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転生クリエイション 〜転生した少年は思うままに生きる〜  作者: 諸葛ナイト
第一章 第三節 マナリア

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ウィンリィの過去

 ライトが守人の男性に連れていかれて一時間ほどが経過した。


 未だに戻って来るような気配を感じ取れないせいか、心配でウィンリィの貧乏ゆすりは大きくなっていく。


「……失礼を承知で言わせてもらう。

 それはあまりやらない方がいい。見ていて気分が良いものではない」


「ん?あっ……すまん」


 デフェットの言葉で気がついたのかその足を止めた。


 そのままウィンリィは黙っていたがふと背中からベッドに倒れると天井を眺めながら息を吐く。


「あいつ、遅いな……」


「問題は……ないと思いたい」


 デフェットは窓から外を眺める。

 そこには夜の静寂が訪れている家々が並んでおり、転々と灯りがついてはいるがほとんどは消えている。


 その視線を上に向け空を見上げた。

 木々の隙間から辛うじて見える空には星がいくつか浮かんでいたが雲もあるせいか少し見え辛い。


(このままでは私の気も滅入ってしまうな……)


 なんとか場の空気を変えたい。

 そう思いデフェットは頭をひねり、浮かんだそれをぶつけた。


「そういえば……ウィンリィ殿の剣術は大したものだが誰かから教えてもらったのか?」


「ん?ああ、そうだよ。バウラーって人にね」


「バウラー……殿か」


 デフェットがその名前を口ずさむと「そう」と頷き続ける。


「不思議な人でな。とんでもなく強いんだよ。

 今はハルバード使ってるけど本気の時は剣を使うらしい」


「……何故そのような面倒なことを?」


「さぁ?自分のことは何も言わない人だからな……」


「もしかしてウィンリィ殿が旅をしているのはその人の影響か?」


 深く考えることもせず、デフェットは浮かんだ質問を素直にぶつけた。


 ほんの一瞬、しかし、たしかにウィンリィの表情が暗くなった。

 デフェットは己の失敗を悟り、すぐに謝ろうとしたがそれは彼女が口を開いたことで防がれる。


「いいんだ……丁度いいし。デフェットには話しとく」


 そこで切ると勢いをつけて上半身を起こしデフェットの方を向く。


「ただし!このことはあいつには言うなよ。絶対に抱え込むからな。

 あと、私を呼ぶ時はウィンでいい。それとデフェットを呼ぶ時は私もデフェって呼ぶ。

 これらの条件が飲めるなら話す」


 全く難しい条件でもなんでもないそれをデフェットは頷く。

 その反応を見てウィンリィは「よし」と頷くと腕を組み考え始めた。


「そうだな……産まれからか。話すならやっぱり」


 そうやって切り出された話は最初からデフェットを驚かせるに充分すぎる物だった。


「私は、スラムで産まれたんだよ」


◇◇◇


 ウィンリィが産まれた場所は東副都トイストのスラム街だ。


 トイストは西副都ウイストと同じような構造をしているが、貿易で発展している副都だ。

 そのためか独特な文化が発展している。


 少し距離はあるがトイストからさらに東の方に進めば海がある。

 そして、その先には今は魔王の進行により壊滅した隣国である【カルトレント】がある。


 そこに一番近い副都であったため、貿易都市として発展していた。


 貿易が盛んだったためか人の出入りが多く、自然と身売りが横行した。

 手軽に性処理が出来る。と言うことで自国、他国問わず割と盛況だったらしい。


 トイストのスラム街の中にいた娼婦の一人。それがウィンリィの母親だった。


「……父親は?」


「わかるわけないだろ?

