。


そんな3人が向かい消えたのは冒険者ギルドで、冒険者ギルドで行える事など周知されているのだからーー




ーー出待ち、されていました。




それも、情報は瞬く間に拡散され、3人が冒険者ギルドにいる間にプレイヤー達が集まってきていたのである。


ギルド登録に行ったのでは、というのはもう推測ですらない確信であったのだが、どうしても興味が勝った結果がこれのようだった。



「はぁ、まさか秒で知られるとは」


「ダンさんの言った通りっすね……」


「いや、確かに毎日見られるとは言ったが、これは想定外だ」


行きがけに放った言葉を後悔してるのか、ダンは珍しく猫背になっていく。

ダンがギルマスだってよ! と叫ばれているので、シャキッとして欲しいのだけれど、それは言うまい。


3人が歩けば、その前方にいる野次馬という名の群衆は割れ、道が出現する。

人混みを掻き分ける手間が省けるのは助かるが、なんだかモーセになったよう。


だが出現する道を歩くのも、恐ろしいほどの視線やダダ漏れの内緒話の嵐で、あの、めんどくさい。うん。


特に、

ギルド名とか経緯とか、聞きたいなら聞けよぉ!!

と本人たちが思うほどなのだ。


でもさ、これだけの群衆がいる中で陽気に声を掛けてくるなんて、もうそれは勇者かバカか?

その違いは紙一重か?


別に集団心理は発生してはいないだろう。

レダたち3人でも、群衆の1人でも、

質問したい人ー! って言えば手が上がり、手が上がり、手が上がり、最後の奴にどうぞどうぞ! のコントが見られるだけである。


おっと、あいつ指まで差してやがる。

人を指差すのはいかがなものか。



ーー道すがら胸中に延々と文句を垂れるレダでした。




レダ、ダン、ヒナタ。

三者三様の仏頂面を晒して歩く。

視線もひそひそ話しも無視して。


そうしていたのだが、周囲の群衆から起こったどよめきを感知し、眉をひそめる3人。



(((来たか、勇者(バカ)!)))



