52.
「捨てましょう」
反射的にそう言いそうになり口を閉じる。
前世でも似たような嫌がらせを受けたことを思い出した。
(あの時は会社の前に大量の粗大ゴミを置かれたわね……)
それだけでも腹が立つのに業者に引き取らせた後に出て来て一時的に置いていただけと言い張った。
そして勝手に廃棄したことを散々責め立てて来たのだ。
弁護士と警察両方に頼る事になったが中々に面倒で業腹な出来事だった。
「警察を呼んで不審物として預かって貰うよう手配して」
そうカーヴェルに命じる。
前世の警察に次からはそうした方が良いとアドバイスされた通りにしよう。
「かしこまりました」
「危険物の可能性があるから取り扱いには注意して頂戴」
流石に爆発物などは仕込まないだろうが、縫いぐるみに針などはやってるかもしれない。
私は溜息を吐いた。
「子どもたちには不審物が贈り物の可能性があることは伏せるようにして。欲しがってもあげられないのだから」
「はい」
「私は自室に戻るから手配が終わったら報告に来てね」
そう言って公爵夫人室に戻る。
そこまで長い間対応していた訳でないが一度椅子に座ると暫く立ち上がりたくなかった。
「紅茶をお持ちしますか」
そう侍女のアイリが言う。
「お願い……あっ」
申し出に甘えようとしてあることに気付く。
「そうだわ、紅茶の前にレオ君付きの侍女……シンシアに対応は終わったって伝えて頂戴」
「かしこまりました」
そう返事をしてアイリが部屋を出て行く。
私は口をぽかんと開け弛緩した表情で天井を見た。
誰かに見られたら心配されるか呆れられるだろう。
でもこれぐらい脱力しないと不審者対応で受けた気疲れを短時間で抜くことは出来ないのだ。
「何でよりにもよって今日なのよ……」
そう呟いたが、呟いた瞬間に寧ろ本日を狙って来訪した可能性もあるなと思った。
何でそんなことをするのかはわからないが。
考えられる理由としたら原作でクリス王子がちゃっかり花嫁にしていたレインが今日は我が家に不在だというぐらいだ。
ケビンの親戚で王都にまで呼ばれて女性の貴人を診療しているレイン。
クリスと現時点である程度仲良くてもおかしくはない。
まず顔は知っていると思う。
なのでレインが公爵邸に居る場合推定クリス王子がやった嫌がらせは出来ない。
尚且つ現時点でクリス王子がレインに惚れているのなら彼女の前で見苦しい真似はしないだろう。
この屋敷と私の中でレインの価値が又一段階上がってしまった。
本人はそんなことなど知らないというのに。
「手紙……さっさと書くか」
流石に今回の件はケビンに報告しなければいけない。
余裕をもって組んだ筈のスケジュールにどんどん想定外の仕事が割り込んでくる。
あの金髪男の目論見通りかもしれない。そう考えると苛立つ。
それをして彼に何の得があるのかがわからない不気味さも含めて。
机に向かい手紙を書く準備をしていると扉が叩かれる。
アイリかカーヴェルだろう。私は入って良いと答えた。
予想通り、扉の向こうにはアイリがいた。
しかし別の人物も立っていた。
アイリに伝言を頼んだシンシアと、彼女が世話をしているレオだ。
まさか不審者が置いて行った贈り物の存在を知られてしまったのか。
私は内心冷や汗をかいた。




