復讐からはじまる 02
「その気分は分かった上で、だ」
ミッドの目が、にらみつけるラトスを正面から見据える。
「まず、依頼を受ければ、城に出入りする機会を得られるだろう?」
そう言ったミッドの指が、埃のつもったテーブルに突いた。指先を動かし、円をえがきはじめる。エイスガラフ城のつもりなのだろう。
「いいか、ラトス。俺たちのような下流区画を出入りする者は、城には入れない。城に入れるのはみな、王族か貴族だからな」
「そんなことは分かっている」
「だがお前が知りたい情報は、城に入らなければ確たるものが得られない。そうだろう?」
ミッドの言葉に、ラトスは苦い顔をする他なかった。
捜すべき≪黒い騎士≫は、ただの強盗や荒くれではない。ミッドがあえて騎士と記したのと同様に、ラトスにもまた、黒い騎士に心当たりがあった。二人の得ている情報が一致しているならば、黒い騎士は間違いなく貴族以上の地位にいる者だ。
エイスの国では、貴族以上の者が強く保護されている。一般人が許可なく近付くことは出来ない。城内はもちろん、城外に出るときでさえ多数の護衛に囲まれている。隙はない。それほど厳重であるのに、情報を得るため城内へ侵入するなど自殺行為に等しい。
「だが、この馬鹿げた依頼を受ければ、特例で城に入れる」
緘口令を敷いているため、依頼を請け負った者は城に入ることが許されているという。となれば、依頼を利用した情報収集だけでなく、死を賭した凶行に走る機会すらあるということだ。
「ラトス。お前の想いは、城の外では叶わない」
「……そうだな」
ラトスはうなずき、ミッドを見据えた。
少し都合が良すぎる気もするが、このあり得ない状況を逃すわけにはいかない。
「馬鹿もやらなくては」
ラトスは声を低くこぼして、ゆっくりと立ち上がる。
身体を動かしたいきおいで、再び埃が舞いあがった。光に照らされる塵が、左右へチラチラとゆれる。やがてそれは光からはずれ、テーブルの上や床に落ちて見えなくなった。
ラトスは消えゆく塵を目で追ったあと、テーブルにえがかれた円を指差す。
「必ず、殺すためだ」
殺意の言葉を隠さず、言い切った。
瞬間、ラトスの色褪せた世界に、黒い靄のようなものがかかりはじめた。
立ち眩みだろうかとも思ったが、そうではない。黒い靄が視界をうばうようにして広がっていっても、身体がふらつく感覚におそわれることはなかった。「なんだこれは」と思っているうちに、黒い靄が身体の奥底に滲みこんでいく。やがてゆっくりと渦巻き、思考を黒く塗りつぶしていった。
このまま、黒く染まってしまえばいい。
頬の傷を引きつらせながら、ラトスの瞳は鈍く輝くのだった。
≪公開できる情報≫
≪エイスザード王≫
数百年前にエイスザードの一族が王位に就き、国名をエイス、王城をエイスガラフと改めた。現在はペルフェトレ=グラナス=エイスザードが第十一代エイス王として統治している。
エイスザード一族は代々長命で、純白の髪を持って生まれる。