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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第四節 シリアルキラー

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手がかり

 ライトたちが案内されたのは工房の応接室。


 二人が余裕で座れるソファがテーブルを間に挟んで、向かい合わせに置かれている。

 全体的に質素な部屋だが、掃除は行き届いているのか清潔感はある。


 その応接室の扉に近い方のソファにアヴィケー、隣に助手の男性がいた。


 ライトは普通にそのソファに腰掛け、デフェットはその後ろで彼のマントを腕にかけて立っていた。


 彼女は奴隷である。ということをはっきりと示すためのことだが、少し心苦しく思いながらライトは切り出す。


「現在、シリアルキラーがこの南副都にいるのはご存知のことかと思います」


「……君は商人ではない。前口上はいい。

 素材について用意がある、ということだが?」


 冷たい声音と言葉だ。

 しかし、当然とも言える。


 ライトは商人ではない。

 さらに、旅も初めて二ヶ月ほどだ。そんな者が話せることなど高が知れている。


 ならば、すぐに本題に入った方が互いのためだ。


 萎縮しかけた心を奮い立たせて、ライトは再び話を切り出す。


「今、そちらは魔術の研究素材の入手に苦労していますね?

 そこで、私たちがその素材を用意します」


「……なんでも、か?」


「いえ、私が今持っているものに限らせていただきます。

 この近くで手に入るのもでしたら少しの時間をいただければ採取してきますが」


 アヴィケーは言葉もなく思案を始めたのか黙り込んだ。


 ライトからしてみればこの話をアヴィケーが受けても断ってもどちらでも良い。

 後ろで立っているマナオーゲンを付与されたデフェットが工房内を見ればいい。


 工房には必ず結界が張られている。


 それは工房内で起きた影響、例えば、爆発や空気汚染などが外部に放出されるのを防ぐために必ずあるものだ。


 しかし、デフェットが言うには、それの影響で外側から見るとマナの流れがその結界までしか見えず、結界内の様子まではわからないらしい。


 そのため、マナリアでも工房内に入り、調査することとなった。


 この話を受けてくれるのならば最低でも後一回会うのは決まる。そこでまた詳しい調査もできる。

 話の流れに乗れば研究場所を見ることもできるかもしれない。


「……いくらだ」


 話に興味を示したらしいアヴィケーがポツリと言った。

 これ幸いとライトはすぐさま返す。


「条件がありますからね。ギルドで出された依頼料の三分のニでどうでしょうか?」


「……わかった。それでいい」


 アヴィケーは隣の助手に耳元で何かを言うとその男性は立ち上がり、どこかへ向かった。


「今助手に必要な素材を書かせている。それが出るまでしばし待て」


「はい」


 短く答えて肩の力を少し抜く。

 しかし、警戒はしたままだ。まだ彼が無関係だと決まったわけではない。


 そんなライトへとアヴィケーは言葉をかける。


「一つ疑問があるのだが、なぜこんなことを?」


「とある魔導師に頼まれた……ということで納得はできますか?」


「とある魔導師……か」


 何かを含む言葉と共に一瞬アヴィケーの目が鋭くなったような気がした。


 それについて聞こうとしたところで、応接室に男性が戻ってくると、その手に持っていた紙をライトに渡した。

 礼を言いながら受け取り、それに目を通す。


(ほとんどが生物の外骨格……全部今出せるけど……)