周囲に悟られぬよう身構えた、3人の後方から。



「よう、あんたらまじでギルド立てたのか」


ん? この声


「…ジーク!」「ジークさんっ!」「お、ジーク」


一瞬で警戒を解き、一斉に振り返る。


この野次馬たちなど知らない、とばかりの自然体。

気軽な声に、気楽な姿勢。



レベル14 ジーク


ジークとは昨日、ケンタウロスに倒され死に戻った際に出会ったプレイヤーだ。

最初は最強プレイヤーと呼ばれるレダの死に戻りをからかいに来たのかと思ったが、そんな事はなく。

飛斬の事やロージャッカルについて語った、ぶっきらぼうな口調だが快活な人物。



そんなジークの登場に、レダたちもまた周りの群衆を忘れていくようで。


「そうなんすよ! どうっすか、どうっすかっ!?」


早速ヒナタは尻尾を振ってじゃれ付いた。



「いいんじゃねぇの? あんたら仲良さそうだか、らーーおいわかったすげぇっつってんだろ離れろ犬か!」


あ、言っちゃったよ……。



わんわん! 犬よろしくまとわりつくヒナタに早々に痺れを切らしたジークが叫ぶ、悲鳴寄りの。

190㎝近くあるヒナタの身長で、犬の様に纏わり付かれては10秒も持たない。


犬じゃねぇっす〜、と言いながらやっと離れたヒナタだが、それでもジークの周りをうろつく。

昨日の僅かな間でかなり懐いたらしい。


不運な事である。


「悪いな。悪気はゼロなんだが……」


「見りゃわかるっつの。こりゃあんたがギルマスになる訳だぜ」


大袈裟に肩をすくめてみせるジークに、ダンは苦笑交じりだ。


そのジークの視線が、ダンの頭上に向く。


「んで? それなんて読むんだよ」


「あぁ、俺たちは訓読みにしてる。つきかげのさくよ、だ」


「ふぅん。いいんじゃねぇの。つか長ぇな、略称は?」


レダ達としても確かに長いと、思ってはいた。


「略称……、考えてないな」


「いや考えろよ、どう考えてもなげぇだろ」


ジークに言われてようやく考える気になったレダ達。

周りの群衆から時々聞こえてはいたのだが、まずはこの状況を脱したかった。


改めて3人顔を突き合わせるのだが、ネーミングセンスという難敵が立ちふさがる訳で。

これも考える気にならなかった要因だ。



うんうん唸っている3人を見ているのが退屈になったのか、ジークが寄ってくる。


「そんな難しいことか? つきかげ、さくよ、つきよ、げつえい、さくや、とかで良くね?」


「「「おぉ、凄いなジーク!」」」


「あんたらの方がすげぇよ、それで月影朔夜(つきかげのさくよ)なんてよく考えられたもんだぜ」


脱力し、呆れた視線をぶつけたジークだが、レダ達は気付かない。

ジークの挙げた中から、どれがいいかと興奮気味に話し合っているのだから。


自分達で考えるでもなく、ごく自然にジークの案から採用しようとしているところにも、ジークは憐みの視線すら向けているようだ。

まぁ、これも気が付くはずもなし。



「他になんかあるっすかっ!?」


「は、はぁ? そんなの自分達でーーわかったその視線やめろ犬! えぇと、よかげ、よづき、げっさく、、げ、つ、つ、つき、つき、ーー」


はた、とジークは口を噤む。



「てか、ギルド名もあんたらの服装も、イメージ黒だろ? ならまとめて黒影(くろかげ)とかで良くね?」



ほへ?


阿呆らしい擬音が付く表情で、口を開けて固まる。

ギルド名にある、朔や夜はそのまま夜の事だ。

月は夜に登るし、影は明かりが有れば発生する黒。


レダ達の格好も含めて、総じて黒い。



「そう、だな」


ダンが呆けたまま、ジークに応える。


「あんたら、マジでどうやって考えたんだ……」



ギルド『月影朔夜』、略称『黒影』


レダ達ギルドの略称は、誰が何を言うでもなく決定した。

ジークの、盛大な嘆きと共に。





ーーー




ジークと別れたレダ達3人。

今度は意気揚々と群衆の中を抜けて、北地区へと足を踏み入れていた。


野次馬たちは幸いレダ達を見るだけ見て、追って来ることはなかった。

北門へ続く大通りを半ばまで来たところで足を止め、マップを開く。



ここ〈ストラフェスタ・オンライン〉のプレイヤーハウスは、大通りに近くなるほど地価が上がり、価格は高くなる。

それ故か、支給用ギルドホームは通りに面したところには存在せず、路地を入った所に点在している。


南門から先の〈バーバレン荒野〉を全て攻略しきってはいないが、先を見据えればと真円状の第1の街北西部へと入っていく。

そこは、あの〈ストラ商店街〉も含むエリアである。



レダ達は、とりあえず一番近くのギルドホームへと足を向けた。


支給用ギルドホーム。


程度は知れている。知れてはいる。

大した事はない。支給用だもの。


それでもはやる心は抑えられはしない。



一体どんな感じだろうか。

広いのか? いややっぱり狭いよな。


そんなやり取りの、回答は。



「よし、ここだ」


マップから目を離し、マーカーが示した建物へ。



「…え、これ?」


「あはは~。まじっすか」


「想定通りかつ想定外、だな」



そこにあった建物は。




中学か高校か、



主に運動部の、




ーーーー()()()




