泉からはじまる 01
≪悪夢の回廊≫
暗闇から意識を取りもどした直後、冷えた空気がラトスの肌を突き刺した。
「ここが、悪夢の回廊か……?」
視力のもどった目で、ラトスは辺りを見回す。隣に、メリーが立っていた。同時に黒い柱に触れた彼女も視力がもどったらしく、ラトスと同様に左右へ首を振っている。
ラトスたちは、扉も窓もない小さな石室の中にいた。
円蓋に組み上げられた天井だけが、妙に高い。石室の中央には小さな泉があって、こんこんと水が湧きあがっていた。しかしなぜか、泉から水が溢れ出てはいなかった。
どこを見ても、回廊と呼べるものはない。悪夢と感じさせるものもなかった。
強いて不快とすれば、凍えるほど空気が冷たいということだけか。吐く息すべてが白く濁り、石の床へ落ちていく。冷気が重苦しいと感じたのは、初めてのことであった。
「いや、ここは悪夢の回廊ではない。扉の間だ」
ラトスたちの前に立っていたセウラザがふり返り、頭を横に振った。
「扉の……? それらしき扉は見当たらないが」
「それは目の前にある」
セウラザが石室の中央にある泉を指し示す。すると泉の前に背の低い老人が立っているのを見つけた。今の今まで居なかったはずだがと、ラトスは首をかしげる。老人もまた、ラトスたちの存在にたった今気付いたようであった。しかしたいした反応を示すことなく、じっと泉の底をのぞき込みつづけていた。
「あいつはなんだ? ぴくりとも動かないが」
ラトスは老人の背を指差し、眉をひそめた。
「彼は悪夢の回廊の番人だ」
「あいつが扉を隠しているのか?」
「隠しているわけではない。まあそれは説明せずともすぐに分かる。見ているといい」
怪訝な表情を浮かべるラトスをなだめるようにしてから、セウラザが老人の元へ歩いていく。傍に寄り、短く声をかけると、老人の頭がわずかに揺れた。それを認めてから、セウラザがラトスたちのほうへ向き直る。
「行先は、王女の夢の世界でいいのだな?」
「そうだ」
「では番人に、王女の名を」
セウラザが言うと、ラトスはうなずいて番人の元へ歩み寄った。後ろをメリーが付いてくる。緊張しているらしく、震えるような吐息がラトスの背を打った。
「悪夢の回廊」の章と、次の「悲嘆」の章は、バトルシーンが続きます。
苦手な方は、流し読みしてください。




