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ひねくれ少女は自分の生きる意味を真剣に考えたい  作者: 日向日向
第一章「篠崎奏音は空想だけで生活したい」
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第3話「これを荒治療でなければなんていうの?」

評価ありがとうございます!

モチベが上がりますね、やっぱり。

 昨日は、着の身着のままずぶ濡れの体勢で家路に着したため、晴れて高熱に冒された。風邪から復帰したその日の朝からおよそ数日、具体的に言うと朝から夕暮れまでいっぱいを活用して自身の現象の研究に費やした。

 

 第一に、体から魔力的なものが流出させる感覚を、我が物にする。先日までは派手なことをしない限り、そのような流出に気付くことができずにいた。理想は、限りなくゼロに近い流出でさえも理解できる程の集中力を習得すること。加えて、それが極度の疲弊時や混乱時でも途絶えずに出来る程の余裕を身につけること、そうでなければ、またも頭痛に打ち負けて卒倒し、制御を失う。


 第二に、許容量の底の逐次把握だ。

 流出を我がままに把握できても自身の限界値を正確に理解していなければ、許容量を簡単に超えてしまい倒れてしまう。それではまるで意味がない。だから、それを逐一記録するようにしている。方法は実にシンプルで、だけど荒治療感が否めないものだ。

 というのも、先ずは力を酷使してぶっ倒れるとこから始まる。

 そこで現状、どのような命令を併用すると、どれ程の魔力の流出が起こるかを把握し、倒れる段階でどれだけ流出が起こったかを記録し、それを最低値としてそれ以降の良し悪しを判断する。

 と簡単に説明していても、実際はなかなかに難しく、血反吐をはきながら何度も倒れる始末だ。それに、許容量の増大の振れ幅が結構曖昧なので、直前の記録が全くの無意味になることもままある。だけど、これは決して欠かせない研究だ。

 

 第三は、許容量の増大法の確立だ。

 初めて力を使った時、部屋の物体で遊んでぶっ倒れた時、自然災害レベルの失敗をした時と、三度の使用を経て、明らかに許容量の増大が起こっている筈だ。単なる壁を作るのと、洪水を起こすとでは許容量の差は雲泥の差である。

 

 そこで私はある仮説を立てた。

 「許容量を超えるか限界まで魔力を使えば、増大するのではないか?」だ。

 許容量の最低値の把握の段階で何度も倒れては復帰、そしてまた卒倒を繰り返したものだから、いつの間にかそこそこのデータになっていたようで、裏付ける統計を取るには十分だった。私はその仮説が限りなく真に近いとし、それ幸いにと最低値の変化の計測を多様な力の実験と並行して行い続けた。


 苦節数週間、ようやく調節の術を実地で習得することに成功し、ぶっ倒れる回数が圧倒的に減っていった。

  其処からは、かなりの速度で研究が進んだ。

 わかったことは、実際に存在する物を通貨のように支払うことで、何らかの別なる事象に置き換えることができるという性質だ。物質同士のやり取りの際に、エネルギーとして体力が消費される仕組みというべきだろうか。体力消費の仕組みを理解したのは、先の調節ミスをしたことによる二次災害と、実に恥ずかしい話なのである、言ってしまえば。

 後先考えずにやれ実験とやたらめったらに体力の消費を実行し続けた結果、強烈な目眩を誘発させて呆気なく地面に落ちてしまう。本来なら落葉の絨毯が羽毛よろしく私を抱擁する筈だったのだが、なにぶん、実験の毎に消費してしまうものだから、我が身を支えるクッションになる程の量は残っていなかった。そこにあるのは、硬質な土の地面のみ。軽く打ち身になってしまった。


 しかし、其処にも新たな発見があったということが不幸中の幸いとも言えた。

 打ち身に悶え、我が足で帰宅する程度の体力さえも枯渇した自分が、その体力の残滓を駆使して現状を打破しようと考えた策は、治癒だった。有り金全部をなんらかの物質に注ぎ、還元できるのではないか、と。

 結論から言うと虚しく閑古鳥が鳴いただけだった。

 結局、その場で数時間の滞在を余儀なくされた。その間際に掌大の鳥が私の手足に止まり、好き勝手し始めていたが、鳥葬される様子だけはなさそうなので身を任せることとした。

 

 体力がある程度戻り、今しがた就寝時にその現象をまとめてみた。

 自身の筋力や脚力を一時的に増強させることはできても、体力回復や治癒などはできそうになかった。だが、そう悲観することはなかった。だって、回復があることに甘えてしまうと、実戦になった時に締まらないからだ。要するに、回復アイテムでごり押してゲームをクリアしてもあまり達成感がないのと同じようなものだ。