もう、そうとしか言いようがない。


下5室、上5室の2階建て。

外観はプレハブ小屋の木造版。


正面からは窓がない。裏にあることを祈るばかりだ。

扉は開閉式。でも板にドアノブが付いているだけ。


2階に上がる階段は建物の側面に。

2階の通路には簡単な柵が。



これはもう、アパートでもない。


どう見ても、部室だった。



3人でぽかんと口を開け、目は点に。


ホントに場所を提供する程度にしても、なんて、



なんて、現実的な……。



マップにはかなりのポイントがあるが、1つのポイントに付き10室とは。

これでは空室待ちは出来ないだろう。


しかし、これだけ簡素なものでこの数ならば、所属メンバーが3人以上で支給というルールもいらないような気がするが、そうはいかない。

ギルドはたった一人でも設立出来るが、ギルドホームをプレイヤーハウス代わりされても困るのだ。



さて、今だ衝撃冷めやらぬレダ、ダン、ヒナタ。

そこからまず抜け出したのはやはりギルマス、ダンである。


咳払い一つでレダとヒナタを呼び戻す。


「こうしていても始まらない。まずは入ってみよう」


「…おう」


ダンを筆頭に、1階の左端の扉を開けてみる。



「やっぱ部室っすね」


「あー、高校を思い出す。俺の高校の時もこんな部室だったんだ」


「へぇ~何やってたんすかっ?」


「陸部。800とか1500とか中距離だ」


「陸部!? すごいっすねっ!? 俺バスケっす!!」


「……だろうな。その身長なら」



ダンとヒナタ、大学男子二人の高校時代部活談義が花開く。

扉の近くで話し込む二人を、羨ましげな視線を投げながらも、レダは一人で部室、じゃないギルドハウスの中へ。



流石に部室にあるだろう、靴箱やロッカーなどはないのだが、ダンやヒナタが感じるのはこの雰囲気か。


中には縦長のローテーブルが一つ、その左右に背もたれのある二人掛けのベンチ。

他に一人掛けの椅子も2つ置いてある。

壁は何か飾れるようになっており、入り口の反対側には窓があった。


あとは腰ほどの高さのチェストが一つ。

開けようとすれば、ギルド共有アイテムボックスのメニューが立ち上がる。


ローテーブルも、タッチでテーブル上に画面が開き、テーブルの上の空間にも画面を表示出来る。


この部屋は全体的に白でまとめられており、開放的な明るさを感じさせる。



一人気ままに見て回っていた所に、少しだけ恐れていた事態がやって来た。



「そういえば、レダは何かやってないのか?」



ダンの純粋な問なのだが、


「…やってたら今頃部活に行ってるだろ」


そう、桃香のように。


「あ、すまん」



ダンとヒナタは、学業に部活と会話からも素晴らしい青春の高校時代を送ったようだが、レダは高校1年でありながらゲーム三昧の日々。

聞かれても答えられる内容が無さすぎて、恐れていたというより身構えていた。



「じゃ、じゃあ中学の時はどうだったんすか?」



くっ、フォローのつもりか。


「…帰宅部」


「「…………。」」


「…悪い?」


「い、いや悪くはないっすけど。なんか、すんません」



ほら、空気が重くなってしまった。


考えても見て?

この人見知りで恥ずかしがり屋の私が部活など。



「レダ、お前運動苦手なのか?」


いやいやいや、そうじゃないよダン!

運動神経の問題ではないの。文化部って選択肢もあるじゃない!



「…普通だけど」


「悪くは、ないのな」


「…うん、たぶん」


「じゃあじゃあ、50メートル走はどれくらいなんすか??」


「…8.37」


「反復横跳びはっ!?」


「…49」


「腹筋は?」


「…26」


「1000メートル走」


「…4分30秒くらい」



「待ってダンさん。俺女子の平均とかわかんねぇっす」


「俺もだが、たぶん平均なんじゃないか?」



玲奈ちゃん。

実は運動音痴ではないのです。

バレーボールもバスケットも普通にこなせます。

球技大会などクラス対抗のイベントでは、チーム分け時にバランサーとして活躍するほどです。


突出した何かはありませんが、そつなくこなします。



否。


玲奈は、運動神経が良い。


そつなくこなす、と思っているのは玲奈の視点だ。

ただ、運動神経は良いが、大人しく人見知りの玲奈に、周りに溶け込んで伸び伸び体を動かせなんて無理な話という訳で。


体力測定が平均なのは、普段運動をしないために、純粋に筋力が足りないだけである。



「習い事でスポーツとかもないのか?」


「…中学まで、()()はやってたけど」



「弓道っ!? ヤマトナデシコっ!?!?」



ヤマトナデシコっ???



