キラーの正体
ホーリアたちと捜査を始めてから翌日の夜。
ライト、デフェット、ミードの三人は夜のカジノ街を歩いていた。
あいもかわらず、シリアルキラーはいるというのにカジノ街から人影が消えることはない。
勝ったであろう者は大声で奴隷か従者と話しながら別の店を探し、負けたであろう者は言葉を少なくさせトボトボと帰路に着いている。
「相変わらずの人だなぁ」
「ああ、シリアルキラーがいることが嘘のようだ」
ミードとは調査を始めた日を境に普通に会話ができるようになっている。
それは望んでいたことだ。
しかし、何かが違う。
これは自分が見たかったものではない。そんな確信がある。
『アンタは難しく考えすぎなのよ』
『彼は憎しみが動機とはいえ顔を上げた。
君が彼の仲間と言うのなら彼を支えればいいじゃないか』
『そう、ずっとうずくまっている者には何もできない。
顔を上げる。
せめてそれをしてくれないと差し伸べられた手に気がつけないもの』
『心配するのならば君がその手を差し伸ばし、掴むなり、顔を引っ叩くなりすればいい』
これは白銀、黒鉄と会話した時に言われた言葉だ。
彼女たちの言う通り、理由はどうであれミードは顔を上げて動き出した。
ずっと塞ぎ込んでいるよりはマシだと言うのはわかる。
(でも、俺は憎しみだけを持って生きて欲しくはない)
それは自分の想いだ。それもかなり身勝手な想い。
それを押し付けるのは違う。
わかってはいるが言いたくなる。
「憎しみだけで動くのはやめろ」と––––
(結局、俺は独りよがりで……)
転生してすぐのゴブリンとオーク、オーガの掃討戦。
嬲り捨てられた女性たちを見て、自分も憎しみにかられた。
だから、復讐で動くミードへとかける言葉が出てこない。出せない。
ミードと同じく、憎しみにかられたことがある者が「憎しみで動くな」など上から言える言葉などないからだ。
何もできない自分を歯がゆく思い、拳を握りしめる。
その時、デフェットが突然大声でライトを呼んだ。
「主人殿!!」
「ど、どうした?」
大声の呼びかけで周りからの視線を集めてしまったことに気がついたデフェットは小声で伝え|。
「あの独特なマナが動いている」
「な!? それって、まさか」
「可能性はある。ここからなら魔術を使えば間に合う」
ライトはそれに頷くとミードと顔を見合わせる。
彼は二人の声が聞こえたのか、それとも雰囲気が変わったことを察したのかジッとライトを見ていた。
その目が力強い意思をまといながら「俺も行かせろ」と訴えている。
「行くぞ、ミード」
「ああ、頼む」
「デフェ、そこまで案内してくれ」
「了解した」
デフェットはクラフェットⅡを唱えると高く跳び上がり、二階建てのカジノの屋根に乗った。
ライトはミードを脇に抱えるとマーシャルエンチャントを唱え、高く跳躍して屋根に飛び乗る。
それを合図にデフェットは移動を始めた。
落とさないように強くミードを抱えてライトは先頭を走るデフェットを追い、屋根を跳び移りながらその場所へと向かった。
◇◇◇
到着した場所はカジノとカジノ、宿屋の間に伸びた細い路地。
おそらく、それらの従業員が出入りするだけなのだろう。
薄暗く、大きなゴミ箱もあるため、本来の道よりさらに狭くなっていた。
そんな場所にそれらはいた。
一人は貴族の従者だろうか、店員だろうか。
どちらにせよそこそこ整った服装をしている女性。
そして、その後ろには人間と同サイズの、しかし、人間とは呼び難い何かがついて走っていた。
ライトたちは迷うことなく、女性と人型の何かの間に入るように着地。
「デフェット! その人の護衛を!
って、ミード!!」
すぐさまデフェットへと指示を出した瞬間、ミードはライトの手から離れて、迷うことなくそれに向かって走り始めた。
「止まれ、ミード!
