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木乃伊取り?

少し短いですすいません;;

15




「さてと、玉置さんでしたっけ? 僕は小栗皐月、オグリレーシングの代表をしています」

 小栗はアルカイックな笑いを浮かべながら玉置に自己紹介した。


 玉置はあの後、オンダのセキュリティ担当者に半ば拉致されるようにパドック裏のテントまで連れてこられたのだ。


「ああ、知っているよ。あんたは有名だからな」

 玉置はブスッとした表情で答えた。


 テントの中では、小栗と桜田がテーブルを挟む形で玉置と対峙している。


「玉ちゃん、お前さんも運が悪いって言うか、良いというか……」

 桜田は呆れた顔で言った。


 桜田はフォト・ジャーナリストの玉置と面識があった。普通のジャーナリストの様にゴシップ絡みの取材を行う輩とは違い、只ひたすら最新のマシンのみを追いかける彼の姿勢を評価している。


「今日は偶々、新しく買ったレンズの当りを取るためにここに来ただけなんだ」

 玉置は肩を竦めて言った。


「へぇ、桜田さんの知り合いなの?」

 小栗が方眉を上げて桜田に視線を流す。


「ああ、スポーツカメラマンの中でもピカ1の腕だ。オンダ車のパンフの写真取りなんかもちょくちょく頼んでいる」

 桜田は困ったように肩を竦めて言った。


「なーんだ、それなら難しい事なんかないじゃない」

 小栗は作り笑いから本物の親しみやすい笑いに切り替えて玉置を見詰める。


「玉置さん、偶々偶然に彼方が撮った写真なんだけど、まだ情報誌とか専門誌に流されるとちょっと困るんだよ。それでさ、もし良かったらウチと専属契約を結んで、プレス広報って立場で思う存分写真を取ってみない?」

 小栗は悪戯っぽい目で玉置に話しかけた。


「それは、口封じの為か?」

 玉置は警戒した口調で返してきた。


「まあ、其れも有るかなぁ?」

 小栗は惚けた様子で答える。


「小栗さん、俺は写真を主に撮っているが、根はジャーナリストなんだ、仕事が忙しくてモータースポーツの観戦に行けないファンやお金が無い少年少女のファンの為に、美しくも臨場感溢れるスポーツマシンの姿を彼らに届ける為この仕事をしている。だから、たまたま今日俺があんた達のマシンをこの目で見れたって事は、俺の心情からしたら、そんな彼らにいち早く教えてあげるのが俺の義務だと思っているんだ」

 玉置はそう言って口をへの字に結んだ。


「まあ、玉置さんの言う事も解るけどね? 僕も若い頃は、モータースポーツが好きで好きで堪らないファンだった。でもね、玉置さん、いつかその憧れのレースドライバーになって気が付いたんだよ……」

 小栗はそこで一拍置いてニヤッと笑った。


「世界の頂点に立つ者は、負けちゃいけないんだ。何処の誰よりも速く、それこそ1000分の1秒でも速くなる為、命だって掛けるんだ。僕から言わせれば、玉置さんは『オタク』だね」

 小栗の言葉を聞いた玉置の顔色は、赤くなったり青くなったりしていた。


 それはそうであろう、小栗は日本国内で無敵を誇り、F1に行ってから世界の3本の指に数えられたからだ。その言葉には何者にも替えがたい重みがあった。


「だからね、玉置さんもそろそろ『オタク』を卒業してさ、こちら側に来て目の前に輝いている物を一緒に掴み取らないかなって思ったのさ」

 小栗は自分の武器である『愛くるしい微笑み』で玉置に尋ねた。


『この人は、本当に世界の頂点に肉薄した人だ』と玉置は、心の中で思ってしまった。


「今回、玉ちゃんが撮影した車はさ、超極秘なんだよ……悪いようにはしないからさ、それに玉ちゃんがチームに入ってくれれば、他のジャーナリストの動向なんかも探ってくれそうだし」

 桜田も横から口を挟む。


 玉置は腕組みをしてじっと二人の話の内容を吟味していた。


『ここで俺が小栗や桜田の誘いを断ったとしても、結局強烈な圧力が掛かるだろう。相手は天下のオンダと世界のオグリレーシングなのだ。吹けば飛ぶような出版社などどうにでもなるだろう。

 小栗達には初っ端に、『ジャーナリストの矜持』の様な大袈裟な話を振り翳してしまったが、実のところ隠し撮りした様な後ろめたさから攻撃的な言葉を吐いてしまっただけだ。

 逆にこれは千載一遇のチャンスだろう。専属になれば、大好きなレーシング・マシンの写真を撮り放題、内情を知れば取材で手に入る情報などカスの様なものだ……漢・玉置ここは決断だな……』

 玉置はそう考えて、勢い込んで口を開いた。


「分かった! さっきは失礼な事を言った。小栗さんと桜田さんにこの身を預けるよ」

 玉置はそう言って深々と頭を下げた。


「いやあ、そうか! 俺も仕事友達に無碍な事もできねえなって思ってたんだ。

 小栗さん、玉ちゃんの立場がどんな形になるかまだ分らないが、オンダが責任を持ってオグリレーシング共々バックアップするよ」

 桜田はそう言って小栗に頭を下げた。


「ハハハッ、まだオンダとも契約を交わしたわけじゃないしさ、だってさっき握手したばっかりだしね。

 玉置さん、あんた本当に運がいいな」

 小栗はそう言って無邪気に笑った。


「え!? あの車はオグリレーシングとオンダの共同開発じゃないの?」

 玉置は狐に抓まれた様な顔で言った。


 小栗と桜田はそんな玉置をニヤニヤと眺めている。


「まあ、追々とね……ちゃんと雇用契約結んでから?」

 小栗の顔は悪戯小僧の様だった。





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