 娼婦だったけど相当に美人だったからなぁ、あの人……何人、何十人、下手すりゃ数百人に抱かれたんだ。わかるわけない」


 そこには何かを思い詰めるような雰囲気は感じない。本当になんとも思っていないようだ。


 人気だったおかげかスラム街の中でも彼女たちはある程度はいい暮らしができていた。

 少なくとも食事や水で困ることはなく、まぁまぁ人間らしい暮らしができていた。


 だが、そんな生活も終わりを迎えた。


 何故か?と問う必要もない。魔王に滅ぼされたからだ。


 その結果カルトレントからは大量の難民者が押し寄せてきた。


 何割かは職にありつくことができたが、それは全員ではない。

 残った者たちは行くあてもなくさまよい、最終的にスラム街に住み着くようになった。


「まぁ、最初は混乱したがそれもどうにか一息着いた頃だったよ……母さんが誰かに殺された」


「ッ!?」


 ウィンリィが食料調達を終えて商店街から帰ってきた時にはすでに母親は誰かに刺されていた。


 最初は息が微かだがあった。もしかしたらまだ助かるかもしれない。

 そう思いすぐに助けを呼んだ。泣き叫びながら呼んだ。


「でも、誰も助けてはくれなかった……そうやって母さんは死んだよ」


 多少の貯金はあれどその量などたかが知れている。

 これから先も暮らして行くには到底足りない。


「あの時は、焦ったよ……どうするか考えた。必死になってな。

 んで考え付いたのが」


「娼婦になること、か?」


 「その通り」と視線と何かに呆れたような笑みを浮かべながら肩をすくめた。


「そりゃ、ためらったよ。自分の体を売るんだからな。相当な覚悟を決めた……」


 その当時のウィンリィはまだ十二歳だったが、その手のものを好む客には受ける。

 証拠に彼女とほぼ同年代の少女たちは普通に体を売り、日銭を稼いでいた。


 躊躇いや戸惑いは感じたものの、それがおかしいことなど一瞬たりとも考えなかった。


 そうしなければ生きてはいけないからだ。

 生きていくには体を売ってでも金を稼がなくてはならない。


 死んでしまった母親のように––––


「んで、見事に客を釣っていざ初体験……って時だった」


 唐突に騒ぎが起きた。

 悲鳴や泣き声が薄っぺらい家の壁を通り越し、ウィンリィたちの元へと届いた。


 彼女は自分に覆いかぶさっていた男性から逃げ出し外に飛び出る。瞬間、誰かにぶつかり尻餅をついた。


 ぶつかったのは男性だった。

 ハルバードを背負い、腰には一本の剣をぶら下げている男。


「まさか……その男性が?」


「ああ、バウラーだったよ」


 バウラーたち数人はギルドからの依頼で広がり過ぎたスラムの縮小を行なっていた。

 縮小はその住人を殺すのではなく、大半が三級奴隷として売るためだ。


 三級奴隷ならばある程度の使い潰しも出来る。

 そのため、増え過ぎたスラム住人を奴隷として確保することが度々ある。


 奴隷確保の依頼は最近は見ないがギルドでも張り出されることがある。


 何もおかしくはない。商品の確保する行為。

 それは木の実を取ったり、作物を収穫したりする行為と差はない。


「バウラーはさ。私を見て何も言わなかったし何もしなかった。

 奴隷として確保するために来たってのにな……」


 ウィンリィは自分の手を見つめ、そのことを思い出しながら話を続ける。


「そしたらさ。私の後から出て来た男を見つけてすぐに取っ捕まえて馬車の方に連れて行きやがった」


 その男性をおそらく奴隷を乗せるために連れて来たのだろう馬車に乗せるとバウラーは戻って来て言った。


「家の中で隠れていろ。私が床を3回踏む。それが聞こえたら出てこい。

 もし、見つからなければ……」


 そう言うとバウラーは新たな奴隷を探してスラム街を歩き始めた。


 その時のウィンリィは言葉の意味を理解できなかった。

 あまりにも予想外すぎて突拍子もなくて呆気にとられ、立ち尽くしすしかなかった。


 だが、それも一瞬のこと。

 彼の指示の通り、ウィンリィはすぐさまオンボロのクローゼットの中に家にある布全てを押し込み、その中に隠れた。


 バウラーの言い方から察するに他にも依頼を受けた者がいるのだろう。

 そして、その者に見つかれば問答無用で奴隷にされるのは間違いない。


 そうなってしまえば比喩でもなんでもなく“人生”が終わる。


「震えながら待ったよ。何回か部屋の中を回られたしクローゼットも開けられたけど……どうにかバレなかった。

 ほんと、クローゼットを開けられた時は焦ったよ」


 それから何時間が経っただろうか。

 床を三回、同じ感覚で踏み鳴らされ、ウィンリィは恐る恐る布の山から這い出てクローゼットの小さな隙間から外を伺った。


 その先には男性がいた。

 それは剣を腰に引き下げ、ハルバードを背負ったバウラーだ。


 ウィンリィはクローゼットから飛び出ると彼に走り寄り、抱きついて泣いた。

 周りに気を使うこともなく、バウラーの服が汚れるのも気にせずに泣いた。


「それからバウラーと行動を一緒にするようになった。

 剣を教わったし、野宿の方法、生きることに繋がることはほとんど教えてもらったよ」


 それから様々なことを経て今に至る。

 ウィンリィはそう締め括ると話を終えた。


「そうか……」


「まぁ、本当に色々あったからさ。

 いつかそのことは話すよ。ともかく、よろしくな。デフェ」


 そう言う彼女の表情はいつものように戻っていた。


 ならば下手に自分が暗い表情を浮かべるわけにはいかない。


「ふふっ、ああ。よろしく頼むよ。ウィン殿」


「あー、出来ればその殿ってやつも取って欲しいんだけど……」


「それは断る」


 きっぱりとデフェットが答えると何がおかしかったのか自分たちでさえもわからないうちに笑い出した。

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