 何かを素材に壁を作ることとかは難なくできたから、外面に関することは問題がないのだろう。このまま体力の壁を気にしないでの訓練では、ある段階で頭打ちになってしまうだろう。ある程度力を使っても立ち回れる程の体力をつけなければ。


これこそが、具体的な方針としてなっていくだろうと私は決めた。





 その翌日というと、明朝からどうしてか市井まで連れ出された、我が親の手によって。

 今は二列に座席が分かれた馬車の後方部に私は座らされている。これまた数日間過ごしての感想だが、この家は貧乏というわけでは決してないが、特別金持ちというわけでもなさそうだ。また、借り物の馬車を重宝しなければ満足に遠方の街に出向くことさえもままならい程に街は遠いらしい。

 当然言葉はわからないから父母の真意を掴むことはできない、が、敵意はいつだって無いことだけはわかるから、少しばかしの安堵こそはあるが、慢性的に意図が掴めないのはやはり怖いものがある。

 どうにかできないものか。

 そう思案に暮れていると、ふと失念していた事実に気が向いた。

 肌身離さず携帯していた少女の体躯には些か大きな、無地の書籍を思い出した。

 

 私としていたことが、どうしてその発想に至らなかった?

 その本で能力を使えば、言葉の節々くらいは把握できるのでは?

 水や炎、それを無差別に量産できるのだから……やってみる価値はある筈。

 

 ようし、と一念発起。


 何か、通貨として使える代物を鞄の中から模索する。すると、あった。菓子類だ。私が今いる家庭では(時計たる物が見当たらないため、厳密な時間の流れは掴めないが……)ある時刻でおやつを嗜む時間があった。

 真心か、私を単に肥えさせたいだけかはてんでわからぬが、やたらとその菓子の量が多い。時折母親なる人物が鼻歌交じりに夕食時でもないというのに台所で料理に耽っているのを観察する辺り、生来の料理好きなのだろう。それが興じてこの物量と言われれば、納得がいく。余談だが、どれほど実験に精を出していても、一度はその時刻に顔を出さなければ母親は不機嫌になり、私に説教をする。言葉こそはわからないが、雰囲気でわかる、でしょ?

 とは言いつつも、少女の胃袋では到底敵わない、皿の上に山積された菓子類。大変美味であるため、無碍にするのも心が痛い……というわけで、手近な巾着袋のような、安価な紐と牛革で作られた袋に収納して、持ち運ぶようにしている。

 それを通貨にしようとするとは少し、気が引けたが仕方がない。この世界で人権を獲得するためには致し方のないことだと自分を正当化させた。


 少しの間の逡巡を終え、実行に移す。

 すっと適当なクッキーを一枚手に取り、すうっと息を吸い込む。


(父さんと母さんが前でなくてよかった)


 見られても然程の問題もないが、言葉が未習得な現状であれやこれやと問い詰められても厄介だ。あと、父さん、母さんと呼ぶことには不思議と抵抗はない。なんとなく元の世界の父母の記憶が戻りつつあるからこそだろうか、ともかく、面倒を見てくれるのだから感謝の限りだ。

 狭い密室空間であるから、少しだけ小振りに円を描く。

 ある程度描き続けると、本がまた自動的に捲られだす。


(そういう仕様なのかしら?)


 とか呟いていると、クッキーが消えた。

 その後はシン……と静かになる一方でそれといった反応はない。


(変化はあったのだろうか?)


 なにぶん、言語とかいう概念的な話でイメージが湧きにくいし、結構疲れる。

 とか思いふけっていると、父さんの方から私に話しかけてきた。


「カノン、……から……学校……」

(あれっ!?)


 不完全ではあるが、勝手知った言葉が聞こえている???

 節々に途切れるのは日本語とは違う特別な文法か何か、或いは支払う通貨が少なかったんだろうか。だがまぁ、単語が聞き取れればそれだけで相互理解の可能性が数倍に飛躍したのだからそれでよしと思うべきだろう。

 しばらくはこれに頼ることになるのだから、節約しないと。


「今から、どこに?」

「学校……。これから……受ける、試験」


 理解できるって最高!

 それだけで必要な情報としては十分だった。それに……この展開はこちら側としては願ったり叶ったりだった。どうにかこうにか試験を通過し、入学さえできれば言葉を学ぶのも当然だがそれ以上に世界を知ることができる。

 スクールライフなぞに微塵も興味が湧かないが……いい傾向だ。


 私は一般の人とはベクトルが違った喜びをゆっくりと嚙みしめようと思った。


 さしあたっての意思疎通問題……解決!



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