依頼からはじまる 01
エイスガラフ城への道中、ラトスの足は鉛のように重くなった。
悪感情しか抱いていない心というのは、実に暗く、息苦しい。
加えて、ふくらみつづける復讐心が、ラトスの全身に重りを科していた。
ただの一獲千金を狙う冒険者であったなら。
または、純真な少年のごとき心を持っていたならば。
ラトスの胸中は、城に入れるという期待と喜びで満ちていたかもしれない。しかし、ラトスはどちらでもなかった。殺された妹の復讐を果たすためだけに、足を進めているのだ。
ようやくたどりついたエイスガラフ城を見て、ラトスの心はさらに重く、苦くなった。
何度も見た景色ではあるが、城を包む空気は城下街とまるで違う。
城の周りは白い壁に囲われ、石畳には塵ひとつ落ちていない。その景観を守るため、常に多くの兵が警備にあたり、多くの使用人が清掃に励んでいた。ラトスが塵ひとつ落ちていない石畳に足を踏み入れると、多くの兵と使用人の目が一斉にラトスへ向く。客人に向けられる目ではない。塵に等しい異物を見る目で、にらみつけてきた。
ラトスは無数の視線を気にすることなく、進んでいく。
足の向く先には、門があった。衛兵が二人、門前で直立している。その衛兵の姿は、城下街を囲う城壁の大門にいる衛兵とは明らかに違っていた。兵の体格が良いだけでなく、きらびやかな甲冑に身をつつんでいる。指先ひとつ動かすことなく門外へ気を配る様は、銅像のようにも見えた。
「そこで止まってください」
衛兵の一人がラトスに気付き、丁寧な口調で言った。
槍をにぎりなおし、石突を二度、石畳に打ち付ける。威圧感を受け、ラトスの足は自然と止まった。
「入城のご予定ですか?」
「そうだ」
「用件を窺っても?」
ラトスを見据える衛兵の手が、槍を強く握りなおす。
笑顔を貼り付けてはいるものの、ラトスが害をもたらす者かどうか見抜こうとしていた。
「人捜しの依頼を受けている」
ラトスは無表情で答えた。笑顔の衛兵を見据え、徹底的に平静を装ってみせる。
ここで自身の内にある悪感情に気付かれてしまったら、すべて台無しだ。
「身分証となるものは、お持ちですか」
「ああ、持ってきている」
「確認いたします」
衛兵にうながされるがまま、ラトスは手にしていた証書と紹介状を見せた。それはギルドから発行されたもので、少なくともラトスが不審人物ではないと証明してくれるものであった。書類を受け取った衛兵が、内容を確認しつつラトスの顔をじっと見る。しばらくして、衛兵の表情に緩みが生じた。
「ありがとうございます」
証書と紹介状をラトスに返すと、衛兵の手指が何度か動いた。それは門の奥に控えている別の衛兵への合図であったらしい。素早く駆け寄ってきた年若い衛兵に、ラトスと話していた衛兵が短く指示をする。
「案内をする者が、門の奥に控えています」
指示した若い衛兵が門へ戻っていくのを確認して、ラトスと話していた衛兵が笑顔を向けた。これまでとは違い、少し余裕のある笑顔だ。どうやら一応、ラトスを信用したらしい。
「武器等は、門を潜ったところでお預かりしますが」
「ああ。構わない」
「ありがとうございます」
最後まで笑顔をくずさない衛兵が、ラトスに一礼する。
ラトスも礼を返し、門へ足を進めた。
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