ネスク迎撃戦(下)
ライトを含めたグループとマナリアのみで編成されたグループ。
前衛を務める二つのグループが同時にネスクの大群の前に躍り出た。
その少し後ろの木の上には後衛を務めるマナリアたち五人がほぼ等間隔に並んでいる。
彼ら防衛部隊のリーダーでもある男性が声を上げた。
「前衛!魔術を使いながらの誘導を!」
声が届くとほぼ同時に彼らは各々の魔術を発動させ、攻撃を仕掛けた。
「エアカッター!」
ライトの言葉に呼応して空気の刃が形成された。
それは真っ直ぐに飛び、ネスクを二体切り裂く。
しかし、当然ながらたった二体いなくなったところでネスクの波が衰えるわけもなく、ほとんど変わらない勢いで突き進む。
変わったことは狙いがライトへと変わり、一直線に向かっていているということだけだ。
「シャアアアッ!!」
三体のネスクが鳴き声を響かせながら飛びかかる。
「ッッ!」
「はぁッ!!」
三体の内、両脇にいたネスクはそれぞれデフェットがレイピアで突き刺し、ウィンリィが切り裂き倒した。
残りの真正面にいた個体はボウガンから放たれた杭に貫かれた。
ライトは再び飛びかかられる前に先手を打つ。
「創造、ブラスト・バレット!」
新たな魔術を創造すると同時ボウガンを放つ。
ライトの魔術を受けながら放たれた杭は二本に分裂、それがさらに四本に、次に八本、十六、三十二と倍々に増えていった。
杭の雨はライトに向かっていた集団に刺さり、半分は潰し、残りの半分は動きを止めた。
「今です!!」
ライトの声を合図に後衛部隊の二人が魔術を唱える。
「「ルフト・ボーベ」」
その呪文に反応してネスク集団に当たっていた光が二ヶ所で不思議な屈折を起こし、次の瞬間に爆発した。
その爆発に巻き込まれたネスクたちはバラバラになり、破片が辺りに落ちる。
ネスクたちの狙いは先ほど魔術を使ったマナリアたちへと変わり、一直線に突き進む。
だが、当然そのまま通すわけがない。
「グランド・アーム!」
唱えた瞬間、地面から二メートルの腕が伸びた。
その腕はネスクの群れの中へと振り下ろされ、後方のマナリアたちへと進もうとしていた群れを叩きつぶし、握りつぶし、殴り飛ばした。
グランド・アームがそうしている間にもライトはボウガンから杭を放ち、飛びかかるネスクを剣で切る。
「はぁ、はぁ、なんだよこの数!」
防衛の手は一切緩めていない。
そのはずなのに異常なまでに数が多く、減っているという実感が持てないでいた。
そんな時に頭に声が響く。
『これは中々に多いわね……』
『僕たちで一気に吹き飛ばす?』
飛びかかるネスクを剣で受け止めてボウガンでその頭を穿ちながら答える。
(ダメだ!こんな密集してる場所で使ってみろ。
ネスクと一緒に俺以外の全員が吹き飛ばされる!)
白銀と黒鉄へと言葉を飛ばし、ボウガンを構えて魔力を込め杭を撃ち出した。
ブラスト・バレットが付与されたそれはねずみ算的に増えていき、最終的に杭の雨となってネスクの群れへと降り注ぐ。
動きが止まったその集団に後方のマナリアが放った魔術が発動一気に吹き飛ばした。
それを見ながら、新たな個体を探しながら空になったカートリッジを外し捨て、創造した新たな物をセット。
狙いは相変わらずライトの方に向いている。
(作戦も連携も上手い具合にできている。使うのは最終手段だ)
『仕方ないわね……あんたがそれでいいなら構わないわよ』
『でも、君に死なれたら困るからね。何かあったら問答無用で出るよ』
ライトはボウガンを放ちながら黒鉄に答える。
(そうならないようにするんだよ)
少なくとも今は大丈夫だ。まだやれる。
ライトは心の中で暗示をかけるように言葉を唱えながら冷静に迫り来るネスクたちを倒していく。
◇◇◇
そんなライトたちの動きに舌を巻いていたのは防衛部隊リーダーのマナリアだ。
本人たちの強い希望で渋々彼らと連携を組むことを許した。
たかだか人間に何ができる。
そう思っていたがいざ蓋を開けてみればどうだろうか。
連携を下手にかき乱すこともなく、前衛としての囮の役割を果たしているではないか。
そもそもデフェットはマナリア。魔術が不得意とはいえ、同族としてこの村に住んでいたため、何をどうすればいいのかを知っていてもおかしくはない。
しかし、ライトやウィンリィは違う。
彼らは人間。違う種族であり、マナリアを見下している種族だ。
(だと言うのに……なぜだ)
現在ライトとウィンリィは互いに背中を守り合い、ネスクの群れを減らしている。
度々そこにデフェットも入っている。