玲奈の家の近所には、よく大会が開かれるほどの武道館がある。

それで小学校から弓道の教室に通っていた。

因みに、桃香は空手教室だったりする。



「弓道とは、またすごいのが来たな。ーーおい待て。ちょっと待て。SGOって弓もあったよな????」



〈ストラフェスタ・オンライン〉に魔法はない。

が、遠距離攻撃として弓や投擲武器はある。



「あるっす!! 弓と剣で遠近両用っすねっ!!」


「…メガネかよ」


眼鏡によく使われる遠近両用という言葉にツッコミつつもーー



や、やってみようかな!?


ーーツンデレ中。



飛斬の飛距離はそこまでではない。

しかも、5メートルを超えると威力が落ちてしまう。

弓の飛距離とは比較にならないのだ。



そうして、レダ達は備え付けの椅子やベンチに座り込み、どんどんと話を膨らませていったのだった。




ーーー





部活。習い事。


ゲームの中で、思わずリアルの事を考えてしまうほど現実感満載のギルドホーム。


気付けば話題が変わり、また話し込む。

ようやく話が落ち着き、リラックスした所で気がついた。



「って、俺たち何やってるんだ?」


「…あ」


「ギルドホーム探しっすね……」



やっと立ち上がって部屋を見渡す。

この部屋は白を基調としているが、他はどうなのか。


「どこも一緒っすかね?」


ここまで見事な部室感だ。

可能性は大いにある。



ひとまず隣の部屋を確認しに部屋を出る。

隣室の扉を開ければ、完全に同じではないが似た雰囲気。



「…どうする?」


「他も見てこよう。棟毎に違いがあるかも」



いや、むしろあって欲しい。


そんな願いと共に、レダ達はそこから一番近いポイントへと足早に向かう。



頼む。違っていてくれっ!!



そんな祈りを持ってたどり着いた先。


「建物自体の造りは似ているな。さて、中は――」



妙に脈拍を上げながら、ドアを開けるダンの背中越しに中をうかがう。



「「「…………。」」」


バタン!



「違ったな」


「うす」「…次、行こうぜ」




――そこは、目がチカチカする程のパステルカラー。




いやぁ、壁一面ライムグリーンは勘弁して下さい。




次の場所へ来た3人は、何も言わずに扉へ向かう。

そして扉を閉めて次へ向かう。




――ピンクのお花畑とか、誰が選ぶんだ??





はい、やって来ました。扉!!

はい、閉める!




――あの狭さでパルテノン神殿風は、何??





はい、ガチャン!

はい、バタン!




――え?? ジャングルの野営地??





はい、次ぃいい!!




――やめろー! リアルオフィスやめろぉおおお!!





はぁっ、はぁ。


部屋の広さ、家具の種類とその配置はどこも同じ。



違いは、ーーデザインだ。



デザインのテーマは、その棟毎に統一されている。

床、壁、天井がそのテーマに沿ったデザインに塗られており、家具もそれに倣う。



最初以外はどれもこれもヤバいとしか思わなかったが、最後のオフィスはパナかった。


あれだよ。豪華じゃない応接の所だよ。

簡素なテーブルに安っぽいソファ。

チェストは事務感満載。


最悪なのは、壁だよ、壁!