この暗がりじゃぁ……クソ!」
静止の言葉をかけるが、やはり彼は己を失っているのか止まる様子はない。
それどころか雄叫びを上げながら剣を鞘から抜き取った。
ライトは咄嗟にフロートフレイムを唱えて明かりを作り出す。
それらの灯りが人型のそれとミードを照らした瞬間、ミードは迷うことなく剣を下から切り上げた。
人型のそれは腕を軽く出してそれを受け止める。
その瞬間、何か硬い物に当たった音が辺りに広がった。
ライトとデフェットが灯りに照らされたそれを見て息を飲んだ。
ミードと剣を合わせているそれは全身に黒い布を纏っていた。
だが、わずかに見える部分だけでもそれが人でないことがわかる。
明らかに筋肉ではない不規則的で角ばった肌、頭部は体に対し、小さく、そこに一つだけ存在している目が黄色の光を放っていた。
そして、ミードの剣を受け止めている右腕は肘から先が剣のように鋭く尖っていた。
「あれって……まさか」
「ゴーレム!?」
二人がそれの正体を察するのと同時にゴーレムはミードを押し飛ばす。
彼らの間に距離が生まれた隙に、逃げる気なのかそれはライトたちに背を向けた。
「ッ! 逃さない!」
ライトは高く跳び上がると空中で一回転、逃げようとしたゴーレムの前に立ちはだかると剣を中段で構えた。
ミードは動きが止まったゴーレムへと接近、上から振り下ろす。
それはゴーレムの背中に一つの線を入れることに成功はしたが、それだけだった。
想像していた通りでそれは痛みを感じないらしい。
動じる様子もなく腕を真横に広げると上半身をコマのようにグルグルと回し始めた。
ミードは飛んできたゴーレムの剣を自分の剣の腹で受け止め、吹き飛ばされないように踏ん張る。
僅かに動かされたが、そのまま押さえつけることに成功したらしく、彼らの動きは完全に止まった。
ライトがその隙を突くように刺突の構えを取り、そのまま直進。
マーシャルエンチャントは未だ有効なため、その速度は凄まじくゴーレムに回避の隙を与えずにその腕へと刃が食い込んだ。
それによりターゲットはミードからライトへと変わる。
同時に叫んだ。
「ミード! 離れろ!!」
ミードは咄嗟に後ろに跳躍、それと合図にライトが唱える。
「インフェルノ・ガントレット!」
青い炎を纏う左の拳をゴーレムに叩きつけた。
だが、その部分がわずかに凹んだだけで大きなダメージは与えられていない。
(これでダメなら!)
それを確認するやいなやその拳を引き、腰に貯める。
「リアクティブ・アーマー!!」
叫ぶように唱え、アッパーでもするように拳を突き上げた。
瞬間、爆発が起こった。
爆風や爆発の衝撃をゴーレム側に向けていたため周りの建物に被害はない。
周りに分散されるはずだったその二つの衝撃を真正面からまともに受けたゴーレムは高く吹き飛んだ。
高く飛ばされた先の落下地点、そこにはミードが剣の切っ先を上、落ちてきているゴーレムへと向けていた。
「うおおおおおッ!!!」
その声と共にミードはその剣を突き出し、ゴーレムを突き刺した。
ゴーレム自身の重量、落下の勢いが合わさった一撃。
今まで感じたことがない衝撃を両腕から両足に受け、ミードは歯を食いしばるがしっかりと立っている。
剣に突き刺されたゴーレムはしばらく痙攣するようにピクピクとしていた。
彼はそれを気にする様子もなく地面に叩きつけるように降ろし、剣を抜き取ると再び突き刺した。
そして抜き取り、また突き刺す。
まるで壊れた人形のようにその動きを繰り返していた。
怒りと憎悪をまといながらも口だけは笑っていたミードに対し、ライトもデフェットも止めることすらできずにただ呆然とその光景を見ていた。
「おい! なんださっきの音は」
激しい物音で出てきたカジノの支配人や野次馬の人たちの声でようやく彼らは我を取り戻した。
すぐにミードへと静止の言葉をかける。
「ミード、もうやめろ!」
言葉をかけながら剣を掴んで離さないミードの肩を掴み止めた。
「まだだ!あいつらが受けた屈辱に比べれば––––」
「そいつはもう壊れてる。
これ以上やっても意味なんてない!」
そう、意味はない。
ゴーレムは魔導師、魔術師が作った人形だ。
一体を徹底的に壊したところでまた新しく作ればいいだけのこと。
ライトの言葉にミードは少し落ち着きを取り戻すことが出たらしく、肩で息を繰り返しながらゆっくりと腕の力を緩めた。
二人の会話が落ち着いたのを見計らい、支配人はボロボロになったゴーレムを指差しながら質問を投げる。
「……なぁ、これはあんたらがやったのか?」
「はい。そうです」
店主は辺りを見回し、デフェットの後ろにいる女性を見ると頷いて裏口の扉を開いた。
「うちの奴らにここの維持をやらせる。
あんたらには先に話を聞きたんだが、いいか?」
「わかりました」
「よし、四人来い。あと、騎士団にこのことを知らせにも行け」
支配人が店の中に指示を出すと四人の店員が現れて行動を始め、それと入れ替わるようにライト達は店の中に入った。