三人になるとわずかに動きが悪いが、それでも戦闘が続くにつれ良くなってきていた。
それぞれで連携が取れるのならばわかる。
彼らは三人で旅をしているというのは聞いていたからだ。
しかし、彼ら全員が自分たちマナリアに背中を預けている。
動きの端々からそれが伝わっていた。
「はぁ、はぁ!ッ、今!!」
ライトの声に後衛から魔術が飛び、ネスク集団を吹き飛ばす。
肩で息を繰り返すライトの代わりにウィンリィとデフェットが前に出て、彼へと向かうネスクを狩る。
それに対しライトは剣を地面に突き刺し、ボウガンで援護。
それは同じグループのマナリアにも行われている。
「ッッ!!」
そんな彼の左側から二人のネスクが忍び寄っているのを見つけた。
◇◇◇
「はぁ!はぁ!はぁ!」
息が荒い。集中力も切れてきた。
魔術も使えるのはあと数回といった程度。
ネスクの波は確かに衰えてきてはいるが、まだまだいる。
ボウガンでの援護射撃を続けて前衛を行くウィンリィ、デフェットとマナリアの男性たちの行動エリアをできるだけ維持する。
否、それがライトにできる精一杯だ。
二体のネスクがデフェットへと向かっている。
おそらく、彼女の視界の端には写っているだろうが、回避や防御は間に合うかどうかかなり怪しい。
絶妙なラインではあったが援護することを決めて狙いを定め、引き金を引く。
すぐに杭を装填すると再び引く。
放たれた二発の杭はネスクに命中、動きを止めた。
「す、すまない。主人殿助かった!」
ひとまず波が落ち着いたらしく、デフェットが振り向きながらライトに礼を言った。
しかし、その顔はだんだんと驚愕と焦りの色を濃くしていく。
ふとデフェットから視線を外せば、ウィンリィも同じような表情を浮かべてライトへと走り寄っていた。
「ッッ!!?」
疑問の声を上げる前に気配に気がつき、彼女たちが見ている方向へと振り向いた。
そこにはライトに飛びかかろうと迫っている二体のネスクがいた。
(な……ん!?)
集中が半ば途切れながらも援護を続けていた結果が今の状況だ。
前で戦う者たちを援護することだけを意識してしまっていた。
そんな状態では自分の周囲にまで気を張れるわけがない。
しかし、それを今悔いても遅すぎる。
今更魔術は間に合わない。回避や防御も当然同じく。
デフェット、ウィンリィが援護に走っているが距離が少しある。
走ればすぐの距離だが後少し届かないだろう。
こうなってしまえばあとは当たりどころを祈るしかない。
即死を避けられれば反撃を与えることもできるはずだ。
ライトは軽傷で済むように可能な限り身をひねる。
だが、考えもしていなかった状況、咄嗟の反応に体がついて来ず、足が絡まり倒れる。
(嘘だろ……おい!)
今から立ち上がり、反撃するのは間に合わない。
このままでは良いようにネスクたちに食われる。
そう思った矢先のことだった。
二体のネスクは空気の刃により胴の中程で切り裂かれ、地面に落ちた。
「……え?」
ライトは立ち上がりながら、ゆっくりと空気の刃が飛んできた方向へと視線を送る。
そこにいたのは彼らのグループのリーダーをしているマナリアの男性だった。
「あ、ありがとうござ––––」
「礼はいい!すぐに立て!」
「は、はいッ!」
ライトは強い語気に対し、反射的に返事を返しすぐさま立ち上がった。
その肩をグループリーダーのマナリアが軽く叩く。
「もう七割のネスクを倒した。
あと少しだ。君は前線の援護を、護衛は私がする」
予想にしていなかったその言葉に驚き、ライトは言葉もなくそれに頷いた。
それを見て彼は満足そうな笑みを浮かべる。
「私は、君たちを誤解していた。
君たちのような者たちがこの世界にはいるのだな」
彼の言葉にはどこか自虐的な雰囲気を感じる。
「君たちが私たちを頼るのであれば、私たちは君たちの力となり、その背中を守ろう」
「……ッ!はい!お願いします!!」
「よし!全員、あと少しの辛抱だ!全力を尽くせ!!」
その声に返事はない。代わりにそれぞれが手に持つ己の矛を軽く揺らすだけだ。
今はそれだけで充分だ。
戦う意志がまだあるのならば全く問題はない。
彼らにネスクの最後の群れが迫る。
今までと比べ、少し数は少ないが五十を軽く超える数はいるように見える。
しかし、それから残りのネスクたちはライトたちとマナリアの連携により殲滅された。
完勝、とは言い切れない。
怪我をした者が数名出ており、力を使い果たし意識を失った者もいた。
だが、誰一人としてかけることなく彼らはネスクの群れを退くことに成功した。




