表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傀儡といしの蜃気楼 ~夢の世界のものがたり~  作者: 遠野月
重い未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/285

重い未来からはじまる 03


「外か。貴族なら旅行ぐらいできるだろう」


「そうじゃないんです」



 メリーの目が、ラトスへ向いた。その目に、困惑と虚しさが宿っている。

 何か思うところがあるのだ。メリーの目には、明らかな失意の色がある。心の奥底に影を落とし、喘いでいる。



「私は、そそっかしいでしょう?」


「そうだな」


「失敗も、たくさんしました」


「そうだろうな」



 ラトスが即答すると、メリーが苦笑いした。



「私の一番の失敗って、何だと思います?」



 苦笑いしたまま、メリーがぽつりとこぼした。

 「さあな」と、ラトスは首を横に振る。他人の失敗など分かるつもりもないし、知りたいとも思わない。特にこれからは、失敗から学んで今後に役立てる人生もない。



「私は……フィノアと、私の家族を危険な目にあわせてしまったことがあります」


「王女をか」


「そうです」



 そう言ったメリーが、淡々と語りだす。

 メリーは幼いころ、度の過ぎた遊びにより火事を引き起こしたのだという。瞬く間に燃え広がった火は、メリーの屋敷を全焼させた。その結果フィノアを含めて、メリーの家族と多くの使用人が危険にさらされた。幸い死者は出なかったらしいが、それはただ運が良かっただけと言えるだろう。そして幼いころにそれほどのことがあれば、トラウマとなってもおかしくはない。



「だが王女との様子を見るかぎり、大したお咎めは受けてないのだろう?」


「……そうです。むしろ私は無罪放免となりました。無事だったフィノアと、陛下の計らいがあったからです」


「そいつは傷を抉る計らいだな」



 どうせならいくらかの罰を受けたほうが楽というものだ。

 罪悪感を覚えていた子供に、無罪放免の扱いは酷かもしれない。



「なるほどな」



 ラトスは、メリーと旅してきた短い期間のことを思い返した。

 メリーには、妙に失敗を恐れる様子が多々見られていた。失敗を恐れるあまり、些細なことにつまづく傾向もあった。何か理由があるのだろうとは思っていたが、なるほどとラトスは腑に落ちる。



「つまり、逃げたいのか。外の世界に」


「最初は、そうでした。フィノアと森へ出かけた時、私は心のどこかで逃げることを望んでいたかもしれません。もしかしたら……今も」


「今はそうでもないと思うがな」


「変わりたいと、思っています。この旅で、私は足掻きたくなったのだと」


「そいつは、お強いことだ」


「強くなろうと、思わされたんですよ」



 意を決したように、メリーが言った。

 ラトスは首を傾げると、メリーが苦笑いする。しかしメリーの目に、これまでの暗さはなかった。この夢の世界でなにかを得て、この先を見据えられるようになったのだろう。


 この先。未来への言葉。

 ラトスにとって重いものに聞こえた。かすかな息苦しさを覚え、目を閉じる。

 未来など、ラトスには無かった。現の世界へ戻ったら、復讐を果たし、死ぬ。それだけなのだ。そう考えているラトスが、メリーの言葉を汲み取ろうとするのは烏滸がましい。



「すまないな」


「どうして、謝るのです?」


「やはり、忘れていた」


「ですよねー。ひどいなあ!」



 メリーが頬をふくらませる。拳を作り、ラトスの肩を軽く叩いた。

 肩に触れたメリーの拳は、痛かった。貪食の夢魔に受けた傷よりも、重く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