15.これが彼らのはじまりです
大分更新期間が空いてしまった……。
とりあえず無理なくまた更新再開なのです。
唐突にこんなことを言うのもなんですが。
いくら落ち着いているように見えても、時折わたしだって混乱するようなヘマをするわけでございまして。
目の前に広がる惨事(?)を見て、わたしはそんな風に客観的にわたしを捉える。
思った以上に落ち着いてるんだけども、内心これどうしたもんかなと必死に思考を巡らせる。
「……ゴロゴロ……にゃあぁん」
「アッハァ……すっげ、魔術とか精霊術とかもうどうでもいいぐらいやっべぇ……ワフウウウウン!!」
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
『アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! 曝け出せぇ!! ウィリアムちゃんの光ィ!! ヒィィィイイイイイイッハアアアアアアアァ!!』
『香れ香れ香れぇ!! ふふふ、あははは、アーッハッハッハッハッ!!』
んー。これはもうあれだ。
諦めて小さく溜息を吐いて、取り囲む環境下を一瞥しながら。
「あー……誰か助けてー……」
右手には泥酔した表情で喉をゴロゴロと鳴らすシマさん。左手には腹を曝け出してわたしに撫でさせるウォフルさん。駆け回るチビちゃんに、狂いながら飛び回るシルフ君とウィリアム。
そして背もたれにしている背後には幸せそうな顔をして眠る青くきらめくドラゴンさん。
一歩も動くことの出来ないこの状況で、わたしは静かに助けを求めるのであった。
まあ、何故こんなことになったのかと言いますと、話はクマダさんとウォフルさんがやってきた次の日の朝までさかのぼる。
「おはようございまーす、ウォフルさ――」
「む、マキ君か……」
わたしが挨拶しようと近づいたウォフルさんは、着流しの上半身部分を剥いて、豊満なモフモフ胸毛を晒して何やら息を整えていた。
紅色の毛並みと首下から下腹部に掛けて広がる白い毛並みのコントラストが絶妙なまでにわたしをモフモフへと誘う。
嗚呼素晴らしきかな、誘うは魔性のモフモフ。
「モフモフ……ハッ!?」
「ま、マキ君? 大丈夫か?」
思わずわたしは見惚れてしまっていたが、ブンブンと頭を振ってその誘惑を振り払う。危ない危ない、なんだあのモフモフは。わたしを誘惑しているというのかな……。
「えっと、何していたんですか?」
煩悩を祓うべくわたしは話を変えてウォフルさんが何をしていたのか尋ねる。
そんなウォフルさんは汗ばむ毛並みをタオルでふき取りながら、息を吐きつつわたしの質問に答えた。
「ふむ。朝の空気は精霊達の魔力を豊富に含んでいるのでな。こうして周囲の魔力を体に取り入れる為に、瞑想をしていたのさ」
「あぁ、昨日言ってた魔族は周囲に存在する魔力を得て、自分の魔力とするっていうやつですね……」
上の空でわたしはウォフルさんの話を聞いていたが、どうにもその毛並みが気になって仕方がない。さ、触りたい……モフモフしたい……。
「あ、あぁ、そうだな。……ま、マキ君? ジロジロ見てるがどうしたんだ?」
「ほぁあ!?」
正気に戻ると同時に、自分が何をしていたのかわたしは気付くと慌ててウォフルさんから離れる。
なんでだ、モフモフがわたしの視線を捉えて離してくれない。うああああ、すっごい触りたい。
「大丈夫か? 俺は人の体というものをあまり理解できていないから、詳しいことは良く分からないが……何かあったら、すぐに言うんだぞ?」
「モフモフさせ……。あ、い、いえ大丈夫です」
暴走しそうになるわたしを落ち着かせて、わたしはウォフルさんの方の家の方を改めてみる。
木造の一軒屋ではあるものの、到底一日で作り上げることは不可能であろうその家は、昨日の僅か半日で出来上がってしまった。
『いいか? お願いだから魔力管理をしっかりしてくれ。お嬢さんの魔力は精霊を喜ばせるものだが、同時にそれは何者をも狂わせかねない魔性の蜜だ。このままじゃ俺達ノームが魔力酔い起こして地下で狂ったように働いちまうんだ。そこだけは本当に理解してくれ。じゃあな』
家作りを終えて形容しがたい顔で、そう捲くし立てるノームおじさんは、わたしから逃げるように地面へと潜り込む。
いつの間にかまた増えていたノーム人形が何やら切り株の上で狂ったようにダンスを踊っていたのを覚えている。
どうやらわたしの魔力というものは、精霊達にとって何にも勝る力の源らしいが、それを貰いすぎると狂ってしまうらしい。事実、家作りを手伝っていたノームさん達は、血走った目ですごい勢いでウォフルさんの家を作り上げていた気がする。
やっぱり女神様は、わたしに膨大な量の魔力を与えてくれたのかな? だとすればあの女神様、相当チートモノ小説好きだな?
元の世界の女神様のにんまりとした顔が浮かんできたが、気のせいだとわたしは首を振る。やりかねないけれども、あの女神様に失礼だしそういうことは考えないようにしておこう。
そんな風に考えつつ、ウォフルさんが着流しを着直したちょうどその後。
シマさんが家の戸を開けて、わたしを探すようにキョロキョロした後にわたしの方へ深々とお辞儀をする。
「マキ様、お待たせしました。朝食のご用意が出来ました……ウォフル殿も如何でしょう?」
「わーい、朝ごはん――うわ、シマさんすごい嫌そうな顔してる」
「は、ははは……まだ俺のことを歓待しているわけではなさそうだな……。あぁ、俺も一緒に頂こう」
「ワン」
ウォフルさんを誘う際、すごい嫌そうな顔をするシマさん。そんな強面で眉間に皺を寄せるほどしかめっ面しなくても……。
ちょうどその辺を散歩していたらしいチビちゃんも、わたしとウォフルさんの周りを駆け回ってから、わたしに飛び込んできた。うーん、やっぱり可愛い黒の豆柴にしか見えない……。
黒柴の子犬にしか見えないチビスケちゃんを抱えつつ、わたしとウォフルさんは朝食を食べるのであった。
……そういえば、シマさん今日はやけに朝食用意するの遅かったな。