風の声からはじまる 01
「とにかく、出口を探そう」
ラトスはそう言って四方の壁を調べようと歩き出した。
瞬間、ささやくような声が、ラトスの耳元を通りすぎた。
「誰だ?」と、ラトスはふり返る。しかし、少し離れたところにメリーがいるだけで、他には誰もいない。首をかしげ、再び壁を調べようとした直後。風のようなささやき声が、石室全体にひびきはじめた。
「なんだ!?」
ラトスは大声をあげ、辺りを見回す。しかし声の主であろう姿はどこにもなかった。
二人が辺りを見回していると、次第にささやき声以外の声も聞こえだした。
怒声や歌声。
泣き声や笑い声。四方から聞こえてくる。
すべては風がうなるようでもあり、言葉としては聞き取れないほど早口だった。
しばらくすると、風のような怒声と歌声だけが大きくなっていった。
石室全体がふるえだす。
メリーが両耳を押えながら、なにか叫んでいた。しかし風のような怒声と歌声にさえぎられ、メリーの声を聞き取ることは出来なかった。ラトスは耳を押えて、メリーのほうを向きながら首を横に振る。
やがて風のような歌声だけが、二人の周りに集まりだした。身体の周りを這うように、歌声が走っていく。ラトスは両手で声を掃いのけようと試みたが、なんの効果も得られなかった。むしろ、その手の周りも歌声が這いまわり、不快感が一層増していく始末。
「怖い! 怖い! 怖い! 怖い!」
メリーの声が、風の声にまぎれて聞こえだした。
どうやら、怒声と歌声が徐々に静まりはじめているらしい。
「なんだ、この声は」
「怖い! 怖い! 怖い! なんです!? 本当に!」
収まりつつある風の声よりも、メリーの声が大きくなっていく。メリーの身体にも、声が這いまわっていたのだろう。不快な感触を全身を手で掃いながら、叫びつづけていた。その様子を見た途端、ラトスは冷静さを取り戻した。腕を組みつつ左右を見渡し、消えゆく声を探す。
「……っと、ちょっと待て」
四方の壁のひとつに顔を向けたまま、ラトスはメリーの声を制した。




