扉からはじまる 03
「……回廊の突破は……出来るのですよね?」
恐る恐る尋ねるメリーに、セウラザがうなずく。
「出来るだろう」
「で、ですよね!」
「そうしなければ、君の望みも叶わない。胸中に巣くっている恐怖は、ここで出来るだけ払っておいたほうがいいだろう」
セウラザの手が、縮こまっているメリーの肩に乗る。奮い立たせようとして言ったのだろう、セウラザの声がいつもより柔らかかった。
悪夢の回廊を越えねば王女の元へ辿り着けない。メリーを無理矢理に奮わせるには、最適の言葉である。若く、愚かしい彼女でも、幼き頃より摺りこまれた上下関係を無視することは出来ないだろう。主従関係を越えた友情も抱えているのならば、尚のことだ。
メリーの口から、聞き取れないほどの小声がこぼれる。
王女の名をこぼしたのだろうと、ラトスは片眉を上げた。
やがて道の先に、白い柱が見えてくる。
柱の先にもまだまだ道が延びてはいたが、柱は無造作に道の中心から突き上がっていた。
「ずいぶんと雑に置かれた転送石だな」
「そうだろうか。とにかく、ここから外へ。岩山の上へ転送される。準備はいいだろうか?」
セウラザの言葉に、メリーの身体が固くなる。
やるべきことと分かっていても、心が付いていかないのだろう。
「心配する必要はない」
臆しているメリーの傍へ寄ったセウラザが、彼女の前で膝を突く。どうしたのかと首をかしげるメリーを見上げつつ、セウラザの手が自ら背負っている大剣に伸びた。手の甲で剣の鍔を小突く。カチンと金属音が鳴ると、メリーの瞳が小さく揺れた。
「私は何度か悪夢の回廊へ行っている。もちろん、一人でだ」
「一人でも……行けるのですか?」
「行ける。そして、今は三人もいる。頼れるものは遠慮なく頼ってしまえばいい。そうだろう、ラトス」
セウラザの視線が、ラトスに向いた。
強調するように、彼の腕までもラトスに向かって伸びている。釣られてメリーの目がラトスへ傾いた。
「……まあ。負担を押し付けるほどでなければ、そうすればいい」
「怒りませんか……?」
「努力しよう」
ラトスは両手をひらひらと振り、短く息を吐く。その仕草に、再びメリーの肩が縮こまった。しかしセウラザがメリーの肩を叩き、「大丈夫だ」と念押ししたので、彼女はようやく胸に溜まっていた息を長く吐きだした。




