表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

エースの誕生 その13

「ま、見えねえんじゃ分かんないわな。いや、現実逃避したそうな目をされてもなぁ……」

俺は頭を掻いて、上に目だけを向けてしばし考える。

「おお、そうか」

何かを思いついて女に視線を戻した。

「私立瓊樹(けいじゅ)学院高等学校は、オーナーが冬香(とうか)のために作ったらしいぜ」

「……学校を、作った? ……学校を作ったですって!? 彼女のために?」

「そのようだな。カシェットも元は、彼女を助けるために開発したと聞いている」

女はかくんと膝を折って、口をぱくぱくさせている。

「複数の怨霊付きと呪いのセットだったらしいからな」

そのまま今にも倒れそうだった。

「世界じゃピンと来ないだろう。だが、彼女の存在によって、オーナーや(れい)さんの力が底上げされた可能性もある。神宝(しんじゅ)十家門(じっかもん)とやらが関わっているかは分からないが……って、おい!」

背後にどんっと倒れた女。気絶したのだろう。

しかし、なぜ?

「脅かしすぎたかな……でも、まあ、嘘は言ってねぇし」

俺は床で気絶している女をしばし見ていた。ややして、あっと声をだす。

「うわぁ……こりゃ、当てられたな。念のため閉じ込めとくか」

青い光が俺の手の中に生まれる。

「それにしても礼さん、冬香さん優先なのは仕方ないにしても、ひと声かけてほしかったな」

驚いたことに、床に倒れた女が、そこに収容されていく。俺はさも当たり前のように、その青い光、いや、青い箱をテーブルに置いた。

「さては、分かってて逃げたな」

さきほどの2人の事だろうか。

「寝たろ」

俺はそう言うとソファーに戻った。

「ふわぁああぁ」

大きなあくびをすると再び目を閉じた。









「……?」

いつの間にか眠っていたが、明け方になって空腹で目が覚める。

妙な違和感を覚えて部屋を出た。

リビングまで降りてくると、夕食はそのままテーブルの上に残っている。父も手をつけた様子がない。無造作に投げ出されたメモが目に留まった。

父も手にとって見たのか、俺がその場に置いたのかは記憶にない。

「おかしい……」

紙にまつわるおかしなモノを見た事がある。

「まさか」

両親の部屋の方に意識を向ける。

父のイビキは聞こえてきたが、母の気配は感じなかった。

そっと両親の部屋を覗いてみると、父は寝ているものの、やはり母の姿はどこにもない。

無断外泊などした事がない人だけに嫌な予感がした。

急いで部屋に戻った俺は、寝巻きの上にコートを羽織り、玄関に置いていた金属バットを持って家を飛び出た。

北の空を見上げ、真っ直ぐ寺を目指す。

早歩きだったのが、いつの間にか、駆け足になっていた。

太維のじいちゃんを思い出すと、ゆっくりしてなどいられない。








「はぁ、はぁ」

肩で息をつきながら、寺の門に辿り着く。

いつも開いている門は、夜が明けていないからか、今はぴっちり閉じていた。

白い息を振り払うように手を振り上げ、門に手をかけたが、押しても引いても動かない。しばらく押し引きをした後、思い切り叩き始めた。

声を張り上げて呼びたかったが、何と言っていいのか分からず、ただひたすらに叩く。

「やめときな」

不意に横から腕を取られ、門を叩くのを止められた。

誰だと思い顔を向けると、杉の木を燃やしたあの男だ。早朝ランニングでもしていたのか、タオルを首に引っ掛けていて、随分軽装だ。

警戒の色を出した俺の顔を見た男は、ふっと力を抜いて首を横に振った。

「君、武蔵くんだろう? どうして住職に歯向かうんだろうって思っていたけど、今なら解る」

掴んでいた俺の腕を解放すると、悲しげな顔を向ける。

「ご神木のような木に火を放ってしまった。怨霊が憑いていたと思い込んでいたんだ。どうしてなのか分からないが、振り返ってみると洗脳されたみたいな感じだったよ。浄化してやったんだと思っていた。うまく言えないが、そう刷り込まれていたんだ」

