27. ここで貴方の妖精さんです?
年内最後の更新!!
お待たせしましたー。
はて、妖精がいるっていうのは先ほどの騒動で知ったわけではあるけれども……。
「……えっと、妖精の文献はあるけれど、妖精さんってどこにいるもんなの?」
そう。話題に上げた妖精さんをまだ見ていないのである。
悪戯で文献を残すとシマさんは言っていたが、その文献どころか、肝心の妖精さんを見かけたことはなく、ホントに妖精がいるのか疑問に思ったわたしは、シマさんに聞いてみることにした。
「基本的には妖精は見えないものです。子供や純粋な心を持つ者の前にしか現れず、その清らかな心の持ち主を妖精の国であるティルナノーグへと連れ去るために現れると言い伝えられております」
「えぇ……さらっちゃうの?」
「サンクティナスでもその言い伝えは聞いたことあります。悪い子には妖精がやってきて、妖精の国で魔物や動物に変えられちゃうよっていう、戒めの意味を込めた言い伝えでしたが」
言い伝えにもあると、シマさんやロビくんが言う。
なるほど子供の前じゃないと見えないのかぁ……ちょっと気になっていたけど、流石に女子高生のわたしじゃそろそろ見えなくなっちゃうのかな?
そんな話をしていると、家の中で一息ついていたクマダさんがわたし達の話を聞いてゆっくりと起き上がり、首を左右に振る。
「ひぃ!? オーガベアー!?」
「あー……えっと、クマダさんは温厚だから大丈夫だよ」
「首を振っているようですが、どういうことでしょうか」
がうがうと、クマダさんは身振り手振りをしながら何かを伝えようとしてるが、残念ながらクマダさんの言っていることはこちらには伝わらず、わたし達は首を傾げる。
んー、こういう時は頼れる精霊さんかな。
『呼ばれそうな雰囲気に誘われてシルフ君登場でーす』
「待ってまだ考えていただけなんだけど?」
『んー? 気配や空気は風の領分だからねー。人の雰囲気を読み取るのもお手の物なんだよー』
あ、そういうことね、びっくりした。シルフ君が人の考え読むことが出来るのかと思っちゃったよ……これ以上プライバシーを侵害する存在がいるのも困るからやめてほしい。
『それでそれでー? 風の噂じゃ妖精さんの話をしようとしたら、そこのクマダさんが何か言っているらしいってのは聞いたけどー』
「流石風の精霊さんだなぁ……あ、これロビ君には……」
『風の噂……も何もないけど、彼の精霊に対する素質はまだ未知数だからねー。僕の力で声を聞こえるようにしたげようー』
ふわりとシルフ君を中心に、風が部屋の隅々へと渡っていく。花のような香りが辺りに漂う。
ややあって、シルフ君がそよ風を吹かせると、ニッコリと話を続ける。
『それでは改めてー。このシルフ君がクマダさんの言っていることを翻訳してあげようじゃないかー』
「え!? シルフですか!? 精霊の!?」
シルフ君の声が聞こえるようになった途端、ロビ君はびっくりして辺りを見回す。
……が、どうやら目視は出来ていないようで、シルフ君を見つけるには至らなかったようだ。
『ふっふっふー。このシルフ君を見つけたくば、もっと修行に励むのだー……あ、違うねごめんね。クマダさんの話に戻ろうかー』
「がーぅ」
『ごめんてー。そんな怖い顔しないでよ。すぐに伝えるからさー』
いかにも不満そうな表情をしていたクマダさんは、威嚇の為か両手をグワッと上げてシルフ君の方へと向かっていく。
慌てた様子でそこから離れたシルフ君は、コホンと咳ばらいをして、クマダさんが言っていたことを翻訳し始める。
「ががうがうがう」
『えぇそれ言うのー……? えっとね、精霊が妖精の国に直接人間を送りこともあるってー』
「あ、なんかそれ最初にウィルに会ったときに聞いたことあるかも……確か、悪い人に悪戯して妖精の国に突き落としたとか」
『あーウィルそういうこと良くするよねー。前なんて、僕がふざけてウィルの火の玉に風を吹かせたら笑顔で火のついた石炭いっぱいぶん投げて来てさー』
報復の手段がえげつないんですけどウィリアムさん? ロビ君もドン引きしちゃってるよ?
