16.これがここの和食です
朝食に呼ばれたわたしは、ウォフルさんやチビスケちゃん、そして家の近くで寝転がっていたクマダさんを呼んで家の中に入る。
そこには、朝食の為にテーブルセットを置いていたり、取り皿や料理の盛られたお皿などを運ぶ人形隊さんが、テキパキと隊長さんやシマさんから指示を受けて動いていた。
わたしの足元まで来た隊長さんが敬礼すると、その後ろにいた3人の――どうでもいいけど、数え方は何人でいいのかな?――人形さんが、ウォフルさんとチビちゃん、クマダさんを席へと案内する。
あ、こらチビちゃんそれはオモチャじゃないよ。木製の人形さんだからって噛んじゃダメ。すごい驚き顔でバタバタしてるから離してあげなさい。
チビちゃんを宥めつつ、わたしの前にいた隊長さんを撫でてあげると、とても幸せそうなデレデレとした顔をしていた。うんうん、分かりやすく感情を出してくれるねぇ。
「……マキ様、皆様お待ちですよ」
「あ、はーいすぐにい――えっこわっ。みんなの目怖っ」
整列していた人形隊はもちろんのこと、その巨体に似合わずチョコンと椅子に座っていたクマダさんや、床に置いてあったご飯の前にいたチビちゃんが、すごい形相で人形隊長さんを睨む。これには隊長さんもガタガタと体を震わせてわたしの影に隠れる。
いやまあ、流石にこれは怖い。
「えーっと……後で皆撫でてあげよっか?」
前回学んだ経験でわたしが言うと、人形さん達は無音で万歳をして湧き上がる。とても歓喜しているのが見て取れた。
ホントにそんなんでいいの人形隊さん。それと満面の笑みを浮かべてるチビちゃんや、満足げに目を細めてるクマダさんも撫でないとダメなんですかね。チビちゃんはともかくとしてクマダさんも?
まあそんな一幕はともかくとして、席に座ったわたしは食卓に並ぶ朝食を見る。
緑色の御豆のようなものと一緒に炊き込んだご飯、塩焼きにされた赤身魚の切り身、白い四角く切り出された柔らかそうな外見のもの、そして……おぉ、これはまさか味噌汁じゃない?
そんな感じの和食感満載の朝ごはん。へー……この世界でも和食ってあったんだなぁ。そうなると白いのは豆腐か、ネギやミョウガの乗った冷奴って美味しいよね。魚は……なんの魚だろう? 元の世界では見たことないかな。
「この魚は、この近くにあります湖から、事前に釣り上げていたエオグと呼ばれる魚を切り出し、塩で焼き上げたものです。赤身魚で淡水魚ではありますが、成長し海へと出て子を宿し、また川に来ては産卵をするといった生態の魚でございます。その卵は体組織で生成された袋に詰められておりまして、赤い宝石のような色をしており、それをサウソイと呼ばれる人間達の作り出した黒褐色の液体調味料に漬け、炊いた米の上に乗せて食べたりもするそうですよ」
「焼き鮭だし醤油だし、すじこの醤油漬けじゃん」
「ヤキジャケ……ショウユ……スジコ?」
「あ、ごめんなさいなんでもないです」
もろ和食の鉄板ともいえるような魚が出てきてわたしは思わずツッコミを入れる。え、うっそぉ、ここの人たち普通に和食も食べるのかい。それはそれですごいうれしいんだけど。流石にわたしが普段食べてたものが食べれるのは地味に嬉しい。
「ほう……人間はこのようなものも食べるのか、とても興味深いな」
どうやらウォフルさんは和食を知らないらしく、しげしげと和食を見つめる。あれ、和食ってそんなに知れ渡ってるわけではないのだろうか?
わたしが首をかしげていると、シマさんは説明を続ける。
「こちらの料理は東の海を超えた先にある島国から渡来してきた料理でございまして。その島国では主に朝食として振舞われるそうです。こちらの豆ご飯も、普段は白米だそうですが、マキ様のため、豆と一緒に炊いてみました。ちなみにその島国特有の食器がありまして、チョップスティックスと呼ばれる2つの木製の棒を使って食べます」
「箸っ!!」
「ま、マキ様? 如何なさいました?」
食いつくわたしにシマさんが少し驚きつつ、わたしは改めて食卓を見る。ある。あるではないか箸が! なんてこった箸がある!
おぉお……まさか諦めていた和食スタイルが完全に食べれるようになるとは、ナイス東の海の先の人達!
