フクシュウとチョコレート1-9
この作品はフィクションです。
「まぁ、それはいい。さっさと仕事にかかるぞ。」
「へいへーい。」
なんとなく返事をして、さっきのメモ書き。結婚詐欺師の男のデータが書かれたメモを、見た目だけ猫野郎に渡す。
…もしかしたら現段階で、見た目だけ猫なら正体はなんなんだ、とか、そもそも喋る時点で猫じゃないことはわかっていた、とか、灯りのない暗闇で、どうやって行動してるんだ、とか、どこかの誰かしらにいろいろ思われているかもしれないが、
それに関しては、とりあえず置いておく。この世でまず優先すべきはチョコレート。その次に、この屋根裏での仕事なのだ。
「何をぶつぶつと言っている?」
「進行上必要かと思われることを。」
「わけのわからんことを…」
やれやれ、といった感じに鼻を鳴らすと、見た目だけ猫野郎はメモ書きに目を通す。
暗闇の中、猫の両目だけが、美しく、しかし不気味に浮かび上がっている。
…いや、ここは、不気味に、しかし美しく、の方が、雰囲気が出るか?
「………ふむ。」
「どうよ?」
「全て、偽、だな。」
「だよね~、詐欺師だもん。本名で詐欺るわきゃないわ。」
「で?」
「真を導いてちょーだい。」
「簡単に言ってくれる…。」
「そのためのパートナーシップでしょ?真偽を見抜くあなた、と、心身を操るわたし、と。適材適所、役割分担。それが仕事の基本よ。」
「お前のような者に正論を言われるのは腹が立つが…。まぁ、いい。」
見た目だけ猫野郎の両目が、くるり、と、裏返る。そこに現れたのは、真を映し出す、もう一つの瞳。
真と偽とは裏表。真を偽が隠すなら、偽の裏には真がある。
それを見抜くのが、見た目だけ猫野郎の瞳。
「………。」
猫の瞳に見つめられたメモの内容が、偽から真へと書き換わっていく。
「…終わったぞ。」
時間にしておよそ10秒。メモは偽から真へと姿を変えた。
「さんきゅー。」
メモを手に取り内容を確認する。ターゲットの本当の名前と住所、そして、現在地が記載されている。これだけわかれば十分。
感謝の意をこめて、見た目だけ猫野郎の頭を、ぐりん、と一撫で。
「…やめんか。それは本物の猫相手にでもやっておけ。」
「えー、いーじゃーん。見た目だけは猫なんだから。」
「…全く。偽の姿でなければ過ごすことが出来ぬとは、なんとも窮屈な世界よ。」
「愚痴らなーい愚痴らない。これもお仕事よ、お仕事。エズアウォード様にカミナリ喰らいたくはないでしょ?」
「………ふん。」
不機嫌そうに鼻を鳴らすと、見た目だけ猫野郎は、くりん、と、丸くなってしまった。寝るつもりだろうか。
猫を撫でるのは気持ちいいのです( ̄∇ ̄)