悪夢の回廊からはじまる 03
ラトスたちの前に、黒い石畳の道がそびえ立っていた。
細長い壁が道を塞いでいるのかと訝しんだが、そうではない。間違いなくラトスたちが走っている道と同じものが、真っ直ぐに上へと延びていた。白い柱らしきものが両側面に並んでいるのも見て取れ、ラトスは目を細める。
「まさか、よじ登るというわけではありませんよね?」
上へ延びる道を見上げ、メリーの声がこぼれた。
「そうかもしれないが……、どうなんだ? ペルゥ」
「もちろんそう! と言いたいところだけど、残念ながら普通に歩けるよ」
「あれを、か?」
「そう!」
ペルゥの明るい声が鳴る。そのひびきに心を軽くしたのか、メリーの表情から曇りが消えた。
そびえ立つ道の傍まで、走り寄る。
遠くから見た印象通り、分厚い石畳の道が折れ曲がっていた。しかし、壊れて折れ曲がったというわけではないらしい。石畳には、ひびも割れも見当たらなかった。
ラトスは垂直の道に手を伸ばす。
触れてみると、わずかに吸いつくような感覚があった。
「まさか、こんな垂直の道を歩けるのか」
深く息を落とし、そびえ立つ道の先を見上げる。
蜃気楼のように歪んでいる遠景。道の先がぐにゃりと曲がって見え、どれほど延びているか見当もつかない。
「当然だ。道なのだから」
「……セウラザ。俺はお前らみたいに、頭の中が夢いっぱいじゃないんだ」
「そのようだ。早く順応できるといいのだがな」
無表情に言葉を返してくるセウラザの足が、前へ伸びた。垂直の道に足を付け、飛び上がる。するとセウラザの身体が垂直の道に立った。数歩上へ歩いてふり返り、ラトスたちを手招きする。
怪訝な表情で見上げるラトスをよそに、メリーの足が先に進んでいった。
細い身体が跳ね上がり、壁のような道に手足を突く。しばらく手足を震わせたが、やがてふらふらとメリーの上体が起きあがった。
「……奇妙な感じです」
「それは、そっちに行かなくても分かるが」
「そういうことじゃなくて……、うーん、ラトスさんも、こっちに来たら分かりますよ」
ふり返ったメリーが、ラトスに手を伸ばす。
ラトスは一瞬ためらったが、意を決して飛び上がった。手と、足の先を、壁のような石畳の道に付ける。直後、全身ががくりと揺れた。壁のように見えていた道に、手足がしっかりと吸い付いている。
「……確かに、奇妙な感じだ」
「でしょう?」
「足は道に吸い付くが……髪や衣服は、これまでの重力に引っ張られるのだな」
これまでの道に向かって垂れ下がる衣服を見て、ラトスは首をかしげた。同意したメリーの長い髪も、同じ方向へ垂れている。うっとうしそうに髪を手で押さえ、ラトスに苦笑いを見せてきた。
「ペルゥ。ここで跳ねたら、これまでの道に落ちたりするのか?」
「大丈夫だよ。道から離れすぎると、最奥に向かって落ちるけどね」
「最奥? 悪夢の回廊の下に、そういうものがあるのか?」
「下っていうわけじゃないけど、あるんだよ。まあ、うん。そう。今は関係ないから説明しないけどね」
「面倒だから、説明しないんだろう?」
「そう!」
震えが収まったメリーの肩の上で、ペルゥが笑う。
釣られて、苦笑いしていたメリーも表情を緩ませた。




