ダンジョン運営は営業が大事
「うーん」
カチャカチャとコンソールをいじりながら、モニターに映ったダンジョンの様子を眺めている。
あれから結構弄り倒した。階層を10階層まで増やし、魔物の種類もだいぶ増えた。今のダンジョンはこんな感じになっている。
第一階層【休憩所】
冒険の準備を整えるための宿屋や武器屋、道具屋などが勢揃い! 初めてダンジョン攻略をする人にはベテランの冒険者がレクチャーします。第一階層の目玉はなんと言っても【クォーツの酒場】。水晶洞窟の中に作られた美しい酒場は観光スポットとしても大人気!
第ニ階層【初心者向け】
駆け出し冒険者でも安心! 魔物はスライムとインプ、時々ハウンドしかいません。弱い魔物だからって油断は禁物。索敵と探索の基本を学ぼう!
第三階層【駆け出し向け】
スライム、インプ、ハウンドに加えてスケルトンも現れる。一体一体はまだまだ弱いが取り囲まれると苦戦は必至。戦術もしっかり考えて攻略しよう!
第四階層〜第五階層【中級者向け】
罠部屋が出現。武装したインプやスケルトンが出現し、歯応えのある戦闘が楽しめます。難易度が上がる分、得られる報酬も……!
第六階層【上級者向け】
Cランク以上の魔物が出現し、探索はより困難に。ここを乗り越えたものには豪華景品が待っているぞ。(命の保証はしません)
とまあこんな感じ。第七層から第十層もあるのだが、表向きは第六層で終わりということにしている。じゃないと俺の守りが不安だし。
その代わり第七層以降のダンジョンは一才の手加減なし。高ランクの合成魔物と即死級トラップの数々。踏み入れた瞬間地獄を見るだろう。
え? 『死人は御法度』じゃないかって?
そう、そのルールを守るため新たに手に入れたスキル【魔素還元】が活躍した。これはダンジョン内に溜まった魔素を俺が自在に操ることができるというスキルだった。
本来ならばその還元された魔素を魔力にして強力な攻撃魔法を使うことができるようになるスキルだと思うのだが、戦闘などしない俺にとってはあまり使い道がない。
それでも有用な使い道がないか研究した結果、死体から放出された魔素に回復魔法をかけると蘇生できるというとんでもないチートスキルであることが発覚した。
詳しい研究結果は割愛するとして、このスキルのおかげでこのダンジョン内で死人を出す心配がほとんどなくなった。そのおかげもあって最深部の凶悪さはとんでもないものになっているが……。
「一つ、問題があるんだよなあ」
「問題、でございますか?」
「おっと。いたのか」
そこにちょうどコーヒーを運んできたあずきがやってくる。独り言を聞かれたようで少し恥ずかしい。
「カフェオレでございます」
「ありがとう」
慣れた手つきでカフェオレと茶菓子を給仕するあずきを眺める。腰まである長い黒髪は邪魔にならないようにカチューシャで留めてある。というかメイド服を着ている。俺が着せたわけではない。
あずきは俺が作り出した第一の魔人。その時彼女の知識の元となったのは俺の持つ知識だからな。給仕服=メイド服という知識があったのだろう。
相変わらずデカい。色んな意味で。現代日本においては2メートル超えの女の人なんてまず見ないからな。いまだに驚いてしまう。
「ハジメ様。問題とは何か、私めでよろしければお聞かせ頂けないでしょうか? 何かお力になれたら、あずきは嬉しいです」
「ああ、実はちょっと行き詰まっててな。これ見てくれよ」
モニターの画面を切り替えて、表示された画面をあずきに見せる。そこには、このダンジョンに所属する魔物がランク順に並んでいた。
1.あずき ランクS
2.シルク ランクS
3.ケルベロス ランクA
4.テラ・ウィスプ ランクA
5.スケルトン・キング ランクA
6.サイクロプス ランクA
7.アラクネ ランクA
8.メイジ・デビル ランクB
9.メガ・サンダーエレメント ランクB
10.クイーンスライム ランクB
……
「見事な戦力かと思いますが」
「まあ、いい感じではあると思うんだけどさ」
ランクSの魔人が2人。それに加えランクAの魔物が5体と、なかなか潤沢な戦力が整ってきている。並の冒険者なら手も足も出ないだろう。罠部屋と組み合わせたら突破できる者などそうはいない。
「だけどさ、ランクAはあくまでランクAなんだよな。この間の戦いで分かったけど、この世界の上澄み連中には最低ランクSじゃないと歯が立たない」