ひとり興奮していると、シマさんが気付いてもらうために一つ咳払いをする。
「それではマキ様、食事の前の挨拶お願いしますね」
「へ? 挨拶?」
挨拶といわれて、わたしは首を傾げる。え、なんだろうよく宴会とかで言うところの代表者の挨拶みたいなのかな。うええ、そんないきなり振られたってわたし分からないんだけど……。
「東の海では食べ物を自然から頂いた礼節として『頂きます』というそうです。マキ様はそちらの知識を既に有しているようですし、先達としてまずはマキ様にお願いしたいのですが……」
あ、なんだ頂きますを言えばいいのね。それなら簡単だ。
「それじゃあ、皆さん手を合わせてください。……あ、チビちゃんはそのままわたしの後で一鳴きしてくれればいいよ」
体躯的に無理そうなチビちゃんにわたしは言って、わたしも手を合わせる。
ふふ、なんだろう、幼稚園とかみたいでこれはこれで面白いな。
「それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
「わふ」
「ガゥ」
わたしの声掛けの後、シマさんとウォフルさんが続き、それに呼応するようにチビちゃんとクマダさんも声を上げる。
んーこれはこれでまたいいかもしれないなぁ。
おっと、そうだった和食だ和食。せっかく用意された和食なんだ、わたしも楽しむとしよう。
そう考え、まずは箸を手に取り焼き鮭に手を出そうとして――ハッと周りを見渡す。
「……あぁ、ウォフル殿は箸の使い方が分かっておられないようでございますね。これはこれは、大変失礼しました」
「こ、こうやって掴むのか……おわっ!? す、滑ってなかなか持てないぞ……」
悪戦苦闘するウォフルさんと、それを見て嘲笑めいて口を歪めるシマさん。シマさんすごい性格悪い顔してらっしゃいませんかね。どんだけウォフルさん嫌いなの。
「え、ええっと、ウォフルさん、食べづらいのであればフォークとかでも……」
「い、いや、これが和食という人の食文化なのだろう。ならば理解できるよう俺も精進せねばなるまい……!」
プルプルと手を震わせながら、箸をなんとか持ち、そのまま焼き鮭へと箸をのばす。
おぉ、すごい……普通の箸の持ち方をすぐに覚えるとは、ウォフルさん結構箸の使い方うまいのかな。そのまま焼き鮭を箸でゆっくりと一口大に分けて、箸で鮭を取る。
おぉ、あと少し、あと少しで食べれるぞウォフルさん……!
「あむっ! むぐむぐ……」
「おー、ウォフルさんすごい!」
「チッ……物分りの早いことで」
悪態をついてるシマさんは気にせず。わたしはウォフルさんを素直に褒める。
ウォフルさんはというと、ほめられて照れてしまったのか少しばかり顔を赤らめつつも、笑顔でわたしに応えてくれた。
んーむ、食文化の違いってのに咄嗟に気付いて焦ったけれど、この分だと大丈夫そうかな……。あれ、クマダさんどうやって食べるんだろう? やっぱ素手?
そう考えつつ、クマダさんの方を見ると、まるでそれが自然と言わんばかりに普通に箸を持ち、丁寧に焼き鮭を切り分けて口に運んで食べては、顔を綻ばせていた。……別の意味ですごいなクマダさん。
「これは……! 淡白ながらもしっかりと塩の味が利いているな。魔族の食事ともまた違ってとても美味い……」
おっと、わたしも食べなきゃ。せっかくのご飯が冷めちゃう。止まっていた手を動かして、わたしは焼き鮭を一口大にして一口食べてみる。
……おぉ。両面しっかりと焼き上げられていた鮭は下ごしらえをしたであろう塩の味がしっかりとついていて、鮭の油にしっかりとマッチし、しっとりとしつつ淡白ながらも風味を損なうことなく口の中に広がっていく。脳裏に浮かぶのは田舎の原風景。忙しい朝の朝食を彩るピンク色のにくいやつ。
まあ、何が言いたいかというと、とっても美味しい。
「いかがでしょうか、マキ様。お口に合いましたでしょうか?」
「んー! とっても美味しい! これぞ焼き鮭って感じ」
「お口に合い、なによりでございます」
相変わらずわたしに対しては、先程の塩対応とか悪態はなんだったのかというぐらいに笑顔をぶつけてくるシマさん。んー他の人にもそんな風に優しく接すればいいのになぁ。醤油の掛けられた冷奴に箸をつけて、それを口へと運びながらわたしは考える。
んーむ、冷奴だ。まろやかに広がる豆腐の風味と醤油とネギとミョウガのハーモニーってやつだね。美味しい。
お豆の炊き込みご飯も塩鮭や冷奴に合わせて塩味は控えめ。しかし他のおかずをしっかりと引き立たせてくれてそれがまた美味しいのだ。
そしてそして、待ってました、お味噌汁! 御味噌の味がしっかり出てるし、ワカメや豆腐の味がしっかりと口の中に広がってくる。あぁ……これぞ和食って感じ。
「んー! 美味しかったー」
「はい、お粗末様です」
あっという間に平らげてしまい、わたしは食後のお茶をまったりと飲む。シマさんは既に食べ終わっており、続いてクマダさん、チビちゃん、少し遅れてウォフルさんと、ご飯を食べ終わってしばし落ち着く。
「なるほど……これが人間の食べる食事か。むむ、魔術や精霊術以外にも勉強すべきものが増えそうだな」
「もうどっぷり人間文化にのめり込んでるな……ウォフルさん」
メモを取り出して、ウォフルさんは一生懸命何かを書き込む。シマさんに熱心にレシピを聞いている辺り、料理のレシピを記しているのだろう。研究熱心だなぁ。
「チビちゃんとクマダさんはどうだった?」
「ガウ」
「わふわふ」
「……んー満足そうだねぇ」
流石に何を言っているのかっていうのはいまいち分からないが、表情や声音を察するに美味しかったのだろう。うんうん、皆和食を気に入ってくれた様で何よりだ。
わたしはそう考えて、手を合わせる。
「それじゃあ食べ終わったら皆手を合わせてー」
「ふむ?」
不思議そうに手を合わせるウォフルさん、にこやかに合わせるシマさんと、静かに手を合わせるクマダさん。チビちゃんは……うん、しっかりとお座りの体勢である。
「はい、ごちそうさまでしたー」
「「ごちそうさまでした」」
「がうがう」
「ワオン」
日々食事が出来ることに感謝を。当たり前になっていたけれど、わたしは改めてごちそうさまに含まれている意味を考えてにっこりと笑うのであった。
ちょっと蔑ろにしがちだったグルメ描写回
飯テロ気分に出来たら大成功です。