「デフェット。この内容だ」


 後ろに立つデフェットへとその紙の内容を見せる。


 少し前かがみになりながら、彼女はその内容を読んでいた。

 だが、そのことに夢中になっていたらしく、腕にかけていたマントを落としてしまった。


「ッ!?も、申し訳ありません!!」


 ライトの射抜くような鋭い目にデフェットは焦ったような表情を浮かべてると、すぐさまマントを拾い上げた。


「申し訳ありませんでした。

 素材についてですが手持ちが少々足りないので二、三日後にまた来ます。よろしいですか?」


「ああ、待っている。彼を送ってやれ」


「はい。どうぞこちらに」


 ライトは最後に一礼、デフェットも何かに迫られるように礼をすると彼の背について応接室を出た。


 彼らは玄関まで案内した助手に軽く礼を言うとすぐにその工房からも出て行った。


◇◇◇


 アヴィケーの工房から出て少しの路地裏でライトがデフェットに頭を下げていた。


「あ、主人殿!顔を上げてくれ」


「ごめん。でも、なんかこうしないと俺が落ち着かないから」


 確かにあの行動は全て予定していたものだ。

 しかし、それでも自分の中には罪悪感のようなものはある。


「……私は謝罪は欲しくはないな」


 それを聞くとライトはバッと顔を上げるとどこか照れ臭そうにしながら少し小さな声で言った。


「ありがとう。デフェット」


「ああ、どういたしまして」


 二人の間に少し和やかな雰囲気が流れる。

 ライトはそれを少し名残惜しく思いながらも咳払いをして確認するように質問した。


「それで、マントを落としたと言うことは?」


 マントを滑り落としたデフェットのあの行動、それは予め決められた合図だ。


 紙に書かれていた素材は幸運なことに全てマントの中に質はともかくとして、量としてみれば充分ある。

 そして、それはデフェットも知っていることだ。


 もし、デフェットが会話中にあることを見つけられなければ頷きライトにマントを渡す。


 見つけることができればマントを落としてそこから出る。


 そして、彼女はマントを落とした。


 それはつまり––––。


「マナの淀みを見つけた」


 マナの淀み。

 シリアルキラーが殺した者たちの場所には必ずあったそれを見つけたということだ。


「……あの人がシリアルキラー、か」


「もしくはその関係者だろうな」


 彼と会うのは二、三日後だ。

 ともかくとして、アヴィケーという魔導師は注意しておくに越したことはないだろう。


「別のところも行こうか」


「ああ」


 その後、彼らは別の魔導師の工房を同じように訪れたが、アヴィケーの工房以外でデフェットがマナの淀みは感じることはなかった。


◇◇◇


 ライトたちがホーリアの工房に戻った頃、ちょうどよくホーリアたちも戻ってきたため、すぐさま情報交換が行われる。


「なるほど……アヴィケーですか」


「知っているのですか?」


「ええ、まぁ、私のライバルのような者ですから」


 アヴィケーはこの国の中でも屈指のゴーレム使いだ。


 今はまだ魔導師、魔術師にしか使えないゴーレムを人間にも扱えるように制作しているらしい。


 アヴィケーはそれが出来るであろう、という仮説を少し前に発表した。

 もし、それが本当に完成すれば人間の生活は大きく変わることになるであろう。


「そんな人が……?」


 アヴィケーを疑うようにウィンリィが呟いた。

 だが、ホーリアはそれを否定するように首を横に振る。


「いえ、そんなわけがありません……。

 彼はライバルではありますが私の同志、私の友人です。ありえませんよ」


 そうは言うが彼の顔はどこか自信がなさげに見える。


 ホーリア自身も心のどこかでアヴィケーのことを疑っているらしい。


 彼らが調査を行なった魔導師たちの工房にはこれといったものは無かったらしい。

 それならばどれほど疑いたくなくとも友人であれ疑うしかない。


 細い体がさらに弱々しくライトたちには見えた。


 その彼の姿から目をそらすようにウィンリィに小声で聞く。


「ミードの方は?」


「なんとも……怖いくらいにいつも通りだ」


「そうか……」


 ゆっくりとミードの方へと視線を送るが、たしかに見た目はいつも通りのように見える。


「……ミード。大丈夫か?」


「ん? ああ、大丈夫だ。いつでも動ける」


 受け答えもはっきりしている。

 しかも、その言葉は余裕を感じせるような小さい笑みとともに発せられた。


 そんな彼を見てもライトの不安は一向に晴れることはなく、より大きくなっていくだけだった。


◇◇◇


 ライトたちが出て行った後、アヴィケーたちはリビングに集まっていた。


 小休止も兼ねているため、それぞれの前には紅茶が置かれているが、浮かべる表情は真剣そのもの。


 助手の一人が心配した様子でアヴィケーに問う。


「本当に、受けて良かったのですか?」


「……仕方あるまい。素材に困窮していたのは確かなこと。

 安くで手に入れられるのならばそれに越したことはない」


 確かにその通りだ。


 まだ動くには速い。“アレ”に対抗するにはまだ準備が必要だ。


 そんな状況でもし他の第三者を入れてしまい、このことがバレて広まってしまえば、手出しができなくなってしまう。


 それだけは必ず避けなければならない。


 しかし、だからと言って周りと変に距離を取ると確実に怪しまれる。このご時世ならば特にだ。


 それを避けるにはある程度の交流は持っていた方がむしろやりやすい。


「……どう、しますか?今日の実験」


「決行する。我々は完成させなければならない」


 アヴィケーのその決意のこもった言葉に助手の二人は緊張の面持ちを浮かべ、ゆっくりと頷いた。

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