54.
ロンの部屋に行き様子を確認しながら昼寝をしっかりするようにと伝える。
彼は素直に私の指示に頷いた。特に何かを抱えている様子は無い。
ただ侍女のマーサは私がわざわざそんなことを言いに来たという時点で何かを感じ取った様子だった。
ロンの前では説明できないが彼女が部屋に訊きに来たなら理由を話すことにしよう。
私は公爵夫人室に戻り手紙の続きを書く。
暫くすると外側から扉が叩かれる。誰か確認するとカーヴェルだった。
「奥様、門の前に置かれた荷物ですが警察からは一時保管を求められました」
半分ほど予想していたことだ。驚きもせず私は尋ねる。
「向こうの言い分はどういうもの?」
「危険物は無さそうだということと、レオ様とロン様宛のメッセージカードが見つかりました」
「二人に?」
「はい、ただ差出人は記載されておりません」
私は溜息を吐く。
送り主に社会人としての礼儀を叩き込んで差し上げたい。
「ですので公爵家の方でまず送り主を確認してはどうかと」
「差出人も書いていないのに?」
つい嫌味な言い方をしてしまい、内心焦る。
カーヴェルにそんなことを言っても何にもならないのに。
「……今公爵様に来客の件で手紙を書いているから、その件も書き添えることにするわ」
「お願い致します」
私の棘のある台詞に傷ついた様子も無くカーヴェルは言う。
私は先程のレオの言葉を思い出した。
「一つ質問をして良いかしら」
「何なりと」
「レオ君はあの正体不明の客が貴方の名前を呼んでいたというけれど、知り合いだった?」
そう問いかけると先程の皮肉には一切動かなかったカーヴェルの表情が一瞬強張った。
「いえ……いや、向こうは確かに私を知っている様子でした」
「なら貴方は彼を知らないと?」
重ねて追及する。
もしカーヴェルがクリス王子を知っているのなら、今ここでその名前を引き出したい。
そうすれば私も堂々と彼の存在についてレインなどに確認が出来る。
私が黙って見つめているとカーヴェルは覚悟を決めたように口を開く。
「……私の前職は王城での文官でした」
「確かにそうだったわね」
「ですが私如きは直接王族と関わる機会は無く、とある理由で職を辞しました」
今のところ彼の発言におかしなところは無い。
それなのに微妙に表情が暗いのが気になる。
(城勤め時代に何か嫌な思い出でもあるのかしら)
しかし突っ込んで聞くような関係でもない。私は黙っていることにした。
「ただ王族の方々の特徴や雰囲気は存じ上げております。本日いらした方は第二王子クリス殿下に似ておりました」
「そう、だからあんなに緊張していたのね」
これで戻って来たレインにクリス王子みたいな人間が公爵邸に来たということが出来る。
私はノルマを一つこなしたような達成感を得た。
「ですが先触れも無くいらっしゃった上で、名乗って頂けなければそう扱うことは難しく……」
「顔をはっきり覚えているわけではないってことね」
「はい……」
「なら仕方が無いわ」
私は言う。クリス第二王子は美男子だがそこまで個性的な外見では無い。
ケビンやカーヴェルのような目立つ髪色や美貌では無いのだ。
「相手がクリス殿下か、ただ貴方を知っているだけの別人かの区別なんてつかないものね」
「申し訳ございません」
「謝らないで。ただホルガーに確認して欲しいことがあるの」
「父にですか?」
「ええ、この屋敷に過去クリス殿下がいらっしゃったことがあるか。あった場合はどういう対応をしたか」
私がそう指示するとカーヴェルが驚いた顔をする。それに私も少し驚いた。
「どうしたの?」
「いえ、あの方がいらっしゃった時に父に確認すれば良かったと今更思いまして……」
そう言われて私も気づく。確かにホルガーならクリスの顔を知っているかもしれない。
(レオが生まれた時に王族が祝ってくれたらしいし)
カーヴェルは表情を曇らせる。
「私の配慮不足です」
「気にしないで、私も今まで思いつかなかったから」
落ち込んだ様子の家令を私は軽く慰めた。
「それより気持ちを切り替えましょう、今日は子供たちを遊園地に連れて行くのだから」
色々想定外のトラブルはあったがこれ以降は平和に楽しく過ごしたい。
せめてトラブルは想定範囲内のものに留めて置いて欲しい。
そんな自分の願いがあっさり裏切られることをその時の私に知る由は無かった。




