53.
「なあ……さっきの変な男は何だったんだ?」
そうレオは私を見上げて言った。
成程、それが気になって私の部屋を訪れたのか。
私は目線を彼に合わせ口を開く。
「ごめんなさいね、私にも変な人だったことしかわからなかったわ」
「何だよそれ……捕まえて貰った方が良かったんじゃないか?」
大真面目な顔でレオが言う。
その判断は正しいと思った。でも出来なかった。
「そうね、ただ旦那様の知人の可能性もあったから今回は丁重にお帰り頂いたわ」
「父様の?」
レオが驚いた表情をする。私は試しに質問してみた。
「あの金色の髪の殿方が誰か心当たりはある?」
彼は暫く難しい顔をして考え込んでいたがわからないと首を振る。
「そもそも父様の知り合いをあまり俺は知らないからな。ロンも知らないと思う」
ただ、とレオはその後付け足した。
「俺が生まれた時に何人かが贈り物をくれたらしい。あと赤ん坊の頃に顔を見に来たと」
そう言いながらレオは元乳母だったシンシアを見た。
「そうなの、シンシア?」
「はい、ですがあの方がその中のどなたかは……」
「それで俺が生まれた時は王族の方も来て祝ってくれたらしいんだ、まあ当然だけどな!」
そう誇らしげに言うレオに、私はあの金髪の不審者がその王族じゃないと良いと思った。
「でもカーヴェルはあの男が誰か知っている様子だったぞ?」
「えっ」
予想しないレオの言葉に私は目を丸くする。
そんな私の前でレオは少し違うかと呟いた。
「あの変質者がカーヴェルの名前を馴れ馴れしく呼んでたんだ」
「そんなことが……」
「でもカーヴェルは親しくなさそうだったぞ、ずっと困っていた」
だから腹が立ったんだ。そうレオは立腹した顔になる。
しかしすぐ不安そうな表情に変わった。
「なあ……遊園地に行くの、止めになったりしないよな」
そう小さな声でもごもごと言われて目を見開く。
まるで大きな声で言ったらそうなってしまうと恐れるように。
私はレオを不安にさせたことを反省した。
アイリからシンシアへ伝言を頼む時にそれも伝えるよう言うべきだった。
いや私が子供部屋を訪れて安心させれば良かったのだ。
「大丈夫よ、予定通り移動式遊園地に行くわ」
「本当だな?」
口で疑うようなことを言いながらレオは嬉しそうな笑顔になった。
私も笑顔を浮かべて言う。
「ええ、だから遊園地で疲れて眠ってしまわないようにお昼寝はしっかりすること」
「俺を赤ん坊扱いするな! ……もう行くぞ、シンシア」
「はい、坊ちゃま」
穏やかな笑顔を浮かべ侍女がレオに答える。
二人は仲良く来た道を戻って行った。
私は静かになった部屋で考える。
ロンにも予定通り遊園地に行くと通達した方が良いだろうか。
彼やその侍女のマーサは来客騒動には関与していない。
何も知らない可能性がある。
ただロンは内気で繊細な子供だ。何かを察して不安がっている可能性もあった。
ならレオと同じように遊園地に行く為にお昼寝をしっかりするようにと伝えれば良い。
「アイリ、ロン君の部屋に行くわ」
「はい、奥様」
私は自分付きの侍女に言う。
そう言えば、ケビンの知り合いという王族はロンが生まれた時には祝いに来たのだろうか。
ロンは母親の命と引き換えるように生を受けた。
ケビンはリリーを愛していた。重ねて言えば恐らくリリーだけを愛していた。
なのでロンが父やその周囲から存分な祝福が受けられたとは考えにくい。
その場合レオにやんわりとロンの前で先程のような発言を控えるよう言わなければいけない。
でもそれはレオの王族から祝われたという誇りを奪うようなことだ。
「子供たちは何も悪くないのに……」
大人の都合や感情で一喜一憂させてしまう。
そのことに気が重くなった。