王国第三騎士団団長のメリルや、元帥との戦いでそれは身に沁みて分かったことだ。ああいう奴らに対抗するにはランクSの魔人でなければならない。
「ただ、魔人になる条件がわからないんだよな。例えばあずきはサイクロプス、メガ・サンダーエレメント、メイジ・デビルの組み合わせでできたけど、今同じ組み合わせで作ろうと思ってもできなくなってるしさ。他の組み合わせもいろいろ試してはいるけど、合成できる組み合わせが見つからないんだよ」
そう。今の悩みとは、新たな魔人が生み出せないということ。あずきとシルクに関しては運良く合成方法を見つけることができたが、その後がてんでうまくいかない。合成可能な組み合わせの場合は表示画面に目立つ色で映し出されるのだが、今はそれがない。つまり、今の手持ちの中から魔人となる組み合わせはないということ。
「一体の魔物をひたすら強化する、というのはどうなのでしょうか」
「それも試したよ。でも最大強化すると頭打ちだな。それ以上の成長は望めない。ランクAの奴らは全員レベルMAXにしたけど、それでもダメだった」
「難しい、ですね……」
「今の手持ちだとこれ以上魔物の種類増やせないしな。まだ試してない組み合わせもあるにはあるけど、ちょっと時間かかりそうだし」
「レベル上げをして召喚可能な魔物の種類を増やすというのがいいのでしょうか」
「うん。そうだな。レベル10になってから経験値が貯まるスピードめちゃくちゃ遅くなったけど、地道にやるしかないか」
その時、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「マスター。失礼するよ」
メインルームのドアが開き、小柄な少女が入ってくる。白い髪、白い肌。白い服。全身が白一色で統一された可愛らしい少女はアルビノを思わせる儚げな雰囲気を持つ。一見人と見間違うが、その目の中には複眼を思わせる複数の赤い瞳が存在している。彼女こそが、第二の魔人シルクだ。
「お、シルクか。今戻ったのか?」
「うん。頼まれたお仕事、今日もしっかりこなしてきたよ」
「えらいぞ」
軽く頭を撫でてやると、シルクは目を細めて微笑む。隣から刺すような視線を感じるが、努めて無視する。視線が殺気に変わりそうなのを察知して即座に手を離す。
「それじゃ、早速報告を聞こうか」
「あ……うん、じゃあまずは、これが今日の蘇生料。13人分、1300万ゼルだよ」
懐から金貨袋を取り出す。パンパンに金貨が詰め込まれたそれはかなりの重量がありそうだ。袋から溢れた金貨がテーブルの上に転がる。
「13!? 死にすぎだろ。一体何があったんだか」
「中隊ほどの編成でダンジョン攻略に乗り出した冒険者パーティがいたみたいだね。でも第六階層であえなく壊滅したそうだよ」
「へえ。でもなかなかいい線行ってたんだな。もう少しでクリア報酬だったのにな」
第六階層をクリアしたものは今まででまだ1組もいない。まあ、そんなに難しくしてないから単純に今来てる冒険者のレベルが高くないってことだろうけどね。
「蘇生したらすごく感謝されたよ。1300万で仲間が生き返るなら安いもんだって。蘇生料はもう少し引き上げてもいいかもしれない」
「1人当たり100万ってかなり高いと思ったんだけどな」
「決して安くはないと思うけどね。ダンジョンに挑みやすくするっていう目的のもとであれば、あまり高くしすぎるのはよくないと思うし。ただ、失われた命の蘇生っていうのは思ったよりもインパクトが強いのかもしれないね」
「それなら、少し値上げして150万とかにするか?」
「うん。僕も異議ないよ」
「じゃあこれからの蘇生はその料金で。残りの報告は?」
俺がシルクに頼んだ業務は主に二つ。一つはダンジョン内で死亡した冒険者に回復魔法をかけて蘇生すること。俺は回復魔法なんて使えないからな。【魔素還元】で固定した冒険者の魔素にシルクの回復魔法をかけることで蘇生している。もちろん蘇生料はいただいてだ。
もう一つの業務は、情報収集だ。シルクの持つスキルで糸を各地に張り巡らせ、音波を拾うという方法で情報を集めている。要は糸電話みたいなもんだ。音声だけしか拾えないが、その精度はかなり高い。シルクの手にかかれば、一つの街の全ての会話を盗み聞きすることも可能だ。
「僕が市井を調査して、一つ気になることを聞いたよ」
シルクの顔からスッと表情が消える。何か問題が起こったのか? 俺は改めてシルクの方に向き直る。
「何があった?」
「近々、戦争が起こるかもしれない。セラフィム王国と、ケルビム帝国の戦争が」




