扉からはじまる 01
現の世界から持ってきていた武器は、すべて武具店に預けることとなった。
馴染み深い友のような武具も、持っていくだけ荷物になると言われたなら別れる他ない。
「お金を払わない代わりですよ」
メリーが言うと、それもそうかとラトスは納得することにした。
この夢の世界から去る時に、馴染みの友を迎えに行けばいいのである。
ラトスは白剣と黒剣を握り、目の高さまで掲げた。
メリーには理解してもらえなかったが、武器との信頼関係というものは大事なものだ。互いに知りつくした上で信を置けば、武具も武具を操る身体も存分に扱うことが出来る。少なくともラトスの胸の内にはそう据えられていて、これまでその考えに疑いを持ったことはない。
ふたつの剣身が、鞘の内で震えだす。
白剣がカチと音を鳴らし、黒剣が熱を発した。
「行こう」
剣に促されるようにして、ラトスはセウラザとメリーに声をかける。
二人がうなずくのを見て、二振りの剣を腰に納め直した。
「まず、外へ出なければならない」
セウラザが言って、腕を伸ばす。その先に目を向けると、巨大な城門が見えた。
「外っていうのは、あの草原……外殻のことか?」
「いや、外殻の上だ。君たちの言い方で説明するならば、岩山の天辺と言うべきか」
「乗れるのですか!? あそこに!?」
ラトスよりも早く驚きの声をあげたメリーが、セウラザに食いついた。無表情な顔がうなずくと、メリーの顔が明るくなる。まるで童女のような反応を示すメリーに、ラトスは上体をそっと退いた。それに気づいたメリーが、一拍置いて肩を小さくし、恥ずかしそうに笑った。
「まあ、俺も乗ってみたいとは……思ったがな」
「でしょう?」
ラトスの同意を得て、メリーが歩きだす。いつの間にかセウラザも先に進んでいたようで、ラトスは二人を追って歩きだした。
向かう先の城門は、最初に訪れた門とは違っていた。造形はまったく同じで大扉を開いているが、落とし格子が下ろされている。衛兵らしき者も数人いて、街の内外を厳重に見張っていた。ラトスたちが近付いていくと、衛兵が気付いて手に持っている槍を握り直した。
「そこで止まってください」
衛兵の一人が、丁寧な口調で言った。
石突を二度、石畳に打ち付ける。
「悪夢の回廊へ行く予定ですか?」
「そうだ」
衛兵の質問に、セウラザが即答する。無表情を叩きつけられた衛兵の目が、セウラザと、後ろの二人に向けられた。間を置いて笑顔を作り、セウラザに対して一礼してくる。
「そちらのお二方も?」
「彼らのことは、私が保証する」
再びセウラザが再び即答すると、衛兵が一歩下がり、笑顔のまま深く頭を下げた。見るからに上下関係を感じさせる立ち振る舞いである。もしかすると、ラトスの分身であるセウラザには強い権威が与えられているのかもしれない。とすれば草原でペルゥが勧めた通り、この先も心強い協力者となるのは間違いないことだろう。
「案内をする者が控えていますが、いかがいたしますか?」
「いや。必要はない」
「かしこまりました」
笑顔を保ったままの衛兵が、後方に控えている衛兵に向かって合図を送る。すると間を置いて、城門の落とし格子がゆっくりと上がりはじめた。その様を、メリーが引き攣った顔で見守っている。
「あの門の先からが……その、悪夢の回廊ですか?」
「いや、違う。もう少し先だ」
「そうなのですね……良かった!」
「おい、メリーさん。どの道行くんだぞ?」
「わ、分かってますよ!」
引き攣った顔のまま、メリーが大声をあげる。同時に城門の落とし格子が開き切り、大きな音が鳴った。
傍にいた衛兵が一礼し、槍を握っていないほうの手で城門を指し示す。
「お気をつけて」
言いながら衛兵が数歩下がり、直立する。握っていた槍の石突を石畳に打ち付け、像のように動かなくなった。呼吸すらしていないのではないかと思うほどに、ぴたりと止まっている。




