51.
「ふ、ふふ……確かにこれは悪女だ」
そう推定第二王子が笑う。どこかぎこちない笑みだった。
(悪女とはいつから自分の気に入らない女を指す言葉になったのかしら)
私は呆れながらも何も言わなかった。
しかしカーヴェルは違ったようだ。
「奥様は、悪女などではございません」
そう男を見て反論する。
「止めなさい、カーヴェル」
「ですが……」
「人にはそれぞれの価値観があるの。自分が嫌いなものはそれだけで悪だと決めつける方だっているわ」
うっかり本音が混ざってしまったが仕方ない。
「それに私は気にしていないわ、旦那様に代わりこの屋敷を守る為なら悪女と呼ばれても構いません」
私は話を終えると金髪の男に視線を戻した。
男は笑みを張り付けたままだが目は笑っていない。
こちらを値踏みするような視線は不躾な物だが前世から慣れている。
私も真っ直ぐ相手を見つめ続ける。先に折れたのは男の方だった。
「わかったわかった、今回は俺が譲るよ」
「有難う御座います」
にっこりと唇だけで微笑み礼を言う。
推定クリス王子はくるりと体の向きを変える。
カーヴェルが素早く動き扉を開ける。
そのまま出て行けばいいのにわざわざ最後に振り向いてニヤリと笑った。
「でも気を付けてね、気が強い女は変な男に目を付けられやすいよ?」
「ええ、既に存じ上げておりますわ」
男は無言で出て行った。
カーヴェルはきっかり三十秒後に扉を閉める。
そして私に向かって頭を下げた。
「今回は本当に申し訳ございませんでした」
「謝る必要は無いわ」
今回の件は相手がひたすら最悪で無礼だった。だけど。
「ただ今後の対策は必要ね」
「……はい」
「次は妙な来客だと思ったらその時点で私を呼びに来させなさい」
「ですが、それは……」
「安心してちゃんと離れた場所で様子見はするわ。その時点で必要だと思ったら私が対応する」
カーヴェルに伝えながら私は新しい疑問が浮かんだ。
「そういえば門番たちはどうしていたのかしら」
「……確かに、私たちへの自己紹介の内容なら門の段階で弾かれる筈ですね」
それか門番たちが対応をこちらに確認しに来るか。
カーヴェルは言う。つまりそう言った対応を門番たちは取らなかったということだ。
「えら……高貴そうな雰囲気と、旦那様の知人ということで通してしまったのかしら」
だとしたら注意はすべきだろう。
通してしまったことよりも、私たちに対応を仰がなかったことについてだ。
そんなことを考えているとカーヴェルがどこか思い詰めた顔をした。
「奥様、実は先程のお客様ですが……」
そう彼が言いかけた途端屋敷の扉が強く叩かれる。
「どなたですか」
執事長の顔になったカーヴェルが誰何すると、相手は門番だった。
「いいわ、開けて頂戴」
私が指示しカーヴェルが扉を開ける。
名乗り通り軽武装をした門番が扉の向こうに立っていた。
そして目の前の私に礼をする。
あの客が又何かやらかしたのだろうか。
うんざりする気持ちで口を開いた。
「挨拶は良いわ、用件を」
「奥様、実は突然豪奢な馬車が門の前に立ち止まって……」
「馬車が……立ち止まる?」
予想外の言葉に私は戸惑う。
想像では馬車は既に門近くに停車されていると思っていたのだ。
もしかしたら屋敷の敷地内に停めさせていたのかもしれないが、それなら説明が妙すぎる。
まるでその馬車が突然現れたみたいな言い方なのだから。
「はい、そして御者が何も言わず馬車の後ろから積み荷を私たちの目の前に大量に降ろしてそのまま立ち去ってしまったのです」
どうやら縫いぐるみなど子供向けの贈り物のようなのですが。
困惑した声の門番に私とカーヴェルは顔を見合わせた。




