【第6話】 光と影
──翌朝。
朝食をとりながら、
何気なく、テレビのスイッチを入れる。
画面には、慌ただしい様子のニューススタジオ。
赤い帯が走り、NEWS速報の文字が大きく映し出された。
見出しには――
『誹謗中傷を放置
大手運営会社社長、逮捕へ』
男性アナウンサー:
「インターネット上で──
──不作為責任の疑いで逮捕されました。
警察によりますと、運営側は、
『表現の自由にあたる』として、
削除などの措置を──。
しかし、捜査当局は──
──判断そのものが、違法と判断しました」
女性アナウンサー:
「なお、同じ問題をめぐり、
誹謗中傷を行ったとされる、投稿者の逮捕も相次いでいます。
また、今回の法改正により、
誹謗中傷の被害者に対し、
補償制度の適用が、すでに始まっています。」
「次のニュースです──」
箸が、宙で止まった。
(もう……変化が起きた。
また、本当に救えた……。)
通勤途中、
今朝見たニュースの映像が、
何度も頭をよぎった。
(救われた人達の声……
本当に、嬉しそうだったな。
何で法律は、
こんな当たり前のことが
できずにいるんだ……。)
ブブー、ブブー。
ブブー、ブブー。
ポケットの中で、
携帯電話が震えた。
結斗:
(……森川?)
「もしもし?
久しぶりだな。
どうしたんだよ、こんな朝っぱらから。」
森川:
「あ、わるい。
──法律の会社に就職したんだって?
こないだ近所で、
ユイトの母ちゃんに会ったとき、教えてくれたんだよ。
やっぱ出来る男は違うねえー。」
結斗:
「お母さんに会った?
……っていうか、
お前はそんなところで、何してたんだ?
結局、進学したの?」
森川:
「いや、それが……。
ちょっと⋯⋯相談があるんだけどさ。
久しぶりに⋯⋯ロウバーガーで会わない?
今日、仕事終わりとかどう?」
結斗:
「ほんと、急だな。
まあいいけど……。
──じゃあ、20時に現地集合ってことでいい?」
森川:
「オッケー!
ありがとね! よろしくー!」
通話がプツリと切れる。
結斗:
(いろいろと調べたいことがあったけど……。
まあ、たまには
アイツのくだらない話に付き合ってやるか。)
◇
──事務所にて。
事務員が慌ただしく走り回り、
電話の呼び出し音が、あちこちで鳴り続けている。
田中所長:
「今朝のニュースは見たね?
その案件で、朝から相談の電話が殺到しててね。
君にも応対を手伝ってほしい!」
結斗:
「はいっ!
わかりました。すぐに対応します!」
結斗は、昼食をとる暇もなく、
一件一件、相手の声に耳を傾けながら、
何十件もの電話応対をこなしていった。
想像以上に、
苦しんでいる人が多い。
どの声も、
希望を掴もうとする必死さと、
わずかな安堵を含んでいた。
(反応が大きい……
それだけ、問題が大きかったということか。
みんな、悔しかったんだろうな……。)
ダッ、ダッ、ダッ。
真弓:
「お疲れ様です。
状況は光条くんから聞いています。
私もすぐ、対応に回ります。」
田中所長:
「対応の仕方は──」
真弓:
「それなら、問題ありません。
光条くんから、すでにマニュアルを共有していただいているので、
すぐに対応可能です。」
田中所長:
「──さすが会長と副会長。
……心強いね。
じゃあ、お願いするよ!」
──しばらくして。
真弓:
「──また、ご連絡をさせていただきます。
とんでもございません。
──はい、失礼いたします。」
真弓は通話を終えると、
静かに受話器を置いた。
その横顔を、
結斗は、何気なく見ていた。
――ほんの一瞬。
白石さんの口元が、わずかに緩んだ気がした。
笑った、と言うほどではない。
けれど、確かに――。
結斗:
「い、いや……なんでもない。」
真弓:
「……そうですか。」
真弓はそれ以上、何も言わず、
──ふう、と小さく息を吐き、
肩をほぐすように、ほんの少しだけ背筋を伸ばした。
その表情は、すぐにいつもの落ち着いたものへと戻り、
何事もなかったかのように、次の書類へ視線を落とした。
田中所長:
「ようやく、少し落ち着いてきたな。
二人とも、対応ありがとね。
それにしても……
こんな事は、開業以来初めてだよ。
正直ね、相談料ってのは、
時間の割に、あまり儲からないんだ。
でもさ……
これだけ嬉しそうな声を聞くと、
つい、力になりたくなってしまうよ。
……正義の血。ってやつかな」
事務員:
「さすが、田中せいぎ所長!」
田中所長:
「まさよしです。
正義と書いて、ま・さ・よ・し!
気にしてるんだよ?」
事務員:
「似合ってると思いますけど?」
田中所長:
「ほんとか?
……まあ、そう言われると悪い気はしないな。」
所内に、ふっと笑いがこぼれた。
結斗:
(──やばいっ。
……あと、20分しかない。)
「田中所長、お先に失礼します!」
田中所長:
「お疲れ様!
今日は助かったよ!
明日もまだ続くと思うから、よろしくね!」
結斗:
「はい!しっかり、準備しておきます。」
結斗は、
自転車に乗り、急いでロウバーガーへ向かった。
結斗:
「──ごめんっ!
……森……川?
お前、どうしたんだよ⋯⋯。
痩せたよな?」
森川:
「ははっ……。やっぱ、わかるか。
ちょっと、いろいろあってさ。
──ユイトは、
いつもの、ジャッジメントバーガーセットでいい?
俺も、同じのにしようかな。
今日は、急に呼び出しちまったから、
俺の奢りで!」
結斗:
「それは、嬉しいけど……
どうしたんだよ、その姿は。」
森川:
「ユイト……法律に、詳しいよな?
──聞いてくれ。
お前だから、正直に話す。」
森川は、周囲を気にするように視線を落とした。
森川:
「──実は、
やりたいことも特に見つからず、
実家の居酒屋で、見習いとして働いてたんだけどさ。
俺が客に声をかけたことで、
ストーカー扱いされちまって……
警察沙汰に、なった。」
結斗:
(……ストーカー?)
「警察?
……なんて、声かけたんだよ。
今は厳しいから、怪しいことしてたら一発アウトだぞ。」
森川:
「かわいかったから……
つい、ノリで
よかったらアドレスを──って……。」
結斗:
「……はぁ。
ストーカーとまでは、いかないだろうけど、
下手すると、セクハラで訴えられるぞ。
腹いせに通報ってこともありえるから、
ほんと、気をつけろよ。」
森川:
「逮捕こそ、されてないけどさ……
あれ以来、親からは信用失うし、
店には悪いクチコミ書かれるし……。
──申し訳なさすぎて……
俺、立ち直れなくて……。
こういう人間を守る法とか……ないのか?」
結斗:
「……誹謗中傷までいけば、逮捕はできるけど……
相手に、嫌な思いをさせてしまってるのは事実だ。
現状の法では……
難しいかもしれない。
──ごめん。
力になれなくて。」
(この法で、
間違いなく、多くの人を救った……
これをまた変えてしまえば、
苦しむ人がまた、増えるだけだ。
救うべきは……
被害者、のみ。)
ブブブッ、ブブブッ。
ブブブッ、ブブブッ……
結斗:
(……ん?
知らない番号からだ……。)
「もしもし?
──えっ!」
──続く──
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