重い未来からはじまる 02
「……ラトスさん」
暗い考えをめぐらすラトスに、メリーが声をかけてきた。
「なんだ」
「……あの、ごめんなさい」
「何のことだ」
突然の謝罪に、ラトスは首を傾げる。閉じそうになっていた目も開き、メリーの顔を覗いた。
メリーの表情が歪んでいる。無理やりに作ったような笑顔で、ラトスの顔を見下ろしていた。
「私の不注意で、こんなことに」
「それは、もういい」
「そういうわけには」
「俺の不注意でもある。これ以上の謝罪は要らない。分かったな?」
「……はい」
メリーが項垂れる。
ラトスはもう少し器用に励まそうと思ったが、言葉が出てこなかった。適当な気休めを言えば、互いに良くないとも考えてしまい、さらに口が重くなる。こういう時、ラトスの口下手を叱るシャーニの顔が思い出された。もっと優しく言ったほうがいいと、よく言われたものだ。
「私は、生きて、帰りたいです」
項垂れたまま、メリーが言った。
「……そうだな」
「帰って、やりたいこともありますから」
「そうか。……なら今後はお互い、もう少し上手く戦わないとな」
「そうですね……」
メリーの声が小さくなった。
また優しくないことを言ってしまっただろうか。ラトスは眉根を寄せて唇を結ぶ。
「……やりたいことっていうのは、なんだ?」
間を置いて、ラトスは聞いてみた。
いつものラトスなら、こんなことは聞かなかったろう。しかし今のラトスは暇だった。動けないのに眠ってはならないという苦しみの上にいる。そのうえ隣には、空気の重い人間がいる。どれかひとつくらい解消しなければ居心地が悪くなる一方だ。
「……外の世界を、見てみたいことですね」
「外だと?」
変わったことを言うなと、ラトスは思った。
メリーは貴族の娘だ。金にものを言わせればなんとでもなる気がする。それとも、外の世界というのは隠喩なのか。ラトスは数瞬の間に考えを巡らせつづけたが、答えを見つけることは出来なかった。
「……ラトスさん、なんのことだか分からないって顔ですね」
「そうだな」
「……もう。約束、したのに」
「約束だと?」
「……ラトスさん、本当に忘れてるのですか?」
メリーが訝し気な表情を見せる。
ラトスは表情を変えないように努めつつ。メリーの言っている意味を探ろうとした。しかしどうも思い付けることがない。
「外の世界に連れて行ってくれるという、ラングシーブさんへの依頼の話ですよ?」
「……ああ。そうか」
「忘れてましたね」
「忘れてない」
「嘘つきだなあ。……でも、思い出したなら良いです」
メリーが頬をふくらませ、そっぽを向く。
そんな話もあったなと、ラトスは悲嘆の夢魔と戦う前のことを思い出した。
完全に忘れていたわけではない。
ただ、重要なことと思わず、頭の隅に片付けていただけであった。
しかもあの時は、悪夢の回廊を突破して王女を救い出すことが第一であった、そして復讐を果たすため、王女を現の世界へ連れ帰る。今もあの時も、ラトスの内で重要なことはそれだけだ。