あれ、あのさぁ、事務机が並ぶオフィス内とを仕切るパーテーションがわざわざ描かれてあるんだよ。

向こうをチラ見せしながら、置いてあるあの角度で。

窓もカーテンじゃなくてブラインドが設置済み。


そして、社訓、飾ってありました。


一、誠実

一、謙虚

一、感謝


……ああ、お客様第一なのは良くわかったぜ。




ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ。


一体どうしてこうなったっ!?


はぁ、はぁ、はぁ。


あの部室感は何処へ行ったっ!?



レダ、ダン、ヒナタ。


荒い息を繰り返すのみ。



おそらく、おそらく自分たちがハズレを引きまくった理由が見えたから。



疲労、困惑。


いや、落胆。



あれだけムキになって頑張ったが、どうやらこの辺り、そもそもユニーク物件しか無いようだ。




ーーーー〈ストラ商店街〉




ギルド『月影朔夜』の3人は、あのテーマパーク内にいた。



「まさか、〈ストラ商店街〉にもギルドホームがあったとはな」


思い切り丸めていた背中を伸ばしながら、空を眺めてダンは呟く。



「…そういや、ここプレイヤーハウスもあったんだった」


「プレイヤーハウスあるなら、当然ギルドホームもある訳だ」


「さ、さすが迷宮っす……」


ヒナタは文句を吐く気もないようだ。



レダたちが見ていたマップは、冒険者ギルドから貰ったものだ。

それは、ギルドホームの位置が表示されているのであって、その他の表示はなし。

更にこの〈ストラ商店街〉は、商店街のマップはあれど、通常のマップには何も表記がない。



とまぁ、いつのまにか迷い込んでいた、のである。



試しに〈ストラ商店街〉のマップと、ギルドホーム用のマップを照らし合わせてみる。


レダ達が迷い込んだのは、レダおすすめの『シャトー・リリアン』側からではなかった。商店街へ至る入り口の1つが、パステルカラーのギルドホーム近くにあったらしい。



ほんと焦った……。

もう全部あんなだったらどうしようって!!



本当に焦った。

ギルド増えていったら戦争が起こるもん!



玲奈ちゃん、ギルドホーム争奪戦争なんて考えてたのね。



ユニーク部屋しかない、であろう事に気がついたレダたちの次の行動は1つだ。



脱出あるのみ!



目指すは、『シャトー・リリアン』洋菓子店。


ここもまた迷宮の、別の入り口近くに存在する。

迷宮内のギルドホームにはまずまともな物件は1つもないだろう。

さっさと抜けて探し直そう、と。



初めて踏み込んだダンに、ヒナタが昨日の自身の体験を聞かせる。

あ、いや。

昨日入った所を見つけ、何があったか言いながらまた誘われるヒナタをダンが止めている。


レダは、ヒナタとダンのやり取りを背中で受け取っていた。

自分のメニューのマップと、〈ストラ商店街〉ガイドマップを睨んでの先導役となった故だ。



「あっ! ダンさん、ここっ!! ここすげぇんすよ! ゲーセンっす!」


「ゲーセンね。もう何件目だ?」


「い〜やいや、なんとレーシングゲーっす!!」


「……この世界観で車はないだろ」


「何言ってんすか! このSGOで車はないっしょ!」


「は? なら一体なんのレースだ?」


「馬っすよ!!」


「そ、そうだな。やっぱ馬だよな! アハハハ」




「そっすそっす、ちょー楽しかったっす。()()!!」




「…………ぎょしゃ?? 待て、それ、まさか馬車?」




「当然! そこ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っすから!!」




「ああ、そう、か。ーーじゃないだろぉおおっ!?!待て、待て。レーシング? じゃあ、その馬車はレース用の馬車って事か? てか、そもそも馬車でレースって何だよ! しかもシミュレーションかよ! それで専門店っ!? 情報量多すぎだろっ! てーか、ぜってぇ、需要ねぇよっ!!!」



ヒナタとダンの応酬が聞こえてくる。

ヒナタが何処か見つける度に始まるが、後半になると決まってダンの強烈なツッコミが炸裂した。

口の悪いツッコミ、とも言えるだろうが。

中々聞けないダンの荒っぽい口調は新鮮だ。



「…おい、そろそろ出口だぞ」


マップには、自分たちの現在地が、お気に入り登録しておいた『シャトー・リリアン』洋菓子店の表示に近づいている。


「やっとか。助かった……」


「ダンさ〜ん、最後にここだけ遊びたいっす〜」


「ダメだから。絶対ダメだから」


ダンとヒナタのやり取りに、笑いを堪えながら先に進む。


区画の終わり、ただの路地に光明が差し込んでいる気がした。




ーーー




悪魔の〈ストラ商店街〉から脱出したレダたち一行。


一息つこうと言って、『シャトー・リリアン』でやけ食いをしてみせた。

案の定、あのマスターに笑われながら。



「チョコレートケーキ、マジぱねえ〜っすぅ」


「モンブランの甘さが絶妙だったな」


「…ショートケーキも美味しかった」


三者三様、相変わらずの絶品ケーキに感想をもらさなければならない。

三人同時にコーヒーを飲んだ時の間は、何とも言えないものだった。



さて、三人は現在、またまたギルドホームを探してはいるのだ。

流石に決めておかねば、そのまま流れかねない。



それほど、ギルドホーム探しは魔が潜んでいた。


〈ストラ商店街〉に迷い込んだ為だけれども。



そんなレダたちの前に、ぽっと見えた建物。


「ここ、か」


マップにあった、『シャトー・リリアン』から1番近いギルドホーム。



そこは、木材にローズウッドを使っている時点で、これまでとは雰囲気が異なっている。


ローズウッドの赤茶色の柱に、霞のある白い壁。

どことなくアンティーク調の配色だ。



急に目が覚める様な感覚に襲われ、ダンとヒナタを見れば同じく目を瞬かせている。



これだ。これだよ。普通だよ。


絶対中もいい感じだよ。



そう、やっと日常へ戻ってきたのだ。



今度こそと頷きあって、まずは下の一室へ。

大丈夫ではあろうが、ダンは恐る恐る扉を開ける。



見える全貌。

白を基調とする、モダンアンティークの部屋。



「…すげぇ」


「いい感じっすね!」


「今までのは何だったんだ」


ダンだけは素直に感じ入る事が出来ないらしい。


下の階にある他の部屋を開けてみるが、それほど違いはない。

上の階へ上がってみると。



「…ダン! ここ! ここが良い!!」


「俺もっ! 俺もここが良いっす!!」


「安心しろ。俺もだ」



そこは、黒を基調とするモダンアンティーク。


床、壁、天井は全て、色の暗いローズウッドの木材がデザインされている。

また、窓扉もローズウッドだ。


色の暗いローズウッド。光量の少ない電球。


もしここにカウンターと並んだ酒があれば、間違いなく街角隠れたバーだ。



2階の5室とも、1階とは対照的な黒の部屋で統一されている。

その中から『月影朔夜』が選んだのは、家具がアンティークよりも多少角ばった物が多い部屋。

モダンでありながら、力強さを感じたのが、決めてとなった。



暫しの間、選んだ部屋に滞在し、色々と感触を確かめた黒影メンバー。

今回はだらだらと話し込む事なく、素晴らしく軽い動きで退室する。


向かうは、冒険者ギルド。



ギルド『月影朔夜』は無事、自分達のギルドホームを定めることが出来たのであった。




随分と久しぶりの更新です。


ちょっと他の事に没頭してしまった(悪い癖

詳細は活動報告にあげたので気になりましたらどうぞ。ツイッターも晒してあります。。


さて! 次話はいよいよ!


毒植物園!!


阿鼻叫喚の地獄絵図になる、はず。。

こんなエリアを序盤に設けるなんて、SGOは良心的??

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