ここにも犠牲者がいた。

「住職と話していたらそう思えてきて、いてもたってもいられなくなって山まで駆けて行ったんだ。もちろんその時は手ぶらだったはずなのに、服のポケットにちゃんとマッチが入ってた。いつも寺に置いてる、線香の火をつけるやつだよ」

男は己の両手を見て微かに震えている。

「正気に戻ってから、自分のした事が恐ろしくてしかたなかった。でも落ち着いてきたら疑問が色々でてきて、住職に聞こうと思ってここに来たんだ。でも、会えなかった。いつだって門は閉ざされてる」

いつの間にか、門を潜れる人間が制限されているようだ。

それなら、俺もこの男と同じだろう。余慶の許可なくこの門を越える事ができない。

「こうしてランニングをするふりをして、何度もこの前を通っている。最低でも1日に3回は通るんだ」

門が開いている時間もあるらしいが、近づくと必ず閉じると男は言う。

「君はお母さんを助けに来たんだろう」

はっとして男を見る。

「見た、のか?」

武蔵がそう聞くと、男はゆっくり頷く。

「昨日の夕方くらいに寺に入って行った」

やはりそうか。

呼び出されたのか、操られたのか分からないが、保護を破られないうちに助け出さなければ。

もう1度門に手をかけようとして、再び止められる。

「今はダメだ。でも今日は催事があるから、3時間確実にオープンになる時間がある。その時に一緒に乗り込もう。それまで力を温存しておくんだ」

焦燥感はあるが、今はこの男の言うことに従った方が良さそうだ。

俺は無言で頷いて、門から手を下ろした。

「午後2時に、寺の敷地ギリギリの場所で待ち合わせしよう。敷地に入ってしまって、気づかれたら困る。入ったら一気に駈けて、君のお母さんを救出しよう」

「わかった」









男と別れて帰途へと着く。

一際強い風が吹いて、俺はその場で身を縮めて耐える。

通り抜けた風に舞う木の葉。それに混じって黒いモヤ。

「無意識でも光は消せてるって事か」

ほっと息を吐き出し、右手に持ったままの金属バットの先端を左手で掴む。

グリップ越しでも刺すように冷たいそれが、頭をクリアにしてくれるようだ。

ふと払暁(ふつぎょう)の空を見上た。

再び冬の冷気が通り過ぎ、手に持った金属がさらに冷たく、まるで手に張り付くようだ。

あの山は霧で覆われて見えない。

幼い頃、杉の木に登って見た、霧氷が煌めく景色を思い出す。そしてすぐにその木がすでに焼失している事実を思い出し、ぎゅっと金属を握り込んだ。

母を救出する行為は、村人に寺の襲撃となって映るかもしれない。

脳裏に響く村人の声。

「武蔵のやつ、また住職に楯突いたらしいぞ」

「どうしてそんな事するのかねぇ」

「まったく、どうしようもないな」

今までなら、この程度だったかもしれない。だけど、最悪を想定しておく必要がある。

みんなはあいつの正体を知らない。だから、盲目的に信じて疑わないのだ。

でも、俺はあいつの事をよく知ってる。

あいつは邪悪だ。

生まれ故郷を捨てる覚悟で挑まねば、返り討ちにされてしまう。

そしてその敗北は、この村の消滅を意味する。

余慶(あいつ)はこの村に溶け込んで生きていこうとしていた。だけど、それを放棄したように思えてならない。

食える奴は全部取り込んで、食えない奴は野垂れ死にでも構わない。そんな風に思っているのではなかろうか。

母を使って俺と全面対決……いや、俺を捕食したいのだろう。

余慶がこの村に止まる最大の目的は、俺を取り込むことなのかもしれない。

自らの成長のために、きっと俺の何かが必要なんだ。

少女の言うように、魂の輝きってやつだろうか。

中にいるあの怨霊なのか、余慶自身の希望なのかは不明だが、今日で決着をつけてやる。

役場の男と約束した時間まで、仮眠をとって英気を養おう。

負けて死ぬ覚悟で、戦ってやると心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