夢のあとの気分は
茜の家へ招待されて気の乗らないまま出かけたけれど・・。
嫌な気分のまま週末になった。茜との約束の日曜だ。私はユキオと電車に乗った。駅に茜が迎えに来ると言っていた。
「ねえ。ユキオ」
電車の中で私は言った。
「最近何か聞かない?」
ユキオはすぐ意味を理解した。
「特別・・ミノはなんか見たの?」
「・・ううん」
私は答えて窓の外に並ぶビニールハウスの上の灰色の空を見た。今にも雨が降り出しそうだ。
「今日は寒いよね」
私はブルージーンズと白いシャツの上に羽織った赤いカーディガンを引っ張った。ユキオはカラフルなチェックシャツに黒いスキニーパンツとキャンパスシューズを履き丈の短い焦げ茶のジャケットを着ていた。何時もはよれよれのシャツでもかまわず着ているのに今日はお呼ばれモードだった。
「ミノが元気がないって茜が気にしてたぞ」
「・・うん」
あの夢が頭にこびりついてあまり茜と目を合わせなかった。調子が悪いの、と茜は何度も聞いてきた。
大社の最寄り駅は観光客でにぎわっていた。
「ここらへんで唯一人気の多い駅だな」
ユキオが皮肉っぽく言った。
「美野!ユキオ!」
駅から出ると水色のコットンセーターに白いレースの膝上スカートで手を振る茜はすぐにわかった。とびきりの笑顔は憂鬱な天気など吹っ飛ばしてしまう。
「茜!」
思わず私も声を上げた。茜は私たちのそばに走ってきた。
「来てくれてありがとう」
息を弾ませていた。それから少し歩くけど、と言って先に歩き出す。黒い髪がきらきら光った。大通りを曲がるとすぐに人の姿は消えていつもの田んぼや古い家がぽつぽつとした風景になってしまう。それでも私達三人は曇り空の下、意気揚々と歩いた。学校の外でこんな風に三人で行動するのは新鮮で楽しい。この間の夢のことなど忘れてしまった。
茜の家は黒い壁のお洒落な外観の三階建てマンションだった。私たちは屋外階段を上った。途中茜は足を止めて私たちを振り返った。
「ママを見ても驚かないでね」
少し暗い表情で言った茜に私とユキオは目を見合わせた。
「ただいま!」
茜はショコラ色の玄関ドアを開けた。
「美野とユキオくんを連れてきた」
茜がスリッパを並べてどうぞ、と言った。
お邪魔しまあす・・
私たちは遠慮しつつ柔らかい照明のともる室内に入った。観葉植物の置かれた玄関を上がると廊下の両側に部屋が二つ。その先のキッチンの方から声がした。
「いらっしゃい・・」
びっくりするほどか細い声だった。
まだ続きます!