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レーサーってやつ……


   10



 F/Eマシンのコックピットに座って、そのハンドルを繁々と見ていると、まるでプレステみたいなんだよね? 真ん中にモニターが付いてるよ? ボタンが8つも付いてるなんて訳わかんないよね?


 小栗さんからは、『ボタンは絶対触っちゃ駄目!』って言われちゃった。


 さあて、これからが本番のテスト、あれ? ドキドキしてきたぞ……。


 コースに出るのは僕が先だった。

 メカニックの手でタイヤ・ウォーマーが一斉に外され、小栗さんから『GO』のサインが出た。


 僕は変速パッドをローに入れてアクセルを優しく優しく踏み込んでピットロードに出たよ。


 さっきオンダのF1でコースに出た時は訳が分らないまま、コースにチャレンジしていたけど、今回はじっくりとコースを走る事にする。何せ電気モーターの車は初めて乗るからね。


 僕はピットロードの出口から2速に繋いでちょっと加速してみた。何だこりゃ?


 ガソリン・エンジンの様なドッカンという加速が感じられない。じわっっとする様な加速。しかも、回転が上がるに連れて身体がシートに押し付けられる感じが急激に強くなる。


 1コーナーが直ぐに迫ってくる。僕は1速にシフトダウン、強くブレーキを踏み込みステアリングを右に目一杯きってコーナーを回り込む。う~ん、なんかエンジンブレーキはまったく利かないようだ。


 機械的な摩擦が全然無い所為かな?


 短いけども急な下りを2コーナーに向けて加速する。やっぱり加速感がおかしい。


 2コーナーをクイックに曲がるとコカコーラ・コーナー手前で3速にシフトアップそして直ぐに2速にシフトダウンしてアウトからインを抉る様に左に回頭する。エンジンブレーキが利かないからまるでスケート・リンクを走っているみたいだ。


 これがF/Eの特性って事なのかな?


 このコーナーはF1だとアクセルを開けるタイミングが難しい。ずっと下ってきてコーナーを抜けると昇りで向こうが見通せないんだよね。でもこのフニャフニャ加速のF/Eならば何処で踏んでも関係ないみたいだね。


 右に大きく旋回する100Rは4速に入るまで加速できる。面白い事に3速高回転まで引っ張ると、アンダーステア気味なんだけど、4速にシフトした瞬間極端なオーバーステアに変わるんだ。修正舵でマシンがふらふら揺れるよ、スリル万点さ。


 時速180キロ近くでアドバン・コーナーが迫ってくる。僕はハッとして早めにブレーキを踏むよ。エンジンブレーキが利きづらいのを思い出したんだ。


 左に掛かっていたGが一気に右に変わり、三半規管がちょっと揺すられる。ん~ん、正確じゃないなぁ、左後ろから右斜め前にだね。


 アドバン・コーナーを抜けると右に大きく曲がっていく300Rの複合コーナー。ここは度胸一発アクセルベタ踏みだね。レースでは他の競技車両が一緒に走っているのでアクセル開度は9割程かな?


 ダンロップ・コーナーのシケイン手前100メーターで既に4速レブリミットに達していたよ。225キロの制限速度?


 コーナー手前でハードブレーキ、変速パッドで纏めて1速まで落し、右に左にシケインを抜けてゆくんだ。ここはリズムだね。


 そして、13コーナーからプリウス・コーナー。ここは今までと違って左に左にって回り込んで行くんだ。すっごく意地悪なコーナーだよ。メカニック泣かせなんじゃないかなぁ?


 そして最終ターンのパナソニック・コーナー此処は、短い直線でコーナーに繋がるんだけど、結構な昇り勾配だから、トラクションが後ろにかかってオーバーステアになるんだ。しかも、逆バンクの様な錯覚がおまけで付くから、アクセル開度が掴みにくいのさ。


 そしてメインストレート、後はアクセルを開け続けるだけ、ドライバーが出来る事は最終コーナーを抜けた後、なーんにも無いのさ。 いや、首を前に曲げて少しでも空気抵抗が少なくなるかなぁ? ならないような気もするけど、一応やってみる。


 僕は上目使いで1コーナーを睨みながら、頭の中で次の周回はどうやってタイムを削り取ろうか必死で考える。


 だって、それがレーサーってもんだろう?




   ◇   ◇   ◇




 俺はアイルトンって小僧がピットアウトしてから10秒ほどで後を追うようにピットを飛び出した。FJでこの富士はゲロが出るほど走りこんでいるんだ。ぜってーぶち抜いてやる。


 俺は最初からコースを攻めて行った。結構本気で攻めたのに、小僧のマシンが見えてこない。


 『何でだ?』俺は自問自答する。


 俺がF/Eマシンに慣れていない所為か? いや、走り始めて直ぐにこのマシンの加速性能の鈍さには、気が付いている。その特性を把握して尚、かなり攻め込んだはずだ。


 『――なら、何でだ?』


 たかが10秒しか差が無いんだぞ?


 あの軽薄そうな小僧が俺様並みに早いって言うのか?


 いいや、そんな事はねえ。世界一速いレーサーは、この石原玉三郎様だ。


 石原はそうして更に苛烈にコースを攻め始めた。




 石原の下の名前『玉三郎』が酷く残念な名前であるのは、みんなの秘密である。

生暖かい感想ちょうだい。

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