テストは上の空
11
「今、何週目ですか?」
コース脇のデータ・ロッガーに森脇が遅れて入って言った。
「今は3週目ですね」
小栗はインカムを片手で持ち、片方の耳に当てながら答える。
F/Eは最高でも走行中の音は80デシベルしか出ないのでインカムをしなくてもデータ・ロッガー内で会話が出来る。
「タイムはどうでしょうね?」
森脇がモニターの周回タイムを目で探す。
アイルトンも石原も、1分30秒を切ったところだった。
「二人ともやりますねぇ」
森脇はニヤニヤした顔で言った。
それを傍で見ていたかほりは、『こんなに機嫌がいい父を見るのは久しぶりだわ』と思った。
「二人とも、F/Eの弱点はもう掴んじゃったみたいなんですけどね」
小栗がそれに答えてニッコリ笑って言った。
「F/Eはどうしても、突っ込みと立ち上がり加速が鈍いですから、コーナーをクリアするのにロスが生じるんですよね」
森脇もそれに頷いて言う。
「小栗さん、いずれにしても今期は彼ら使えないでしょ?」
森脇の質問に小栗は渋い顔をした。
「まあ、2~3戦は出してあげたいけど、ドライバーも発表しちゃったし、コンストラクターは来年からだから、新しいマシンの開発をしてもらおうかな?」
小栗が言う『ドライバー』とは、フェリックス・ダ・コスタ、サルバドール・デュラン、キャサリン・レッグ、佐藤琢磨の事だった。
フェリックス・ダ・コスタはポルトガル出身で、去年レッド・ブルのリザーブ・ドライバーだった期待の新人である。
サルバドール・デュランは、メキシコ出身で、NASCARのディトナ500の優勝経験もある中堅ドライバーで、ルノー3,5選手権で3回の優勝経験がある。
キャサリン・レッグは、主にツーリングカー・レースで地道に成績を残しており、昨年はインディーカー・シリーズにも参戦している紅一点である。
佐藤琢磨は、言わずと知れた元F1レーサーで、小栗がF1レースに挑戦していた時のファースト・ドライバーである。その後、インディーカー・レースに参戦していたが、F/Eの開発ドライバーとして現在のF/Eマシンを仕上げた立役者でもあった。
森脇は小栗の言った『新しいマシンの開発』という言葉に反応した。
「『幻雷」ですか? でもあれ、今のところ100キロワットの出力のしか作っていませんよ? それ以上だとミッションがもたないです」
森脇は眉を顰めて言った。
「それに、モーターの冷却に自然吸気だけでは追いつきません。ラジエーターの口径を上げて送風ファンを付けないと」
そして、続けて難しい顔で言う。
「それ程ですか!?」
小栗はビックリした顔で言った。
「それ程ですね。私のところの様な町工場に毛が生えたような工場ではもう限界です」
森脇は首を左右に振りながら言った。
「桜田さんが協力してくれたらいいんだけどなぁ……」
小栗も渋い顔で言った。
「おっと、1分26秒台がでたぞ。二人とも合格だなぁ」
小栗はちらっと微笑んで、インカムでそれぞれのドライバーにピットに戻ってくるように伝える。
森脇と小栗はピットロードを横切ってパドックまで並んで歩いて行った。
かほりもその後に続く。
「アイルトンと石原はこれで合格出すから、オンダの桜田さんと早急に連絡とらなくっちゃな?」
小栗は独り言の様に言った。
「ウチの工場に呼んだ方が良いでしょうね?」
森脇が小栗の顔色を見ながら言った。
「そうだよねぇ、『幻雷』も見てもらわないとね」
小栗は、パドックの隅に置かれたスポーツ・ドリンクを森脇に渡しながら言った。
「神堂さんは呼ばなくちゃいけないでしょうね?」
森脇はそれを口に運びながら言う。季節は九月だが、まだ残暑で暑い。
「そりゃ、モーターの開発者だから必須だよ」
小栗は頷きながら言った。
「オンダ側からは何人ぐらい来るんでしょうか?」
森脇が心配そうに言った。
「うーん、5人ぐらいかなぁ……」
小栗は考え込みながら言った。
「あっ、『幻雷』持って鈴鹿にいっちゃおうか? どうせ試乗したがるだろうし」
途中で急に思い出したように付け加える。
「え? 持ってちゃうんですか?」
森脇が焦って言った。
「神堂さん来てくれるかな? 僕あの人苦手なんだよな」
小栗が苦笑いをする。
「私が連れて行きますよ。元々私の知り合いですから」
森脇が溜め息を付きながら言った。
そんなところに、アイルトンと石原のF/Eマシンが戻ってくる。
森脇と小栗の目は、熱っぽくそんなマシンを見ていた。
この物語はフィクションです。実在の人物団体とは一切関係ありません。
5/9マシン名修正しました。




