下手な説明からはじまる 01
「んー? なんだい?」
「あの浮いている岩山の下にある、白い塔はなんだ?」
「ああー。転送塔のこと? そう。あれはね。中から上に飛ぶんだ。そうしたら……」
「……おい、待て。説明が雑で早過ぎる。まず、その転送塔とやらのことからだ」
「えー? 面倒だなあ。うーん、じゃあ、そう。つまりね……」
あからさまに嫌そうな顔をしてペルゥが話しはじめた。
しばらく聞いていると、すぐに雑で速足の説明になった。どうやら他人になにかを説明するのが嫌いらしい。ラトスはペルゥの説明が雑になるたびに小突いて、出来るかぎりを聞きだしていった。
ペルゥが言うには、この草原は≪外殻≫と呼ばれる地域であるらしい。
外殻には草原から生まれでた数多の岩山があり、その真下に転送塔という名の白い塔が点在している。塔内には白い柱が置かれていて、上空にある岩山と繋がっているということであった。
「その白い柱というのは、移動手段のようなものか?」
「つまり、そう!」
ペルゥが深くうなずく。ラトスはすぐ近くの洞窟内にあった白い柱のことを伝えると、それもまた同じようなものだとペルゥが答えた。白い柱はすべて転送石と呼ばれるもので、外殻だけでなく、この世界ではあらゆる地域で用いられているのだという。
「転送石はね。ふたつでひとつなんだ」
「どういう意味だ?」
「えっと、つまり、そう、ひとつのものがふたつになったんだ」
「……つまり、もう一度長々と説明したいというわけだな??」
ラトスは細かい説明を省こうとするペルゥの頭を掴む。途端に嫌そうな表情を浮かべたペルゥが、ラトスの手の中で悲鳴をあげた。しかしラトスはその小さな頭を離すことなく、再び長く、最後まで説明をさせた。途中、拷問を受けたような声が何度かひびき、そのたびに隣にいたメリーが苦笑いを繰り返した。
「……つまり、元々ひとつであったものをふたつに分けて、元に戻ろうとする力を持ったものが転送石ということか」
無理やりに聞き出した長い説明を、ラトスは簡単にまとめていく。あまりに短くまとめられたので、ぐったりしているペルゥと、傍で聞いていたメリーの目が丸くなった。
「ふぃー……、ふぃー……、うん……、つまり、そう! 分かってもらえて嬉しいよ……!」
「分かったわけじゃない。本音を言えば理解不能だが、この変てこな世界で喚いても意味がないだろう?」
「聞き分けがいいね!」
ペルゥが笑う。その傍で、メリーが頭を抱えだした。簡潔に説明されても、転送石の原理が分からないらしい。見かねたラトスはメリーの傍へ寄り、指先で宙に絵を描きはじめた。
「つまり、隧道のようなものだ」
「隧道、ですか?」
「そうだ。隧道はひとつだが、出口がふたつあるだろう?」
隧道は入口から入ると、道を通って反対側の出口に出られる。逆から行っても同じことだ。転送石は隧道そのもので、ふたつの出入口を繋いでいるに過ぎない。
とはいえ驚くべき技術ではある。魔法といっても差支えない。しかしペルゥの話しぶりを聞くかぎり 、この世界では魔法など当然あるべきもののようであった。船で大河や海を渡る、という程度の思いで転送石を用いているのである。
説明を終えたラトスに、メリーが何度もうなずく。
メリーの隣にいたペルゥも、目と口を大きく開いて、何度もうなずいた。
「分かりやすいね!」
説明のすべてをラトスに委ねていたペルゥが、ぱたぱたと前足を動かす。ラトスはその小さな前足を指先ではじき、追い払う仕草をしてみせた。しかしペルゥが反省した様子はない。むしろ愉快そうに飛び跳ねてラトスから距離を取り、小さな身体を高く浮き上がらせた。
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