フクシュウとチョコレート1-10
この作品はフィクションです。
「……あとはお前の仕事だ。カミナリを落とされないように、せいぜい気を付けることだ。」
「へーい。」
たかだか数分で仕事が終わるお前は楽で良いよなこの見た目だけ猫野郎め。とは、人格者の私はみじんも口にしない。ああしないとも。
考えていても言葉にしなけば、何も問題は無い。妄想していても行動しなければ、何も弊害はない。穏やかな日常が過ぎ行くだけだ。
故に、脳内であればどんなことを考えようと許される!
「…ぐちゃぐちゃ言ってないでさっさと行って来い。」
「へーい。」
実際に言葉にして発言すると、このように文句を言われますのでご注意を。
時刻は14時45分。
律儀な後輩くんのことだから、そろそろ店に来ている頃だろう。何かと口うるさいのが難点だが、言われたことを律儀にこなす姿勢は評価してやらんでもない。
まぁ、それはさておき。
「てんいじーん。てんいじーん。らららてんいじーん。」
「…やめんかやかましい。」
「えー、いーじゃーん。黙って準備すんのつまんないんだもーん。」
「だからと言って、歌いながらステップとターンまで組み込むのは、明らかに準備の妨げだと思うが?」
「もーいちいちうるさいなぁ。後輩くんかお前は。」
「人間風情と一緒にするな。」
文句の多さではいい勝負だと思うんだけどなぁ。その辺、人間だろうとなかろうと、関係ない気がする。
それでも、人間と一緒にされたくない、ってのはあれかね。種のプライド、ってやつかね。
まぁいいけど。
「かんせーい。」
なんのかんのやり取りしつつ、転移陣を完成させた私。これを使えば、あらゆる場所に一瞬で移動出来るという優れ物。作り方もとっても簡単。決められた文言を定められた順番の通りに正円に沿って書き記すだけ。わぉ、なんてシンプル。
一文字でも間違えると無限の暗闇にはじき飛ばされるけど、まぁ、間違えなきゃ良いだけの話。
「じゃ、行ってきまーす。」
「ヘマをするなよ。」
見た目だけ猫野郎の悪態に見送られながら、私は転移陣の中心に立つ。
真の情報に書き換えられたメモを読み上げると、
次の瞬間には、私の姿は屋根裏部屋から消えているのだった。
脳内で考えておくに留めておいた方がいいことも、あります。




