武器からはじまる 03
「メリーさんは、その武器だけでいいのか?」
「えっと……そうですね。私は剣しか使ったことがありませんので」
「そうか。まあ実戦が迫っていると思うと、あれこれ試す余裕はないからな」
戦場とは難儀なもので、得手不得手よりも、経験回数のほうが生きやすい。前へ出るのが苦手だからといって初めて弓を使った者が、誤って味方を射殺した様を何度も見たことがある。メリーも実戦経験が乏しいだろうから、使ったことのある剣に集中したほうがいいかもしれない。
二人が話しているところへセウラザの足音が近付いてくる。見ると、彼の手に布製のなにかが握られていた。
「これも使うと良い」
セウラザの両腕が二人へ伸びる。
布製のなにかは、マントのようであった。二人分用意してあり、見た目も違う。ラトスのものに比べ、メリーが受け取ったマントは色が明るく、刺繍もほどこされていた。
手に取ってみると、どちらのマントも驚くほど柔らかく、羽のように軽かった。肌触りにいたっては絹よりも滑らかで、そよ風を撫でているかのよう。羽織ると、身体の動きをなにひとつ制限してくることがない。身に着けていることすら忘れてしまいそうであった。
「これは鎧の一種だ」
セウラザが言うと、メリーが驚きの声をあげた。羽織ったままくるくると身体をひねっては回し、マントの状態を確認しはじめる。その動きに合わせて柔らかなマントが翼のように広がった。
「ずいぶん軽やかな鎧ですね」
「しかし、十分に役立つ。獣の牙程度であれば通さないだろう」
セウラザの言葉を受け、メリーがうなずく。
同時に、物憂げな表情を浮かべ、視線をマントと銀剣に移した。
どうかしたのかと、聞くまでもない。
武器も防具も揃ったということは、前進する準備が整ったということなのだ。様々な重圧を負って、今度は、悪夢の回廊などという嫌な予感しかしない場所へ進む。エイスの裏通りで占い師と出会ってから今まで、何度も繰り返してきた覚悟を、再び心へ決めたに違いない。
「夢の中で現実に向き合わなければならないとは、皮肉なものだ」
こぼすように言うと、メリーが苦笑いした。
「全部終わったら、今度は普通の夢を見ましょう?」
「……ああ。……そう、だな」
何気なく言ったであろうメリーの言葉に、ラトスは重圧を感じた。
普通の夢を見れる機会など、ラトスには来ない。復讐を果たす直前直後も、夢などない。しかしその覚悟をメリーに言うわけにはいかなかった。ラトスはただ小さくうなずき、口の端を持ちあげてみせた。
「そろそろ行くとしよう」
セウラザの声が強く、通り抜けてきた。
二人は声のした方へ向く。すると先ほどまですぐ傍にいたはずのセウラザが、すでに店の外へ出ていた。無表情に、じっとこちらを見ている。こんな場所などもはや用済みと言わんばかりだ。
「……やっぱり、ラトスさんの分身ですよね。ああいうところ」
「俺が悪いみたいな言い方をしないでくれ」
ラトスは両手のひらをメリーに向けてみせた。彼女と出会ってからこの仕草を何度したことだろう。苦い顔を浮かべた瞬間、メリーの頬がゆるんだ。呆れた表情も織り交ぜ、「仕方ないですね」と微笑む。次いで腰に佩いていた銀剣を撫でると、先に店の外へと歩きだした。
釣られてラトスも、腰に納めた短剣に触れる。
黒剣がチリリと鳴き、指先に熱を伝えてきた。その刺激が全身を巡り、奮わせていく。
メリーの先にいるセウラザの目が、じっとラトスをのぞいていた。
ラトスは緩んでいた神経を引き締め直し、足を進めるのだった。