いやまあ、もしかしたらウィルにとっては、その火の玉も大事な物なのかもしれない。だから笑顔でキレて石炭ぶん投げたんじゃなかろうか。
「ががう」
『妖精の国なら魔物でも知ってるってー。チビスケは知らないかもしれないが案内くらいなら自分でも出来るから、行きたければ教えてくれって』
「妖精の国に行ける……え、でも人間が行ったら魔物や動物にされちゃうんじゃ……」
『あ、それなら大丈夫ー。あそこで人が魔物や動物にされちゃうのは罪を犯した悪人だけって話だからー。マキみたいな子を変身させることはないから安心してね』
あ、そうなんだ。それならば安心だけれども……。
なんて、妖精の話をしていると、シマさんがスッとわたしの近くにやってきて、こそりと耳打ちをする。
「――ちなみにですが、マキ様が意識して妖精を探せば、妖精は何処にでもいるものです。今後妖精を探したいのであれば、探してみると良いかと」
「――そういうことは先に話してほしかったなぁ」
申し訳ありませんとシマさんがまたわたしから離れ、紅茶のおかわりをティーポットに入れるべく台所へと戻る。
はて、妖精かぁ……意識して探すって言われてもどうすればいいんだろうか? 良くお話とかで登場するのはブラウニーだとかシルキーだとか、そういう家事を手伝う妖精が登場したもんだけど……。
ちらりと家の中を見てみるが、そこにいるのはお茶の支度をしているシマさんや、様々な家事を行っているノーム人形達がせわしなく動いていた。
……いやいやいや、まさかまさか。
後はほら、他にはコボルトだとか、ノッカーとかね! 良く犬の格好したのがゲームに居たり、とんがり帽子のおじさんがいたり……あれ、チビちゃんとノームおじさんじゃね? それ。
「ば、馬鹿な……妖精は近くにいた……?」
「わう?」
チビちゃんは見ていたわたしに気づいたのか、すぐにわたしに近づき、愕然としたわたしに首を傾げながら声を上げる。
……せやな。チビちゃんはチビちゃんだもんな。妖精じゃなくて魔物って言ってたもんな……。
「……ちなみに言いますが、妖精もいわゆる魔物に分類される存在です。精霊に関しては、一部宗教上では魔物や妖精として扱われることもありますが、魔物の分類からは外れるものと明言しておきますね」
「こんなところに妖精さんいた……ちくしょう……」
自分が考えていた妖精像がことごとくぶち壊され、わたしは静かに膝から崩れ落ちた。
―――
「それでだ、いい加減ウォフルさん起こしてもいいんじゃないかなと思うんだけど」
とりあえずロビ君の仮住まいをシマさんに頼んでわたしはウォフルさんを起こそうかと思い、シマさんに聞いてみたわけではあるが。
「穀潰しですし、そのまま放置して野垂れ死んでもよろしいのではないかと」
「シマさんはウォフルさんに容赦ねえなホントに……ウォフルさーん、起きてくださいー」
この容赦のなさである。創造主が彼の種族にお熱だったからって流石に邪険にしすぎではないかと思うが、まあ置いておき。
いい加減にウォフルさんを起こさないと、魔族的にも健康面がやばいのではないか。
そう思ったわたしは、ソファで未だに起きないウォフルさんに近寄り、ゆさゆさと揺すって起こそうと試みる。
「……へへへぇ。これが俺の魔術……精霊術だぁ……」
「夢の中でもそれかねウォフルさん……」
相も変わらず魔術ポンコツおじさんと化していたウォフルさんは、何やら怪しげな寝言をムニャムニャとつぶやく。
「ふへへ……薙ぎ払え……」
「物騒なこと言ってない???」
流石に何やら物騒なことになりかねないような気がしたのでベシベシと叩いてみる。
「ふおんんん……ん。ここは、マキ君の家か」
「あ、よかった起きた……最初の呻き声がすごい気になるけども」
むくりと体を起こしたウォフルさんは、何が起きたのか聞こうとしたが、何が起きてしまったのかを覚えていたらしく、げんなりとしてはだけていた羽織を着直し溜息をついた。
良かった、一部始終ポンコツなウォフルさんをまた教えなきゃいけないのかと思ったけど本人が覚えているならいいや。
「こう……何やら魔の源泉的な何かをモロに喰らったような気がしたんだが……敵襲でもあったのかい?」
「あー……うん。そんな感じかなーアハハー……」
言えない。温泉の湯気に含まれた魔力を摂取しすぎたために正気を失ったなどとは言えない……。
曖昧に誤魔化し、さてウォフルさんも起こしたわけだしどうしたもんかなぁとわたしが困っていると、最初の問題点をふと思い出す。
あー……確か、このままではわたしがただのニートになるのではないか、マズイじゃんって話だったっけ。
どうしたもんかなぁ。シマさんに聞いても恐らくは何もしなくてもいいですよって言われるのが目に見えているだろうし、ここはやはりウォフルさんに聞いてみるのもいいかもしれない。
「あのーウォフルさん何か手伝えることってないです?」
「手伝えること? どうしたんだい、いきなり」
「いえその、わたしの職歴に傷がつくというか、ニートは嫌だなぁというかなんというか」
「ニート……?」
この世界もしかして職業というものがないのだろうか。
ニートという言葉にクエスチョンマークを出すウォフルさんを見て、わたしは更なる問題の対策を練る。んー道行く場所がどこも袋小路だぜぇ……。
「手伝えることか……そうだなぁ。魔力研究のために、まずは俺の家の裏で魔術薬に使う、薬草の畑を作ろうかなと思っていたんだ」
「畑!!」
ふふふ……これだぁ。こういうわたしでも手伝えそうなことでいいんだよ。変に水源作ったりだとか温泉作ったりだとか、そういうことしなくてもいいんだよぉ……。
あれ、わたしなんかとんでもないことやってない?
とにもかくにも、まずは畑の範囲を考えるべく、わたしとウォフルさんは外に出たわけではあるが……。
「ぼ、僕! この研究所に住みたいです!」
「……マイガッ」
「な、何事だ?」
ウォフルさんの研究所を指さして、ロビ君がシマさんに言っているのを見て、わたしは顔を手で覆うのであった。




